第16話 打ち上げ
翌週の土曜日を迎えた。今日はE組の競技大会の準優勝を労うために、由姫のバイト先で打ち上げをする運びとなっていた。
バイト先のマスターに許可をもらうと、十時から十二時までの間店を貸しきりで使わせてもらえることとなった。
そんな事もあり普段よりも早く起床した由姫は、身支度を整えると今日の朝は待ちに待ったサクラの散歩デビューの為の準備を行っていた。
「サクラ、今日から外に散歩に行けるようになったからね。公園で一貴くんも待っていてくれてるから、一緒に外で遊びましょうね。」
由姫はサクラを抱えて、顔の正面で見つめながらそう語りかけた。
この一週間というもの、由姫はサクラの散歩の特訓と称してリードを着けて歩く練習をしていた。
最も直ぐにその愛くるしさにやられて、頭や体を撫でては誉めまくるということを繰り返して母に呆れられていたのだが。
(この世の全てのものと比べて、サクラは一番かわいい存在である。)
由姫は本心でそう思っていた。
リビングに行くと、母にこれから公園までサクラと散歩に行くことを伝える。
「車に気を付けていくのよ。何かあったら携帯で直ぐに連絡頂戴ね。」
「はーい。」
由姫は母に答える。
「んんーんーーん───。」
声のする方を向くと、父が猿轡をされて手足を縛られていた。
「お父さん? なにやってるの?」
由姫が父に尋ねたが、答えは母から聞こえてきた。
「気にしなくていいわよ。それよりも今日は一貴君も一緒なのよね?」
「うん、公園で待ち合わせてるからそろそろ出ないと。」
由姫は、時計を見て時間を確かめると母にそう告げた。
「そう、それじゃ行ってらっしゃい。サクラも気を付けて行くのよ?」
母はサクラを撫でてそう話しかけた。
「行ってきまーす。」
由姫は、サクラを連れて外へと出ていった。
父の扱いが段々と雑になっていく汐崎家であった。
家の門から出たサクラは、少しおどおどした様子を見せて不安げに外の様子を伺っていた。
「サクラ、私も付いているしゆっくりでいいから頑張ろうね。」
由姫が優しく話しかけて、サクラの少し前を歩いていく。
その様子を見て、サクラは少しずつ由姫の後を追うように付いてくる。
由姫はサクラを抱き上げたい衝動に駆られながらも、なんとか押さえ込むと声を掛けて励ます。
近所の家の前を通ると、ちょうどお婆さんが門の前にいた。
「あら、由姫ちゃんじゃない。こんなに早くにどこかへお出掛けかい?」
「山田のお婆ちゃん。お早うございます。今からこの子の散歩に行くところなんです。やっと外に出られるようになったので。」
由姫はそう言うと、サクラを紹介する。
「あらー、可愛い子だねえ。由姫ちゃんの家で飼っているのかい?」
「はい、一月くらい前に捨てられてたのを見つけて。」
由姫がそう説明すると、お婆ちゃんはサクラの頭を撫でる。
「よかったねえ、良い家に拾ってもらえて。由姫ちゃんは優しい子だからね。」
由姫は恥ずかしそうに「そんな事ないです。」と告げた。
「由姫ちゃん、気を付けていくんだよ。」
「はい、ありがとうございます。行ってきます。」
由姫はお婆さんに手を振ると、一貴の待つ公園に向かっていく。
公園にたどり着いた由姫とサクラは、ベンチに座っていた一貴のところへと向かう。
「おはよう、ごめん待たせた?」
「おはよう由姫ちゃん。僕もさっき来たばかりだよ。」
朝の挨拶を済ませた二人は、散歩のコースを公園の池の周りを歩くことにした。
「サクラは大丈夫だったかい?」
サクラの頭を撫でながらそう尋ねる一貴。
「クゥン。」
そう鳴くと、しっぽを振って一貴に甘えるサクラ。
「元気そうでよかったよ。」
「最初はちょっと不安みたいだったけど、ここに来るまでに大分慣れたみたい。それに、今は一貴くんも一緒だからね。」
由姫は一貴にそう答えると、一緒になってサクラの体を撫でていた。
一通りサクラを可愛がった二人は、公園内を歩き出す。
早朝だけに人通りはそれほどいなかったが、ランニングをする人、同じく散歩をする人、ベンチで休んでいる人等がちらほら見られた。
『おはようございます。』
「はい、おはようございます。可愛いワンちゃんね。」
