第4話

 黒斗たちの訓練が始まってから10日が経過した。

 現在黒斗は午後の自由時間を使い図書館でこの世界について調べている。

 帰還への手掛かりがないかを一応、調べている。さらに、自分の生き方。魔物の生態や弱点などを調べておいて自分が戦うときに少しでも生きる確率を上げておこうと考えたからだ。


 まずこの世界、惑星ザナレプスという名前だ。

 そして、今いる国はノーマコローオ王国という。

 この国はザナレプスにて確認されている大陸6つ浮遊島2つのうちのクローバー大陸といわれる大陸に存在している。

 クローバーと聞いて何を連想するだろうか?そうこの星にはトランプのようにクローバー、スペード、ハート、ダイヤの形をした4つの大陸が存在している。

 残りの2つは魔族たちの住んでいるといわれている魔大陸。

 そして、神々の創りし、試練の大陸。

 一番弱い魔物ですらLv,300越えという理不尽極まりない場所になっている。

 一番浅い層にいる魔物でそのレベルだから最深部にいる魔物はもはや想像することもできない。

 それならその大陸から出てきたらもう滅んでいてもおかしくはないんじゃないかって? ははっ、それは神様がその大陸から出させないために結界を張っているらしい。


 次に魔法について

 魔法には

 火 水 風 土 光 闇 無 氷 雷 聖 時 空間 重力 精霊 木 召喚 血液 呪 付加

 といった具合にまだ発見されていないものも含めてたくさんの種類が存在している。

 さらにレベルが設定されており


 魔法レベル

 1 初級

 3~ 中級

 6~ 上級

 7 特級

 8 伝説級

 9 幻想級

 max 神想級

 と、いった具合になっており勇者たちは最初から2~3あたり、つまり中級程度の力を持っている。

 各レベルで覚えれる魔法を述べると


 初級 ボール スピア アロー

 中級 ウォール ブレッド

 上級 シールド ランス トルネード ハンマー

 特級 ハリケーン ジャベリン カッター

 伝説級 ブレイド プレッシャー 

 帝王級 レイン ウェーブ キャノン ストーム


 といった具合になっている。

 あくまで代表的なものであるため、ほかにも存在している。

 魔法のレベルが上がると、どんな魔法を覚えたのかが頭に浮かび上がるようになっている。

 なお、魔法の発動に関しては詠唱が必要となっており自分がしっかりとイメージできるような言葉を詠唱する必要がある。略式詠唱や、無詠唱といったスキルも存在している。

 魔法を発動する瞬間になると魔法陣が出現しその魔法陣から魔法が発生する。

 そして魔法陣は発動する魔法によって書かれているものが異なることからこれは文字なのではないかと研究している学者も存在している。

 スキルの技に関しては発動したいと強く念じることで発動のために必要な詠唱や動作が頭に浮かんでくる。


 お金について単位は1コラ(1コラ=10円)

 銅貨 1コラ

 銀貨10

 大銀貨100

 金貨1000

 大金貨10000

 白金貨100000

 大白金貨1000000


 宿1泊50~500コラ

 パン10コラ


 そこまで調べたところで本を閉じ、黒斗はおもむろにステータスを開いた。



◆ステータス◆

 名前:水無月 黒斗 Lv.3 年齢:17

 性別:男 種族:ヒト族


 体力100/100

 魔力60/60

 力6

 生命力10

 知力6

 敏捷力8

 運0

 攻撃力12 魔法攻撃力12

 防御力20 魔法防御力18



《スキル》

 言語理解 アイテムボックス

【封印:感情】パンドラの匣:3/3(所持者以外視認不可)

 剣術:Lv1 弓術:Lv1 

 槌術:LV1 楯術:Lv1 

魔力操作:Lv10 魔力制御:Lv10


《魔法》


《称号》

 異世界人 封じられし匣の所持者



「なんか知らんが、魔力関係のスキルはレベル10で覚えれたんだよな。これは常日頃から行っている妄想の賜物かな?」

 

 ステータスを閉じると、新しい本に手を伸ばしたところで、後ろから声をかけられた。


「よっ、なんか面白いものでもあったか?」

「エルさんか、特に面白いものはなかったよ。 ところで、何か用事ですか?」


 黒斗の質問に対し、縦に首をふると、


「俺明日から3日ほど出かけるから訓練頑張れよ」

「あ、ああ。 そうですか頑張ってきてください」


 その間は、走り込みと、イメージ練習、スキルのレベルアップを中心的にやればいいかと考えているとエルが何気なく言った一言で黒斗は体が硬直した。  


「おーう。と、そうだ帰ってきたら近くのダンジョンに潜るからな。そのつもりで」

「だ、ダンジョン……」

「そうだ、ダンジョン、魔物の巣窟、ミス一つで死に至りかねない危険な場所。その代わり、レベルやスキルが上がりやすく、魔物が際限なく湧いてくるため、手っ取り早く強くなるには最適な場所だ」


