第3話

 ステータスの確認から数時間後、全員が闘技場に集められていた。

 そこには部屋で寝ていた黒斗の姿もある。


「これより訓練を開始する。オレは王国騎士団第一部隊隊長アトロスだ! よろしく頼む。では各自武器を選んでくれ。その後に選定の間と呼ばれるところにて、先代勇者の聖剣が封印されているところに行き、この中から真の勇者と呼ばれるものがいるかどうかを調べさせてもらう」


 黒斗はアトロスの言葉に驚愕した。召喚されてからずっと自分たちは勇者として扱われてきた。その中から勇者を決めるとは選ばれなかったものは勇者じゃなくなるのか。

 黒斗が悩んでいる間に周りは自分の武器を選んでいく。

 とは言っても、日本という武器とは無縁の国に住んでいた彼らにはすべてが初めてのものであり、自分のステータスにあったものを選んでいく。

 短剣、槍、楯、魔法がある世界での発動を補助し、威力を増加させる目的の杖などを選んでいる生徒もいる。


 黒斗は悩んでいてもしょうがない。そもそもこの国が勇者じゃない人をどうするかなんてその時にならないとわからないのだ。たかが数日前まで普通の高校生だった黒斗にそんなことを悩んだところで、無駄にしかならない。

 そもそも、エルや見た感じの王女と言い、いい人もいるのだ。今決めつけるのは早いだろう。

 中には王子や異世界人という人間に欲にまみえた目で見つめていた貴族もいたが。


 そう思うことにした黒斗は自分も己にあう武器を選び始めた。

 しかし、黒斗には武器のスキルらしいスキルが存在しなかった。何にしようか悩んでしまった。


「なにかに悩んでるのか?」

「え? あぁ、エルさんか」

 

 うんうん唸っていると後ろからエルに話しかけられた。 悩んでいても素人には仕方がないこともある。そう思いエルに相談してみることにした。


「おうクロト、で、どうした?」

「いや…… まぁ、ステータスが…… ですね……」

「ん?」

「提示された村人のステータスよりも低かったんですよね…… ついでに武器系スキルが一切なかったのでこのままだと荷物持ちになりそうで……」

「ぷっ…… んなこと気にしてたのか?」

「そ、そんなことって…死活問題ですよ!」


 黒斗はつい、感情的になってしまいエルに訴えてしまいばつの悪そうな顔をしながらエルの話を聞くことにした。


「おいおいそんなに必死になるなって。まぁそうだな俺も最初はそれくらいだったさ。確かに異世界から来た奴らってのは強いがレベルを上げなきゃそれまでさ。常日ごろから努力を怠らなければ俺でも勝てる」

「う、すいません。そういうものなんですかね」

「そうだ。だいたい異世界人ってのはどいつもこいつもおかしいんだよ。 んなことより、獲物は何にしたんだ?」

「そもそもスキルがないから決めれないんですよね。今まで触れたことすらなかったものですから」

「なんだまだ決まってなかったのか」


 黒斗がため息まじりにエルに告げるとエルは何かを考えるそぶりをした。


「僕らの住んでたとこって武器といえるものなんてもの持ってたら普通に逮捕されますしね」

「ふーん…ん、そうだ。ならこれやるよ」

「なんですか? これ? 指輪のようですけど」


 エルはどこからともなく指輪を取り出し、黒斗に差し出した。

 指輪は銀色をベースに全体的に薄く青いラインが入っており、真ん中には親指の爪くらいの赤い石がはまっていた。


「それはな、魔創具というんだ。使いこなせればかなり強くなれる……と思う。」

「なんでそんなに自信なさげなんですか」


 黒斗はそんなエルの反応にジト目をしながらも魔装具に目を向ける。その時、何か魔創具に意識を引き寄せられるような、呼ばれているような気がした。


「黒斗」


 エルに呼ばれ、先ほどまでの感覚は消えてしまった


「それはな所持者のイメージ下武具を魔力で具現化することができる。今まで何個か発見されてきた遺物アーティファクトだ。ダンジョンなんかで発見されるものだな」

「イメージの具現化……」


 黒斗は先程の指輪から引き寄せられるような感覚が忘れられずにいた。この指輪には、何かある。そんな確証もないどこか漠然とした感覚だが、どうしてもこの指輪を手放すという決意を決めることができなかった。


