レインボーハッピーパークの片隅で

ここのえ九護

 今日もとってもいい天気。

 草のにおいとお日様のにおい。

 空にはおっきな虹さんがいて、いつもみんなを見てくれてる。


 ここはレインボーハッピーパーク。

 

 毎日たくさんの人がやってくる、大きな大きな動物園。

 

 あそこにいるのはキリンくん。

 あっちにいるのはハイエナさん。

 あの岩の上で寝ているのはゾウガメおじさん。

 他にもワニちゃんとか、シャチおばさんも!


 僕は毎日みんなに挨拶する。


 おはよう!

 こんにちは!

 こんばんは!


 僕は右手と左手の形が少し違う。


 だからみんな最初はぼくのことを見てびっくりする。けど、すぐにともだちになってくれるんだ。

 

 僕はみんなのことがだーいすき!

 

 左手の大きなツメと、右手の大きな手の平で、みんなにごはんを運ぶんだ。

 みんなは僕のこと、誰だかわかる?

 みんなと同じどうぶつかな?


 ふふふ。実はね――。


 正解は――ロボット!


 僕は動物園のみんなにごはんを運ぶ、ロボットなんだ。


 僕はゆっくり、みんなが歩く速さよりもゆっくり歩く。

 お客さんにぶつかったりしないように、ゆっくりみんなのごはんを運ぶんだ。

 

 ときどき小さな男の子が僕を触ったり叩いたり。痛くないけど、あぶないよ?


 こんにちはきりんさん! 肩こりはどう? 

 ゾウさん! 鼻水は出なくなった?

 あ、シャチおばちゃん。また夜更かしで目が真っ赤だよ!


 ああ、楽しいな。

 毎日とっても楽しいな。


 あったかくて、ぽかぽかで。僕はとっても幸せ。

 そうして僕は、毎日暗くなった夜。お空に浮かぶ大きな虹さんにお祈りするんだ。いつまでもずっと、こんな毎日が続きますように!




 でもある日、僕が目を覚ますとレインボーハッピーパークはからっぽになってた。


 みんないない。


 キリンくんも、ハイエナさんも。

 ゾウガメおじさんも、ワニちゃんも、シャチおばさんも。 


 お客さんもいないんだ。


 目を覚ました僕はドアを開けて外に出た。

 やっぱり、誰もいない……。


 お日様も、草のにおいもなくなってる。

 あるのはいつもぼくたちを見ててくれる大きな虹さん。 

 教えて虹さん。みんなはどこにいったの?


 でも……虹さんはなんにも教えてくれなかった。


 僕はしかたなく、いつもと同じようにごはんを運ぼうと思った。


 けど、いつもごはんが置いてある場所もからっぽ。 

 僕は自分の体を見て、他に何が出来るかなって考えてみた。


 

 わらをつかむための大きなツメのついた左手と、野菜や果物をつかむための大きな右手。考えてもわからなかった僕は、その日からお掃除をはじめたんだ。



 みんなが帰ってきたときに、ちゃんと綺麗になってるようにって。


 でも、なかなか上手くいかなかった。


 一日経って、二日経って。


 頑張ってなれないお掃除をしたせいかな。指が少しうごかなくなっちゃった。

 でも、僕は残っていた少しのわらの草で一生懸命掃除した。


 


 そしてそれから何日も経って。


 


 とうとう僕は動けなくなってしまったんだ。

 まだ壊れていないのに。どうしてだろう。体が勝手に動くのを止めてしまうんだ。


 段々起きていられる時間が短くなって、僕は寝ていることの方が多くなった。


 もしかたしたら、もう二度とみんなと会えないかも知れない。

 そう思うと、とても悲しい気持ちになった。


 ああ、もうだめだ。きっと、次に寝たらもう起きられない。


 屋根もない動物園の道の上。

 風にふかれたまま動けなくなった僕は、見上げた先に見える虹さんにお祈りした。


 また、みんなと会えますように、って。

 でも、そのお祈りを言えたかどうかわからない間に、僕はついに寝てしまったんだ……。

 


 ―――◆



 あれ?


 

 僕は起きた。体もとっても軽いし、ずっと眠かったのが嘘みたい。

 動かなくなってた指も、ツメも動くし……。


 

 それに……草のにおいとお日様のにおい!


 

 目を覚ました僕はベッドからすごい勢いで外に出る。


 ああ、まぶしい! とってもいい天気!

 それに、おっきな虹さん!


 あっちにはきりんくん。

 こっちにはハイエナさん。

 あそこで寝てるのは、ゾウガメおじさん!


 みんな、みんないる!

 

 レインボーハッピーパークのみんなが一斉に僕をみた。

 ゾウさんがおっきな声でおかえりって言ってくれた。

 ハイエナさん達もみんなで鳴いて、ワニちゃんはおっきなお口で大喜び!


 

 最初どうしてみんなが鳴いてるのかわからなかった。けど、すぐにわかったんだ。



 みんな、みんな僕を見て鳴いてるんだ!

 みんな、ありがとう! ただいま!



 大喜びした僕は、もう一度空を見た。僕達を見守ってくれてる虹さんを! 

 だって、虹さんは僕のお願いを聞いてくれたんだから!


 でも、あれれ?


 なんだかちょっと違う気がする。


 

 えーっと……。

 


 僕は虹さんをよーく見た。そこにはこう書かれてた。



 ! って!



 えーーーーっ!? じゃあ、みんなお引っ越ししただけだったんだ!


 良かった! とっても心配しちゃった!

 きっとみんな大変で、僕のことを連れて行くの忘れちゃったんだね!

 

 でもそこまで考えて、僕はすっごく大変なことを思い出したんだ!

 虹さん! 虹さんも忘れてるよーーーーー!



 そのあと、ちゃーんと虹さんも新しいウルトラ・レインボーハッピーパークにやってきました。僕達はそこで、またとっても楽しく暮らしましたとさ。おしまい!

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レインボーハッピーパークの片隅で ここのえ九護 @Lueur

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