 話には聞いていた。この世界にはそういう場所が存在すると。それだけじゃない、そもそも魔物が存在するのだ。そのために自分たちは訓練という形でこの世界で生きていくための術を手に入れようとしている。


「俺の殺せますかね…… こんな話を聞いただけで恐怖を抱いてしまっているのに。いや、結局は慣れないといけないってのはわかっているんですけどね」


 実際に自分が命を奪うという行為をしている姿を想像すると体から力が抜けてしまい、本当にできるのかとっ不安になってしまう。



「最初はそういうもんだ。俺だって怖かったさ、いつ自分が殺されるかわからんってなるとそのうち自然と倒せるようになるさ」

「そういうもんですかね……」

「そういうもんだ。あんまり深く考えるな。 相手は同じ人間じゃねぇんだ、魔物。人類の敵。こちらを餌としてしか見ていないようなやつらだ。ならこちらも餌、レベルアップのための贄になってもらってもいいだろ?」


 エルは獰猛な笑みを浮かべながらそう告げると、じゃ、頑張れよという言葉を残し去っていった。


 エルが立ち去った後黒斗は、エルの言っていたことを頭の片隅に置きながら、手に持っていた『魔物。魔物だ!いいか!魔物だ!これは魔物についての本だ!いいな!』というやけに長いうえに魔物についての主張の激しい本を開き読み始めた。



 魔物

 いつから存在していたのかはわからないとだけ明記しておこう。

 さらに魔物を倒すと光の粒子のようになり消えてしまう。いくつかのアイテムが残る。

 ドロップしたアイテムはいろいろなものに加工することが可能で肉などがドロップした際には食すことも可能。

 友好的な魔物も存在しており、そういった魔物とは契約を結ぶこともできる。

 契約を結んだ魔物とともに戦う人間のことをテイマーと呼ぶ。テイマーの中には魔物が生んだ卵を孵し、一から育て上げることで、魔物を懐かせるものもいるという。



 半分くらいが作者による魔物の本を作成するにあたっての経緯が描かれていたが、それは置いておき、読み終わって本を閉じると、黒斗は一息ついた。


「ふぅ、まぁこんなものか」


 黒斗は窓越しに空を見上げながら、頭の片隅の置いておいたエルの言葉を思い出していた。

 

「餌だと思われてるのなら、こちらもそう思っても構わないか…… 確かに怖いけど、なんか少し楽しみというか、戦うことが楽しみに思えている自分がいるのが何とも言えないんだよな」



 戦いうことが楽しみ、それはエルとの訓練の最中に心の片隅にあったことだ。剣の素振りをしながらエルならどう来るのかを想像し、一人で戦う。実際には一度も戦う姿すら見たことがない。体験を使うってことしか知らないにもかかわらず、そんなことを考えてしまうくらいには黒斗は戦いが楽しみだった。


 そんなことを考えながら、本を片づけ図書館を後にした。

 




 ―翌日

「それでは本日の訓練を始める」


 朝から兵士のその言葉で訓練を開始する。黒斗も訓練を開始しようと魔力を練り始める。



 集中して体内に魔力を循環させ、自分を中心にソナーのように魔力を放っていると自分に向かって魔力の塊が飛んできているのがわかった。



「あ、ごっめーん制御みすちゃってぇ」

「「「「ぎゃはははは」」」」


「魔法こわっ!」

「あん?」


 不藤が笑いながら黒斗に向かって思ってもないことを言う。それに合わせて木場たちが笑い出す。

 だが、不藤が魔法で吹き飛ばした先にいたのは大楯をかまえた黒斗だった。


「瞬間的にイメージを具現化させることはできるようになってきたな」

「チッ、チョーしに乗ってんじゃねーよ!! 汝を遮るものあらず! 如何なるものをも貫く矢となれ! エアアロー!」

「え!? ちょっ」




 確実に今現在黒斗にしかできないイメージの瞬間的な具現化。ここ数日でそれをものにした黒斗は確かに、努力家である。

 そんな黒斗が自らの修行の成果をこういう形になってしまったとはいえ、確かめることができたと喜んでいるのをみた木場は舌打ちを一つし、本当にお前は日本人なのかという躊躇のなさで殺傷性の高い風の矢を飛ばした。