「お?気に入ったのか? それな、ある程度しっかりとしたイメージじゃないと魔力が漏れ出してしまって砕け散るし、なんとか形作れても脆く壊れやすい。俺達には向いてないものなんだよ。 それを使いこなせるか?」


 黒斗には今のところ特別な力はない。ステータスの虚弱。あるのは地球での記憶、知識のみ。


 今まで何度異世界にあこがれただろうか。何度物語の主人公と自分の重ね合わせただろうか。今まで何度自分もこんなにかっこいい武器を使ってみたいと、思い描いただろうか。


 そんな思いが今なら叶う。この魔創具ならば、今の自分の手助けをしてくれる。

 そしてそんな思いとは別にこの指輪から感じる何かが気になる。

 

 気が付いたら勝手に口が動いていた。


「僕は…俺は、これがいいです。今これを選ばないと駄目な気がするんです」

「そうか。 たまにな、あるんだよ。 武器が使い手を選ぶというか、こう、武器と心が通じ合うときが。 そういう武器は大切にしろ。いつか命を救われるかもしれない。 これからお前たちの進む道は敵だらけだ。 それならなおのことな」

「はい!」



 まだ生徒たちが武器を選んでいる中黒斗とエルは、人込みを抜け出し、隅の方で話し合っていた。


「でもいいんですか? こんなのもらっちゃって?」

「おう、誰も使えないよりは使えるやつが使ったほうがいいからな」

「なら使えるかはわかりませんがいただいておきます」

「ならちょっと創ってみろよ」


 黒斗は右手中指に魔装具をはめた。


「ん?あれサイズあわないn…!?」


 指にはめたが黒斗の指とはサイズが合わなかったが、次の瞬間サイズが縮まり黒斗の指にピタリとはまった。


(指輪が縮まった!?ふぁ、ファンタジー…)


「サイズは自動調整されるんだぞ? お前の世界にはなかったのか?」

「話の中にはあったけど実物では初めてだ……」


 黒斗はびっくりして心臓がバクバクする中どこか目を輝かせている。


「イメージして魔力を流せば創れるはずだ。強く、正確にイメージできないとまともに使えないがな…」

「すぅ………あれ、魔力ってどうやって流すんですか?」


 魔力よ流れよ!とは思ったものの流し方など知るわけもなくエルに聞いてみる。


「ありゃ、教えてなかったか。えっとあれだ、腹から気合入れるような感じ」

「なんですかそれ ラノベとかにある感じかな」


(たしか丹田に魔力があるってラノベでは書いてあったな。エルさんも腹に力を入れてみたいなことを言っていたから多分それでいいんだろうか。)


「まぁ、物は試しだやってみろ」

「はい…すぅ…」


(丹田、丹田。お、これか? 何かがすごく渦巻いでいる感じがする。これが魔力なのか? えーと、確かラノベではこれを全身に行き渡らせていたな。魔力が血管を通り全身へ、血液とともに全身で循環するように……)


「…!?」


 黒斗の中で魔力が廻り始める。その光景を見ていたエルは声を詰まらせるほど驚いていた。

 黒斗が魔力を操作したことに対してではなく、その細かすぎるほど繊細な精度に対してだ。


(心臓まで来たら血液と一緒にポンプで押し出される感じかな……よし、こんな感じでいいだろう。次は魔創具にも流れるように指先に集まっていく感じで…)


「魔創具が光った?」

「……それは魔力が流れている証だ。何かイメージしてみろ」


(イメージだよな……想像…創造……そうだ。今までさんざん想像してきたじゃないか。あこがれてきたじゃないか。

画面越しに、小説の表紙になっていたあのかっこいい武器たちに……

あの憧れをここに……

細部まで想像しろ……)


「ぐっ…」

「おぉ…」


 黒斗の掌を中心に光があふれだす。それは決して眩しくはなく、優しい光だった。


(何だこの感じ……魔創具が名前を求めている? 名づけをすることで次回からの創造をサポートしてくれるのか)


