「君を想う」の「君」は誰なのか、それをぼんやりと意識しながら読んでいた。「君」といえば、戦国時代なのだから主君であろうが、野武士が主君をどのように意識するのか興味が湧いてくる。次々と現れる戦国大名に見出され、主従関係ではないものの、君が主人公の中で重きを成していく。
その一方、育った環境の中での君も大きくなっていく。この君は母、兄弟、幼馴染、友達、周囲の人々であり、主君とは全く違った君である。
多くの君との係りで「声」が聞こえてくる。天の声なのか、天の代わりの君のそれなのか、それとも主人公にとっては君の声が天の声だったのか。
題名の『天声 -君を想うー』はこうした流れを一言で表し、常に題名を意識できる作品である。また重要なキーワードである「〇〇〇」(あえて伏字にします)が「君を想う」ことを痛切に感じさせる。
登場人物の仕草や物の言い方が如何にもそうだろうなと納得してしまう。戦国時代の武将だけでなく、芸能一座や名前の残っていない足軽などの話ぶりもなるほどと感心してしまう。
戦国武将も、「天声」を聞き「君」を想ったのだろうとしみじみと感じる作品だ。
物語の舞台は、戦国。
それも、織田信長が飛躍の為に乾坤一擲の勝負に出た、桶狭間の戦いから始まる。
改めて書く必要も無いが、永禄3年5月19日午後1時は雨だった。
視界も定かではない豪雨である。恐らく、今川軍は雨よけをしていただろう。そこに、織田軍が今川軍に襲い掛かった。
史実では、今川義元の首を獲ったのは毛利良勝。しかし、本作では黒風と渾名される野武士が奪う事になる。
そこで、歴史が変わった。
物語は、桶狭間に始まり川中島へ繋がる予定だという。
黒風が変えた戦国史、括目して読もうではないか――。
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