阿呆鳥は己を知る者の為に生き、壮士一たび去って復た還る

 伝説の刺客にして稀代の詩人・荊軻の生き様を壮絶に描き上げた左安倍虎先生がまたもやってくださいました。
 精緻に描かれた剣と魔法の世界の中で、一人の詩人が大国を相手に渡り合い、その侵略の魔手を払い除け、己の因縁に一つの決着をつける大人の為の物語です。

 氏の傑作である易水悲歌において、主人公である荊軻は死して多くの者の胸に生きた証を遺します。
 ですが、今回の物語において主人公のウィルは生きて戦い続けることによって多くの者を救います。
 この変化に、氏の作品を追っていた私は注目しました。
 易水悲歌は誇りを描き、死と悲しみに彩られた美しい物語でしたが、阿呆鳥は生きてどこまでも飛び続け、数多の人に夢と希望と詩の羽根を振りまきます。
 この作品は生命賛歌なのです。
 美しさはいずれの作品も同じなのですが、この作品の中には氏の作品に有る命への讃歌が強く織り込まれていて、その分私には好ましいものだと感じられました。
 
 作中、ウィルは己を阿呆鳥だと言っています。ですが彼のような智者に阿呆だなどととても呼びません。故に私は彼を天を信じ、人事を尽くした智者として、信天翁と呼びたいと思います。

 どうでしょうか皆さん。阿呆鳥の英雄譚にしばし耳を傾けてみてくれませんか?
 

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