第3話 別離と筆記試験

 フローエ姉妹の簡素な家の玄関に立て掛けられた二台のチェイサーが如実に始終を物語っていた。とはいえユーゴ・ビアンキは嫌な顔一つせず気前よく自社のショールームからチェイサーを選ばせてくれその旨リリーに何度も感謝を伝えていた。

 抜群の運動センスであっという間にチェイサーを乗りこなす姉エリーに対しリリーは立つことさえ悪戦苦闘の連続であったがそれでも姉の指導の下、ものの一週間で乗りこなし、友人達と二輪車で言うところのツーリングに出かけるには十分に操作のコツを心得るに至っていた。

 この日もリリーは朝早くから友人達の下へとチェイサーに乗り動力部の水の結晶を魔力で輝かせ、危なっかしく蛇行する水流のように発進させると家事当番の姉に見送られ出かけて行った。

 炊事、洗濯、掃除を済ますとエリーは疲れきったようにソファーに突っ伏した。約束事があったのだがそれでも時間はまだあったので一眠りしようか考えてもみたが一旦外へと出ると無性に使命感めいた焦燥感に襲われた。それは誰かに呼ばれているような感覚であった。

 エリーは秋の高い空を見上げ、太陽に目を眩ますとふと気がかりになった教会区へと足を伸ばす事にした。

 あの一件から十日余り、アンヘルは未だに登校ぜずにいたことがエリーは気になっていた。戒律の厳しい教会から罰を受けてるのではないかとすら心配し、友人として訪ねては彼女の様子を知りたかったのだ。

 教会では日曜のミサが執り行われていた。正門からは神父や修道女、信者達が列を作りまるで信仰心ごと荘厳な教会の門に呑み込まれているようであった。

 エリーはそんな景色を傍目に裏へとまわり孤児院の質素な扉を叩いてみるが何の返事も無かったのでそっと扉を開いてみると鍵は掛かっておらず錆び付いた蝶番の音と共に軽々と開いた。

 エリーは再び声を上げて呼んでみたがやはり返事はなくきっと皆ミサの方へと出向いてるのだと思い、やむ無く断り無いまま孤児院内へと入ってみることにした。

 玄関口の壁には幸い入居者の部屋番号がボードに書かれていたのでアンヘルの部屋はすぐに解った。クローネン十三号室。

 板の間の廊下は回廊となっていて左手には小さな庭があり石の彫刻を施された噴水が水を上げていた。エリーは右手に見える部屋番号を数えながらアンヘルの部屋を見つけようと回廊を一周したが部屋番号は十二番までしか見つからなかった。その代わりに途中で階下へと降りる階段を見つけたのでそこをおずおずと降りてみることにした。

 薄暗く足元の軋む階段を降りきると、廊下へと出て突き当たりに見える扉から光が漏れているのを視認出来た。十三号室と番号が打たれている扉のその隙間からは話声が漏れてくるのが聞こえるがその声はエリーの良く知るアンヘルのものではなかった。というより人の声ですらないようだった。

『感情形成同調率九十パーセント、記憶復元率八十パーセント、外部認識率五十パーセント・・・・・・』

 そっと扉の隙間から部屋を覗くとそこは入居者がいる筈なのに生活感が皆無な無機質な部屋で、人の気配も無くコンクリートに四方を囲われ、簡易ベッドが隅に置かれただけのまるで牢獄のような部屋であった。

 中央には黄緑色の溶液に満たされた巨大な試験管が設置され辺りを仄かに照らし、何かの実験室のように試験管から繋がれた機械端末の音声だけが響いていた。

 エリーは扉を開け試験管の中をよく見ると一糸纏わない姿でいたが、それは紛うこと無くアンヘルであった。

「どうかしたのかね」

 突然に背後から声をかけられたエリーは硬直した。恐々と振り返るとそこには司祭服を着た老齢の男が微笑みながらエリーに尋ねていた。

「あの、友達の様子が心配で、その」

「アンヘルの友達かね?つまり魔法学園の生徒だね?」

「はい、エリー・フローエと言います。勝手にお邪魔してごめんなさい」

 老司祭は和やかに応えた。

「いいんだよ。アンヘルの友達なら歓迎しよう。ただ彼女は今眠っているから済まないが機を改めてくれないかな。それと今度からは事前に私達に見舞いに来るよう伝えてからにしてくれるかい?」