 風の矢を楯で防いだ瞬間、別の咆哮から飛んできた炎の玉が風と混ざり爆発を起こした。


「何事ですか!?」

「ああ、なんでもないですよ」

「そうそう少し制御ミスって変なところに当たっただけですんで」

「そ、そうですか」


 突然の爆発音に他の生徒に指導していた兵士が飛んできたが木場たちが適当なことを言って追い返した。


 明らかにその辺に当たっただけでは鳴らないような爆発音だったが、大方火魔法でも使ったのだろうと兵士はそこまで気にしなかった。


 

 ――同時刻


「にしても、まさかこんな目に合うとはな」


 闘技場の真ん中、いくつもたてられた的に向かって魔法を放ちながら元輝が呟く。


「そうだな。それにこんな魔法なんて不思議なものまで使えるようになったし」


 魔法を放ち汗をぬぐうようにして勇星が答える。

 そして、休憩しようと後ろを振り返った瞬間、飛んできた黒斗と衝突し勇星が下敷きになる形で倒れた。


「うあ…、あっつ! 木場! ふざけんな!」

「ゆ、勇星! ちょ、水無月下敷きにしてる!」


 黒斗が元輝の言葉で下を見下ろすと確かに何か下敷きにしているなとわかる。

 慌てて立ち上がり勇星に手を差し出した。


「ご、ごめん。まさか下敷きにしているとは思わなかった」


 返事がない


「ただの屍のようだ」

「いや、気絶してるから! 暁さーん! 回復魔法くださーい!」


 黒斗が手を差し出しても起きてこなかったのでボケてみたが勇星は気絶しているようだった。元輝が慌てて白音を呼び回復魔法をかけてもらっている。


「よし、英澤君はこれで大丈夫だと思う。あと数分で起きると思うよ。黒斗君もこっち来て、ケガしてるから魔法かけるね」


 黒斗は木場に魔法を食らわされたことを思い出した。 


 白音が回復魔法を唱え白い光が黒斗を包むとケガが消えていた。


「はいおしまい。あんまりケガしないでね。心配になるから」

「わかった。なるべく気を付ける。けどこれからは危険な場所に行くんだ。少しでも痛みには慣れておいたほうがいい」

「それはそうだけど……」



「一度こちらに集合してください!!」



 白音が黒斗に言葉を告げようとした時、兵士から集合がかかった。


「集合か。白音いこう」

「う、うん」



 黒斗が集合場所に着くと、言い争っている声が聞こえた。


「魔法の制御ミスったんじゃなくてわざと黒斗にあてたんだろ!」

「は? ミスっただけだっつてんだろ。わざわざ突っかかってくるなよ。生産職」


 そこでは木場と阿部圭太がいた。


「え? なになに? 初級の魔法もろくに的にぶつけることができません。生産職様どうか大きな的を用意してくださいだって?」

「あぁ? 何言ってんだてめぇ」

「前から思ってたんだけどさ。それいい加減やめたら? あぁ?とかダサくね? しかも何個かバリュエーションあるよね。あ?とあぁ?とア゛?とア゛ア゛?って? いや後ろ二つ喉でも痛いの? 飴食べる? あ、これは言っとかないとね、みんな怖がっているというよりもうわぁって引いてるだけだから」

「てめぇ」

「でたでた。てめぇ。あとはざけてんじゃねぇ!とか? なんていうんだっけ、えーと、あ、イキってんじゃねぇよ?」

「ちっ、くそが!」

「舌打ちいただきましたーー!」


 訂正。圭太が煽る煽る。何があったのか徹底的に煽り続けている。いいぞもっとやれ


「そこまでにしてもらえるかな。全員そろったようだし、時間もないから始めるぞ」


 そこで止めに入ったのはアトロスだった。そのままこの後の予定について説明をしていく。


「この後は、模擬戦を行おうと考えている。何人かごとにチームを作り最大4人までで1試合戦ってもらう。君たちはこの世界に来てまだ数日しかたっていないのに模擬戦を行うのは、もうすぐダンジョンに潜ってもらうからだ。少しでも戦うということに慣れてもらいたいのと、実際どれくらい動けるのかを見たいというのもある。では、チームを作ってくれ」