「……創造!……偽りの剣いつわりのつるぎ


 黒斗が作り出したのは鈍く光を失った白銀の剣だった。騎士たちが使っているようなしっかりとしたつくりになっている。


「これはすごいな。まさかここまでしっかりと創り出すとは」

「はぁはぁ…これ、使えますか?」

「十分すぎるだろう。これなら普通に使える。ちょっと貸してくれ」

「よかった…どうぞ」


 黒斗は安心し、エルに剣を差し出す。

 エルが剣に触れた途端、剣は跡形もなく消し飛んだ。


「ん?消えた?生みの親以外には使わせないということか…すまんな黒斗消えちまったみたいだ」

「他人には渡せないと…」

「っとそろそろ移動のようだな」

「移動?」


 兵士から全体に声がかかった


「では、武器が選び終わった人から選定の間に移動してください。そこで先代勇者の残した武器を抜けるかを確認いたしますので」


 黒斗が言われるがまま移動する中、白音が話しかけてきた


「黒斗くーん!」

「?」

「武器?何にしたの?」

「あぁ、これだよ」

「なにこれ?」

「まぁ、ちょっとね…」

「むぅ…私はこれだよ」


 白音が見せてきたのは1メートルくらいの杖だった。木で出来ているようだが先端に宝石のようなものが付いている


「杖…?」

「うん!あなたにはやはり魔力伝道率がなんとかかんとかぁ〜って言って渡されたの」

「へぇ〜」

「あ、ついたみたいだね。ここが選定の間?」


 そんなことを白音と話しながら進んでいると選定の間についた。中に入ると騎士が生徒を誘導していた。


「さて、ここには聖剣と呼ばれる剣が封印されております。ですが、剣に認められなければ抜くどころか触れることも叶いません。異世界から召喚された勇者と言われる皆様ならもしかしたらと思い、こちらに案内いたしました。では、我こそはという方はいらっしゃいますでしょうか?」


 兵士の1人が説明している


(聖剣?まぁ、俺には関係ないか。聖剣に選ばれるようなステータスじゃないしな)


