第14話 本が好きなんだ

「それで、新しいアイデアって?」


 ヒロが屈託のない笑顔で尋ねる。その目は光り輝いていて、とても眩しい。


「うん、俺たち三人の共通点を思い出してほしいんだ」

「共通点?」


 不可思議そうな顔で首を傾げるヒロと、腕組みをしたまま考え込む新之助の二人を尻目に、俺は振り向きミーティングルームの窓から下を眺める。眼下には渋谷駅の東口ロータリーが広がっていて、永遠に終わらない駅前改修工事のために、建設機材が絶え間なく動き続けている。工事現場を避けるように複雑に組まれたペデストリアンデッキの上を歩く人々は、一体どこに向かっているのだろう。土曜だというのに外回りをしているらしいスーツ姿の冴えない中年も入れば、渋谷という街がぴったり似合うギターを担いだ若者、渋谷らしからぬ着物を羽織った淑女達。


「渋谷って人が多いよなあ」俺はぼそりとつぶやく。

「ゆきやん?」

「昔っからあまり馴染めなかった」


 右手奥には、西新宿の高層ビル群が立ち並んでいる。まだ春を迎えきれていない冬空の雲と冷たい空気が混じり合って生まれた霜の層が、コンクリート造りの建物をぼんやりと薄く白く包み込んでいる。ビルのてっぺんが見えなくて、それがまるで摩天楼のようで。


「あ、わかった!」

「む、ヒロ早いな」


 ポンと手を叩き嬉しげなヒロに、新之助が少し嫉妬した表情を出す。

 右手でピストルをつくり、ヒロは俺に照準を合わせる。


「俺たちみんなバスケが好き!」


 ずこっ。たまらず俺は苦笑いしてしまう。


「バスケサークルで知り合ったんだからな。そりゃそうだよ」


 頭がとんでもなくキレるのにどこか天然で可愛げがあるヒロ。

 さっさお思考することを諦めて、冗談交じりに怒り出す。


「もうわからん!ゆきやん、答えよろしく!」


 口をぷくりと膨らませ、半ば冗談交じりに怒り出したヒロを俺は見つめて答える。


「本が好きなんだ」


 そう。俺たちは本が好きだった。

 俺はSF、新之助は歴史モノ、そしてヒロはミステリーが。


 それは、読むだけじゃなく、自分たちで作ることも。

 だからかつて俺たちはあの頃、文芸サークルに道場破りをしたり、3人で文芸雑誌を創刊しようとした。それは大学に入学して3ヶ月も経たない春から夏にかけてのお話で、あの頃の俺たちはなんでもできると思いこんでいた。

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ビジコン! ‐ 27歳広告営業、雪哉の奮闘と憂鬱 ‐ 速水大河 @taiga

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