 アトロスがダンジョンと言ったとたんやはり生徒たちざわついた。ぼそぼそと噂として流れていた程度だった情報が、本当だったからだ。

 恐らくダンジョンに潜る時はこの4人が一緒に行動するチームになるのだろう。となるとやはりメンバーはしっかり考えて選びたいところである。

 何名かその考えにいたったのだろう。焦ったように周りを見渡し、勇者の称号を持つ勇星に目を向けた。だが、彼はもう近くにいた白音、元輝、麗子とチームを組むようだった。


 黒斗はそれをぼーっと眺めていた。

 黒斗のステータスは初日にみんなに知られているのだ。一緒にダンジョンに潜るなど危険極まりない。そんなある鯨井のような存在と一緒にダンジョンに行くような頭のねじが吹き飛んだ愉快な奴などいないはず。そう思っていた。


「よう、親友。せっかく親友の唯一のダチたるこの俺が親友をかばって木場にプリプリ怒ってあげたというのに何傍観してくれてるわけ?」


 そういって肩を組んできたのは阿部圭太だった。

 

「うるせぇぞ、悪友。あんなの煽ってただけだろ。なにがプリプリだ。気持ち悪い」

「うっわそういうこと言っちゃうんだ。せっかく一緒に戦ってやろうというのにまったく」


 黒斗はその言葉に驚いておもわず二度見してしまった。まさか、頭のねじが6本くらい抜けているやつがいたとは思ってもいなかったのである。


「いや、お前彼女いたろ。ともえちゃん。あの子はいいのかよ? それにもしこのチームでダンジョンに潜ったら最悪死ぬぞ? それに」

「何グダグダ言ってんだ。どうせあれだろ? お前のチームにいれば騎士団長がついてくるだろ? そりゃあ一番安全な場所じゃねぇか」


 圭太はケラケラ笑いながら告げた。


 黒斗も疑問に思ったことはある。なぜ騎士団長が勇者のそばにいないのか。一番失ったらまずいのは勇者だ。ならばそこの守りを固めなくてどうするのだろう。と。だが、何かしらの事情があるのだろう。その代わりに第2,3騎士団長が一緒にいる。

 そう考えるとたしかにエルが一緒にいる黒斗のチームはほかの素人の集まりよりも安全なのかもしれない。


「それに巴のほうは女子と組むらしいし、生産系スキルばっかのやつらで固まる方が死にやすそうだしな」

「あー、まぁ、お前がいいならいいけどさ」


 なんだかんだ言って黒斗と組もうとしてくれる圭太。死ぬかもしれないというのになんて友達思いなのだろうと心に中で感動していた。


「よし、なら決まりだな! 守ってくれよ? 私の騎士様はぁと」

「わかった。肉壁にしてほしいんだな? そうなんだよな? 俺楯術手に入れたからいつでもいけるぞ? お?」

「おーけおーけ、落ち着け親友。クールに、クールにいこうぜ。だからっ! あぶっ! ちょ、その剣どっから出した! うわっ、槍まで! あぶな!」


 黒斗が創り出した刃のない剣と槍から圭太が必死に逃げ回っていると、これから模擬戦を始めるからくじを引きに来てくれという声がかかった。


「はぁはぁ、行って来い」

「ぜぇ、ぜぇ……わがっだ」


 兵士のいる方に親指を向けると圭太がいやいやむかっていった。   

 

 

「それではまずは――」


 今回刃引きのされていない武器を使用する。回復魔法があるこの世界でわざわざそんなことをする必要もないのだという。切り落とされでもしなければ回復できるらしい。

 