「はい、勝手にすみませんでした」

「物分かりの良い子だ。そこまで見送ろう。暗いから足元に気をつけたまえ」

 エリーは司祭に促されるまま後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。最後に培養液を見たときアンヘルと目があった。そんな気がした。

 玄関口まで送られるとエリーが訪ねた。

「アンヘル、大丈夫なんですか?」

 老司祭はエリーの心配そうな瞳へと応えた。

「勿論だとも、君の見た通りああやって最新の集中治療用の神械に浸っていれば来週にでもまた元気に登校できる様になるからね。何も心配することはないのだよ」

「はい・・・・・・」

「わざわざありがとう、君に祝福があらんことを」

 そう言って宙で十字をきるとエリーが市街地に出るのを老司祭は見送った。


 試験管の中のアンヘルがゆっくり目を開き辺りを泳がせる。

「宜しいのですか?彼女は感づくことはないでしょうか」

 一人の修道女が老司祭へと疑問を呈した。

「問題はなかろう。エリー・フローエ・・・・・・彼女は直情的な人間の様だ。その心配はあるまい。それより今はエルス姉妹が問題だ。我々のアンヘルをここまで破損させたのだ。山積する問題を少しずつ片付けなければならない上、実施試験ももう近い。まずはこのアンヘルにあの姉妹のデータを収集させなくてはならない。場合によっては三体目での参戦もやむを得ないだろう」

「出来るならそれは避けたいものです」

 もう一人の修道女が応えた。

「いずれにしても我々が先か彼女の覚醒が先か、鍵はやはりエルス姉妹にある。手をこまねいている場合ではないかも知れんな」

 老司祭が十三号室の奥まった壁へと手を触れパネルを開くと機械音声の要求通りにパスワードを入力し首から下げた分厚い金の十字架に赤い宝石が嵌め込まれたロザリオをかざした。『パスワードクリア、ホウオウノカギショウニン』すると更に地下へと降るエレベーターが現れアンヘルを除く三人は地下へと降っていった。

「首尾はどうかねストレングス」

 老司祭が厳格な口調で訪ねると名を呼ばれた白衣姿の肩に三頭の頭を持つ毛足の長い子犬を乗せた少女は不機嫌そうな顔で周囲をパイプやケーブル、幾つもの試験管や端末で囲われた部屋を見渡しぞんざいに応えた。

「なんか問題があるように見えるか?」

 中央の端末背後にあるガラス窓の向こう側、一番巨大な青白い溶液で満たされた試験管の中で膝を抱えて眠る少女を老司祭は見据えると、不適な笑みを浮かべ口元を抑える様に呟いた。

「目覚めが待ち遠しいものだ。その時こそ全ては我々の手中に・・・・・・では引き続き後を頼むよストレングス」

 三人が踵を返してエレベーターへ戻るのを見て白衣のストレングスと呼ばれた少女は愚痴る様に呟いた。

「ちっ、法王の人形どもが」


 時刻は正午を回った頃、エリーは休日の筈の学園の正門に到着した。

「あれ、時間ピッタリじゃない、どうしたのエリー」

 先に着いていたメグともう一人ユディトが私服姿で待っていた。

「やあ、いやねユディトを待たせたら悪いと思ってさ」

「そういう気遣いは私にもしてくれる?」

 頬を膨らませてメグが抗議した。

「遅刻魔だと訊いたばかりだが」

「そんなことないよ、メグがせっかちなんだよ」

「そうやって猫被って!筆記試験手伝わないからね」

「ごめんねメグたぁーん」

 猫なで声で機嫌を取るエリー。もはやこれは通過儀礼の一種であるとメグは肩を落としてみせた。その様子にユディトが小首を傾げながらも三人は学園内へと入っていった。

 目的はユディトの持つ兄の形見であるという神械の調査であった。

 本来ならば先日の放課後に調べる手筈であったが、ロザリヤとアンヘルの件でそれどころでは無かったり、ベテラン教師の不在であったりとなかなか時間が噛み合わなかったのだが、エリーが率先してユディトの袖を引くように半ば強引に休日である日曜日に集合する事で漸く折り合いをつけるに至ったのである。

