第5話 文字の城
文字の城というバス停で降りて、文字の城の前にやってきた。
文字の形をした部品を組み合わせて、城ができている。「あ」や「い」や「う」や、「1」や「2」や「3」や、「A」や「B」や「C」でできた文字の城だ。
正面の門をくぐって、長い正面廊下を歩いて行くと、やがてそれは階段になり、大きな階段を登っていくと、魔王ベルフェゴールがいた。
魔王ベルフェゴールは、大きな翼をもった黒い皮のグリフォンに似ていた。
「よく来た。おまえが来ることは知っていた」
魔王ベルフェゴールはいった。
「いったい何が始まるんだ」
ぼくが叫ぶと、ベルフェゴールは答えた。
「おれはプログラム・ノアに挑み、管理コンピュータののっとりを企む。そして、おまえはおっさんに会う」
それは、あまりぼくの望みではないような。
「ぼくが聞きたいのは、蝶の君の好みな男性のタイプだ」
「蝶の君の好きなタイプは、おっさんだ」
また、おっさんか。
「ぐう、おっさんはどこにいる」
「よく聞いてくれた、夢野修理よ。おっさんは、今、こちらに向かっている。もうすぐ、プログラム・ノアによる規格更新が始まる。おっさんが到着するのと同時に、おれは管理コンピュータのハッキングに乗り出す」
「もし、魔王ベルフェゴール、あなたが負けたら、ぼくはどうしたらいいんだ」
ぼくは固唾を飲んで、答えを待った。すぐに返答があった。
「悪魔アモンのところでも、蝶の君のところでも、この文字の城でも、好きなところで暮らせばいいだろう。そら、おっさんが来るぞ」
そして、おっさんが来た。
デブでハゲたおっさんだった。この人がぼくのたった一人の読者。
「時は来たれり。それ、管理コンピュータをハッキングするぞ」
そして、文字の城そのものを作る文字の部品が動き始めた。
「コンピュータ・ノアが規格更新を始めた」
ぼくは、魔王ベルフェゴールの端末を見ていた。数字と数字、ことばとことばがせめぎ合っている。
おっさんも、魔王ベルフェゴールの端末を見ていた。ぼくのことなど、目にも入らないように、未完都市の未来をかけたこの戦いに注目しているようだ。
魔王ベルフェゴールは、よく戦い、健闘し、頑張った。だが、その力は及ばず、プログラム・ノアによる規格更新は無事、終了した。管理コンピュータが息を吹き返した。
管理コンピュータ<神名のり>。ぼくの執筆の競争相手。
ぼくは壮絶な戦いに、興奮して、ひっくり返っていた。
おっさんが、ひとこといった。
「ああ、夢野修理くん、きみの小説ね」
ぼくはほとんど放心状態だった。
おっさんは話しつづけた。
「面白かったよ」
感想はひとことで終わった。
ぼくは嬉しくて、祝杯をあげた。
夢野修理の冒険 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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