 最初は女子同士の戦いだった。前衛1魔法1回復1対前衛2魔法1回復1の戦いだった。

 これは人数的な都合もあり4人のチームが勝った。


 こんな感じで適当にくじで決められて試合を済ませていく。


「次は水無月チーム対木場チーム。両者前へ」


 ついに黒斗の番が来た。だが、相手は木場たち。2対4の不利な戦いだ。


「ルールは相手に降参させるか、こちらで戦闘不能を判断するまでつづけること。では、はじめ!」


 兵士がそう宣言するやいなや木場と不藤が魔法を放つ


「汝を遮るものあらず! 如何なるものをも貫く矢となれ! エアアロー!! 不藤! さっさと飲め」

「は、はい!」


「早い! 創造! 偽りの大楯!」


 木場が先制してはなってきた魔法を黒斗が前に出て受け止める。その間に不藤が何かを飲み込んだ。

 そして詠唱を開始する。


「燃えろ燃えろ燃えろ!」

「させるか!」


 それを止めるためにスモールハンマーとスモールシールドを装備した圭太が不藤に接近する。


「三度唱えなるは憎しみが故に」


「いかせねーよ!」


 西尾が短剣を片手に圭太に接近した。短剣の切り上げを楯で防ぎ槌を全力で西野にたたきつける。西尾はそれを躱し圭太から距離をとった。


「潰せ潰せ潰せ全てを粉砕し突き進め。如何なるものをも粉砕す炎の鉄槌! フレイムハンマー!!」

「フレイムハンマーだと!? なんで上級が使えるんだよ!」


 巨大な炎の槌よって圭太は吹き飛ばされ、闘技場の壁にたたきつけられた。明らかに発動できるレベルの魔法ではない。

 先ほど飲み込んでいた何かが強制的に発動を可能にさせたのだろう。しかし、代償に不藤の顔色は悪く、魔法の威力も実際の物よりもだいぶ低くなっていた。


 

 

 黒斗は大楯で風の矢を防ぐと楯を片手で持てるサイズに縮め、右手に偽りの剣を創り出した。楯を前に出し木場に接近するが、その前に石田が立ちふさがった。

 

 石田は片手剣を構え黒斗に切りかかる。それを楯でいなし剣の腹で殴りつけ木場のもとへ行こうとした。


 そこに


「雷よ! 我が敵を貫く矢となれ! サンダーアロー!」


 後ろから西尾が接近してきており発動した魔法が黒斗の背中に命中した。


 背後からの攻撃を受けた黒斗はバランスを崩し転がった。

 そこに容赦なく叩き込まれる風魔法。


 不思議なことに兵士は一切止める気配がない。


 黒斗の中で少しずつ怒りが湧き上がる。よろけながらも黒斗は立ち上がり木場を睨みつける


「ちっ、まだ動けるか。――ウインドスピア!」


 風によって構成された槍が黒斗に襲い掛かる。

 

 黒斗は転がった際に手から離れていった楯を創造しなおし、槍による衝撃を完全に吸収し、ウインドスピアに耐えきった。

 このような動きは黒斗がこの世界に来た時では不可能だったが、楯術というスキルを身に着けてからは体がどのように動いたらよいかがわかるようになった。

 

「くそがっ! てめぇはそこで突っ立って食らってればいいんだよ! ――エアアロー!」

「死ね! サンダーアロー!」


 なぜ自分はこんなこと言われなければならないのか。沸々と湧き出る怒りは黒斗の中で何かに置き換わる。

 怒りで我を忘れそうになるのに頭は冷静になっていく。


 何かが切り替わる音がした。あぁ、言葉なんかはいらない。


 ひとつ深呼吸。息を吐き出し、自分を中心に魔力を展開する。使用する量は最小限に。敵の行動を確実に把握するために。


 自分の領域テリトリーを広げていく。


 前方から飛んできた矢を剣でからめとるように弾き飛ばす。左から飛んできた矢は下から楯で打ち上げる。


「くそっ! またか! 何なんだよこいつ! あぁ、くそっ、石田! あれ使え! 時間は稼ぐ!」

「わかった」 


 石田は木場と西尾の後ろに隠れると何かを飲み込んだ。すると、うめき声をあげ、膝を突き苦しみ始めた。


 その間も木場と西尾は魔法を放ち続ける。

 それを黒斗は避け、斬り、はじき確実に前へ前へ歩を進める。動きは最小限に。

 

 それは当たらない、そう知っている。なぜならそこは自分の領域なのだから。

 

「うらあああああああ!」


 木場と西尾の間を通り高速で斬りかかってきたのは先ほどまでうめき声をあげていた石田だった。


 速い。


 領域を広げていなければ回避することはできなかっただろう。

 圧倒的速度、喰らったら吹き飛ぶと簡単に想像できるような一撃。それを躱す。

 これは受けたらだめだ。直感が、スキルがそう伝えてきている。


 石田も力の上昇に慣れてきたのかだんだんと速くなっていく。

 それを躱す。躱す。

 顔をかすめ血が垂れる。生暖かい。

 

 闘技場の周りでざわついていたほかの生徒たちの声。

 怒鳴りつけるように声を上げている兵士。

 悲鳴のような声を上げている女生徒。

 うめき声をあげている木場、西尾。  


 徐々にそれすらも聞こえなくなっていく。


 予測しろ。いかに次の行動につなげるかを考えろ。頭を回せ。冷静に。最小限に。感じろ。


 あぁ、最高に楽し――。


 

 そして、黒斗は炎と雷に包まれた。



 

 

 

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水無月黒斗の冒険 勇桜 @dai108

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