 三人は早速、勤続四十年というベテラン教師のテルミン先生の元へと向かいユディトの持つ疑問を問いかけてみた。だが拡大鏡で神械を睨む険しい顔が全てを物語っていた。偶然にも光属性を持つ教師も出勤していたことから協力を頼むのだがユディトと同じく蝶の装飾を魔力で七色に輝かす事しかできなかった。ユディトの淡い期待は外れ、嘆息をつく事にしかならなかったが教師テルミンはこのままでは教師の名折れと特別に図書室の資料室を開放してくれる許可を出してくれた。それが精一杯の努めであったが三人は大いに感謝した。

「あそこならきっと見つかる筈だわ」

 メグが息巻いて先頭を行く。

「そんな特別な場所なのか?」

 ユディトには解らなかったがエリーは背中を押した。

「普段はねぇ開かずの扉なの。図書館なら街にもあるけど、こと魔法と神械についての資料なら今から行く資料室の方が豊富に揃ってるんだよ。そこならきっとその神械の手がかりにもなるよきっと」

 三人は司書も利用者もいない図書室へ教師から預けられたパスカードを切って入る。

 普段とは違うその薄暗い見通し、空気の淀んだ部屋を突っ切り、そのまま司書室の奥にある資料室のパスワードを教わった通りに入力し、まるで巨大な金庫の様な堅牢で重厚な扉を開き中へと入って行った。

「さてどうやって手をつけようか」

 円形の筒状になってる書架が上部へと聳える数百、数千の本棚を前に、勉強の苦手なエリーは軽い目眩を覚えながらも気をしっかりと保ち立案した。

「取り敢えず神械のファイルを見つけたらいいんじゃない?」

「エリーねぇここに神械の資料がどれだけあると思ってるの?」

 エリーが抱いた印象とは正反対の様子のメグが応える。

「じゃあ光の神械について」

「うーん弱いわねぇ」

 そこへプロペラを付けた四角いモニターにアームを生やした神械がパタパタとそのアームを羽ばたかせながら二機、三機とフラフラやって来た。

「なんだこりゃ」

「膨大な資料の中から必要な資料を持って来てくれる神械よ。通称パタちゃん」

「パタちゃん?」

「そう」

 メグはその中の一機を抱き寄せる様に手もとへと引き寄せると、手慣れた様子で顔の様 にも見えるモニターをタッチする。

「ケンサクヲシマスケンサクヲシマスキーワードヲニュウリョクシテクダサイ」

「なるほどパタちゃんには検索機能が付いてるのか」

「それでキーワードはどうしようか」

 念を押すメグにユディトが物は試しと発案した。

「光の神械に蝶のオブジェではどうだろうか」

「そうね、取り敢えずそれで検索かけてみましょ」

 そこいらに飛んでいる他の数機も呼び寄せ三人でパタちゃんにキーワードを入力し検索をかけるとパタパタとパタちゃんは一斉に飛び立って行った。

 どれだけ膨大な量の資料が運ばれてくるか三人は覚悟を決めていたが一機のパタちゃんがものの五分でたった一冊の資料をアームで掴んで持ってきたのに三人は拍子抜けした。

 表題には『ブラッドパピヨンの歴史』と記された本で、装丁も古く所々傷んでいたがなんとか文字は読む事が出来た。

「そうか、パピヨン!」

 エリーとメグは同時に声をあげたのにユディトは首を傾げる。

 パタちゃんが賢く栞を挟んでいたので頁を開いてメグが読みあげた。

「えーっと、七色の神械。それはパピヨンがパピヨンである為の証。法王から与えられ、法王に誓いを立てるが為に、時には剣に時には盾へと変幻自在に変化する神械である。七人からなるジャック、クイーン、キング、エース、そして一人のジョーカーと二人のゴーストはその命を法王へと預けた対価としてこの神械を手にするーー」

「パピヨン?パピヨンとはなんだ。そこへ行けば兄に会えるのか?」

 迫るユディトにメグが応えた。

「うんと、パピヨンっていうのは法王直属の精鋭部隊の事よ。他には誰にも従わない、例えそれが王族であろうと枢機卿であろうと誰であろうとね。法王の命令だけで動く部隊。だけどあまりいい噂は訊かないわ。法王の警護は勿論だけど敵兵への拷問に要人の暗殺に味方への粛清。正式名ブラッドパピヨン、文字通り血生臭い話ばかりよ・・・・・・」