 黒斗がそんなことを考えていると


「なら俺やりたい!」


 そう名乗りあげたのは勝 太陽というクラスで一番小さい少ね…ゲフンゲフン子どm…青年?だ。


「では、こちらにどうぞ」

「はい!」


 太陽はそうやって元気に返事をすると選定の間の中央にある魔法陣に刺さっている鞘に入った一本の剣に近づいていく。


「あれ?あれれれ?」

「やはりダメでしたか…」

「さわれないなんて…」


 太陽は何度も触ろうとしても触ることさえできていない。それを見た兵士は残念そうな顔で呟いた


「おい、勇星お前行ってみろよ」

「元輝が行きなよ」

「お前の方が勇者って感じするじゃんか。それに俺の武器はこの拳だからな、剣なんて合わねぇよ」

「えー、元輝のほうが」

「いいから行けって」

「もぉーじゃあ俺がやります。ダメだったら元輝やってよ!」


「ではこちらへ」

「はーい」


 元輝と譲り合っていた勇星は剣に近づいていく。すると


「ッ!?」

「あれ?なんか光ってますよ?」

「もしかしたら!」

「あ、触れた…ってうわーーーーー!?」

「なんだ!?」


 剣にさわることができ、さらに剣が発光し始め、勇星を包み込む。

 光が収まるとそこにはなぜかいかにも勇者といった鎧を身につけた勇星がいた。


「お、お、王様ーー!!」

「あ、まってくださ…」


 兵士は勇星の制止を聞くことなく王様と叫び走り去っていった。


「な、なんだったんだ?ん?ステータスが勝手に…」


 ◆ステータス◆

 名前:英澤 勇星 Lv.1 年齢:17

 性別:男 種族:ヒト族


 体力300/300+1500

 魔力300/300+1500

 力15+85

 生命力20+80

 知力30+70

 敏捷力25+25

 運100

 攻撃力200 魔法攻撃力200

 防御力200 魔法防御力300



《スキル》

 言語理解 アイテムボックス 鑑定:Lv1 剣術:Lv2


《魔法》

 光魔法:Lv4 聖魔法:Lv4


《称号》

 異世界人 選ばれし者 勇者


《勇者》

 全ステータス大幅上昇


 ◆聖剣エクスカリバー レア度8

 属性:聖/光

 剣に選ばれたもののみが使用することを許される。

 誰が何のために何時作られたのかも不明。

 悪を滅し、聖なる光は人々を癒す。

 勇者以外のものが持ってもただの鉄の剣にも負けてしまうほどステータスが弱体化する。


 守るべきものが窮地に陥った時この剣は聖なる力で守護を与えるであろう。


 特殊効果

 封印から解き放ったものの称号に勇者を加える


 武器スキル

 The heart of勇者の心 the brave

 一度だけかなりの強度の障壁を張ることが可能。

 再使用に時間がかかる


 聖剣の煌めき

 一度使うと再使用までかなり時間がかかる。

 剣に聖属性を纏わせた全力の一撃。

 使用後には体力が減り、攻撃、防御力が著しく低下する。




「!?なんだこの武器は…力があふれてくる…」


 勇星がひとり呆然とステータスを眺めていると選定の間の扉が開き、王が兵士を連れ入ってきた。


「剣が抜けたとは真か!!」

「これですよね?」

「おお…なんと神々しきお姿か!これが先代勇者の残したといわれる聖剣…」

「僕が勇者…」

「勇者様、改めてお願いします。どうか我が国をお救いください…」

「僕にできるのであれば。みんな!僕はやるよ!この国を救ってみせる!!」



 ーーーーーー3時間後

「ではこれより訓練を開始する。各々の選んだ武器の担当を用意した。そちらの担当から指導を受けるように」


 兵士の1人がそう言うと後ろから10数人のバラバラの武器を持った人たちが出てきた。


(あれ、そういえば魔創具を使ってる人っているのかな…誰が教えてくれるのかな…嫌な人じゃないといいな…)


 周りのみんなが担当の兵士の所に集まっていく中、黒斗は魔創具の担当を探していたが見つからない。


(あれ…いない…もしかして、独学でやらないといけないの? マジで?)


「お、いたいた」


 ふと、後ろから声がかけられた。黒斗が後ろを向くと


「え、エルさん!?」

「おう、俺がお前の担当だ」

「え!?いいんですか?騎士団長としての仕事は?」

「んなもんいいんだよ、副団長が優秀でな。実際俺の仕事は討伐系だからな、事務はあんまりしてないんだよ。それにお前に魔創具渡したこと話したらな副団長のやつが責任とって教えてこい言ってくれやがったからな」



 ゲラゲラと笑うように黒斗に説明をするエル。それでいいのか騎士団長と思わないでもないが、この人が鍛えてくれるなら強くなれるかもしれないという期待が高まった。


「そ、そうですか。なら、お願いします。師匠」

「ぐ、ぐはっ…」

「え!?」

「師匠とか…照れてなんかないんだからな!」

「おっさんのツンデレとかいらねぇ…」


 はきそうな顔をしながら黒斗が告げるとエルに拳骨を落とされた。


「さて、おふざけはこのくらいにしてと。まずは魔力の練り方と言いたいところだが、さっきので魔力操作も完ぺきだったんだよな。いや、むしろ魔力操作だけで言ったら俺よりも上かもしれねぇ。どこでそんな知識を得たんだ? お前の世界には魔力なかったんだろ?」


 エルは比較的真面目な顔をして黒斗に質問をする。


(まじか……まじか! ラノベすげーー!!)


「えっとですね、俺らの世界には俺らが体験したような異世界転移をモチーフにした物語が人気でして、その中に魔法の世界ではこうやるんだよぉって言っていたのがあったのでそれを思い出しながらやりました」

「ほぉ、なかなか面白そうだな。まぁ、それなら話が早いんだよな。俺は魔創具を使えるわけじゃない。加えて、黒斗は弱い。それはもう俺と戦おうものなら1秒も、もたないくらい弱い」


 エルの断言にわかっていたことではあるが心に来て膝をついてしまう黒斗。


「だが、戦い方を教えることはできる。まずは、何事も体力からだ。最初の頃はそうやって体を鍛え、レベルが上の人間と戦うとレベル10までは魔物を倒さなくても上がる」

「レベル10まで……」

「なぜかレベル10以降は上がらないんだがな。通常レベルが上がるタイミングでスキルの習得又はレベルアップが行われる。だから、今のうちにいろいろな経験をしてお前はスキルを覚えるための準備をするんだ」

「はい! まず走ってきます」


 その姿をエルは眺めながらポツリと呟いた。


「元の世界の物語か…たったそれだけの情報であそこまでの魔力操作ができるものなのか? それに、具現化させたときの魔力消費が全くしていなかった。いや、していたがあいつ、武器を消すと同時に使用していた魔力を吸い上げやがった。意味わかんねぇよ。ステータスなんて関係ねぇ。お前も十分規格外だよ。黒斗」

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