「そんな機関に兄がいるというのか」

「パピヨンのみに与えられているその神械が示す通りなら恐らくね」

 俯き下を向くユディトをフォローする様にエリーが小さな可能性を示唆した。

「でも、本当にユディトのお兄さんがパピヨンであったならその神械を置いて消えてしまう筈はないと思うの。きっとなにか訳があってのことなんじゃないかな」

「訳とはなんだ」

「それはわからないけど、記録にある通り契約を果たしているのならそれをいたずらに放棄して失踪するなんて事はないし出来ないと思う。なにか秘密裏に動かなければならない事情があるとか、それでも神械を残して消えちゃう理由にはならないけど、もし反旗をひるがえして脱退を望んで『粛清』なんてことになっているならその神械も当然既に回収されてる筈でしょ?」

「確かにそうね。それがここにある以上粛清を受けている確率は低いわ。きっとこれはユディトへ残した何らかのメッセージであるって考えた方が自然かも」

 と同意するメグ。

「そうだね、もう少し読み込んでみようよ」

「私へのメッセージか」

 ユディトは兄の人物像を思い出の中から考察した。面倒見が良かった兄、ユディトが壁にぶつかるといつも真っ先に手を伸ばしてくれたし、どんな困難も真正面から正攻法で挑んでいたその実直な後ろ姿、そんな姿に憧れ駆け寄ると危険性を危惧して決して近寄らせなかった一見冷たくみえる優しさを持つ兄だった。それなのに今回は手掛かりを残したまま消えてしまった。

 三人はパタちゃんにパピヨンに関する資料を集めさせては神械についての箇所を中心に重点的に読み込んだのだが、どの資料にもその点が深堀りされた記述は一切無かった。

 日も陰り、夕闇が窓から染み込み資料室を赤く染め始めると三人は資料の山に仰向けに倒れ込んで天井を仰いだ。

「ふぅ、これだけ読んでも一つもないなんて」

「ほんとに、幽霊を相手にしてるみたいだわ。記述が一切無いんだもの」

 エリーとメグが徒労感と暗澹とした先行きに愚痴り始めるとユディトが決心したように口を開いた。

「確かめるにはやはりパピヨンに探りを入れるしかないか」

「どうする気よ。まさか法王様をどうにかして炙り出そうなんて考えてないよね」

 半身を起こしメグが語調を強めて諌めようとする。

「そんなこと!」

 エリーもメグに続いてユディトの考えを真っ向から否定に走ったがユディトは意外に冷静であった。

「大丈夫、私だってそこまで大胆じゃない。ただ、どうしたって繋がりを求めなきゃならない。それは魔女を目指すあなた達とは真逆の道」

「そんなこと!このまま魔女の資格を賜ってからでも!ユディトなら・・・・・・」

 エリーは自分で言葉を発しながらもその矛盾に気づいていた。それでもなんとかしてユディトの言動を抑えたかったがメグが事実を見せるように言葉を阻害した。

「エリー、この国の宗教は魔女の存在は認めていても関知することは認めていない。法王様から洗礼を受けたなら修道女として生涯教会区に属さなければならない。わかるでしょ?」

 俯くエリーへ微笑む様に声をかけるユディト。

「ありがとうエリー。あなたがいなければ私はこの決心まで至らなかった。あなたが私の閉ざしていた心を開かせてくれたのよ。メグ、貴方もね」

「本当に他に出来る事はないの」

 エリーの問いにユディトはにこやかに応えた。

「出来る事なら私とずっと友達のままでいてくれる?」

 エリーは力強く頷いた。

「メグも」

「当たり前でしょ」

「ありがとう」

 ユディトは少し照れくさそうに二人の肩を抱いた。抱いた肩は少し震えていた。自分もきっと震えているのだと、ユディトは素直な気持ちを二人に伝える事が出来たのだとそう思えた。

「私、洗礼を受けるわ。あなた達が私の最初の友達で良かった」


 翌日のクラスの朝礼にてユディトが魔法科の籍から外れた事を担任から告げられた。

 いつも彼女が黄昏ていた席は空席となり、開け放たれた窓からそよぐ風が虚しく通り抜けエリーの前髪をそっと撫でた。


 筆記試験の時期が魔法科の生徒に迫っていた。

 エリーはメグをコーチに必死に勉強をした。それはユディトを送り出した事も気概の一因となっていたのであろう。かつてないほどの勉強量で学園でも家でも常に机に向かって、メグすらたじたじになる程だったし、周りの生徒からの当惑も軽い噂になる程に熱意を感じた。

 各クラス筆記試験上位五人とゆう実施試験への参加権を巡って静かな争いの幕は上がり、そして生徒達の寡黙な知慧の攻防を持って幕は静かに下ろされた。

 後日クラスの廊下に成績順に貼り出される結果にエリーは自信を持って臨んだ。


「それでそれで?結果はどうだったの?」

 ルーナルは優しいトーンで二人に訪ねた。

 エリーはこんなにも惨めな思いをしたのは初めてだった。こんなにも悔しい思いをしたのは初めてだった。

 問題の出題範囲も完璧に押さえていたし、苦手科目に於いては基礎から勉強しなおした。珍しげにメグに誉められても何時ものように調子に乗らず繰り返し繰り返し予習と復習に励んだし、得意科目も疎かにせず寧ろ伸びしろを伸ばして複雑な応用問題にも適応できる様になっていた。

 当人はおろかメグですら五位とは言わず三指に入るのではないかと思う程の勉強量であったにも関わらず、今こうしてルーナルの前で膝を着き泣きべそをかいているエリーは結果六位となり、実施試験への参加権をあと一歩のところで逃したのであった。

「どーじで、どーじでなの」

 目の前で頭を垂れる友人にルーナルは哀れみの眼差しを送る事しか出来なかった。

「あらあら、可哀想にそんなに泣かないでエリー」

「ユディトと約束したんだ。ユディトの分まで頑張るって、私頑張ったよね、そうだよねメグ」

「そうね、頑張ったわよ。それは私が一番知ってるし保証する。けどね、きっと他のみんなも頑張ったのよ。・・・・・・まぁ一位で満点取ってたリーリヤは解らないけど、二位のマーヤもエリーが六位だって聞いて驚いてたし」

「どっきりを仕掛けたかったんじゃないよ!」

「だから解ってるって、私だって四位でまさかアンヘルに抜かれるとは思ってなかったし」

「あ、アンヘル。復帰そうそうにテストでよく勉強できたよね」

「きっと彼女は地頭がいいのよ」

「むむっ、それって私がバカってこと?」

「だから噛みつかないでよ。認めてるって言ってるでしょ」

「だっていつもならアンヘルなんて後ろから数えた方が早いのに」

 結果発表後からずっとこの調子のエリーにメグは肩を落とした。要するに悔しいのだろうが何度なだめてもエリーが納得する方程式の解は見つかりそうに無かったのでルーナルの元へとやって来たのだがそれでも答えはなさそうだ。

「顔をあげてエリー」

「ううう、ルーナあぁ」

「確かに参加出来なかった事は残念だったかもしれない、だけどあなたの努力が全部ムダだったなんて事は無いんじゃないかしら?勉強の成果はきっとこの先のあなたの人生に役に立つんだし、きっとあなたと袂を分かったユディトって子も抱えている不安と闘って自分の道を進んでいる筈なんだから、また出会った時に今のあなたがこれを乗り越えて成長出来ていたならそれは素晴らしい出会いになる筈よ。だからエリー、その日の為にあなたも自分に負けないで、ね?」

「その日の為に・・・・・・うん、そうだねクヨクヨしても始まらないよね。前だけ見てないとユディトに笑われちゃうね。うん、ありがとうルーナ」

「そう、私はあなたのその笑顔が好きよ」

 雲一つない晴れ渡った青空のようなニカッとした笑みを広げるとエリーは立ち上がりメグにも笑顔で礼を言った。どうやらエリーをここへ連れて来たのは正解らしかったとメグは胸を撫で下ろした。

「さぁカインのところへも行って報告しなくちゃ」

「そうね、今頃エリー用の神械を作ってる頃だろうからね」

「それじゃあねルーナ、また来るから」

「またね二人共、メグは次の試験も頑張って」

「うん、エリーとユディトの分も頑張るわ」

 メグはエリーの首に腕を回し抱きつくとフワリと浮かびそのまま二人は地上へと戻って行った。

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HEXE FRIEZE 村雨月乃 @alcyone

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