お年の召した老夫婦が対面方向から来たため、挨拶を交わす由姫と一貴。
公園内ですれ違う人に挨拶を交わしながら歩いていると、同じく子犬を連れた女性が前からやって来た。
『おはようございます。』
「おはよう。あら、そちらも可愛い子を連れているのね。」
その女性は二十代程の人で、連れている子犬はサクラよりも少し大きい位だった。
サクラは、初めて近くで見る自分以外の犬に怯えるように由姫の後ろに隠れてしまう。
「あらあら、ごめんなさいね。ヤマトが脅かしちゃったみたいね。ほら、あなたはこっちに来なさい。」
そう言うと、女性は自分の犬を抱き抱える。
三人はお互いに自己紹介をした。彼女は大学三年生の
飼い犬はヤマトという男の子で、生後半年程なのだそうだ。
「あなたはサクラちゃんて言うのね。まだ小さくて可愛い女の子ね。これから家のヤマトをよろしくね。」
「ほら、サクラも挨拶をしようね。」
由姫はサクラを抱え上げて、ヤマトの前まで連れていくと、お互いに鼻をひくひくさせていた。
「私は朝は大体この時間にはいつも散歩に来ているから、もし会えたらこれからもよろしくね由姫ちゃん。」
「こちらこそよろしくお願いします優花さん。」
そう言うと、優花は家に帰るとのことなのでここで別れることになった。
「よかったね。さっそくサクラのお友だちができて。」
「うん。これから、たくさんの友だちを作って一緒に遊ぼうね。」
由姫は一貴の言葉に頷くと、サクラにそう話し掛けて再び散歩コースに戻った。
それから、十五分ほど休み休み公園内を散策したがサクラも疲れを見せてきたので、今日はこの辺りで切り上げることにした。
「一貴くん、今日はありがとうね。もしよかったらこれからも付き合ってくれたら嬉しいな。」
「もちろん。朝の散歩も結構気持ちの良いものだしね。」
「そうだ。今日私のバイト先の喫茶店でE組の競技大会準優勝を祝って打ち上げがあるんだけど、一貴くんも参加する?」
由姫は一貴にそう尋ねた。
「うーん、折角だけど今日は止めておくよ。E組の人たちだけの集まりに、僕が参加して空気を悪くしても申し訳ないし。また今度、喫茶店には寄らせてもらうよ。」
一貴はそう言って断ってきた。
由姫は自分のバイト先を一貴に告げると、時間があったら是非来てと伝えると、サクラも疲れてきた様子なので家に帰ることにした。
「ただいま~。」
由姫は家に帰ると、玄関に用意しておいたタオルでサクラの足の裏を拭くと家の中に入っていく。
「お帰りなさい。どうだった? 変わりはない?」
「散歩は順調だったよ。サクラにさっそく友だちが出来たの。ヤマトっていう男の子で、生後半年くらいだって。」
由姫が母に嬉しそうに報告する。
「あら~良かったわねサクラ。家の子は男の子を捕まえるのが上手いわね。」
「なに言ってるの? サクラはまだこんなに小さいんだから、まだお付き合いするのは早すぎます!」
由姫はサクラを抱き締めると、サクラは嬉しそうに「く~ん。」と鳴いていた。
「貴女は、そう言うところはお父さんに似たのね。何か、親バカの影がダブって見えたわ。」
「失礼ね。一緒にしないでよ。」
由姫の余りの言葉に、陰で大ダメージを受けていた父。
何を言っても無駄だと思った母は、それ以上の追及は止めることにした。
言葉の流れ弾で、父に死の危険(精神的なもの)があったこともそうさせる一因ではあったが。
その後、バイトの時間になった由姫は喫茶店へと向かった。
「今日は、由姫ちゃんの学校の人たちが来るんでしょ」
そう尋ねてきたのは、同じバイトの歩であった。
「はい。この間学校であった競技大会の準優勝のお祝いに、同じクラスの人たちと打ち上げなんです。この店を使わせて貰えることになったので。」
「それなら、由姫ちゃんもバイト休んで一緒に参加すれば良かったのに。」
歩の言葉に「部活もあってバイトできる時間も限られてるので。」と答えた由姫。
平日の夕方からのバイトは、両親からも認められなかったので基本休日のみしかシフトを組めない由姫であった。
やがて予定の時刻になり、店の前にはEクラスの生徒たちが集まっていた。
「こ、ここが汐崎さんのバイト先の店か・・・。」
「なんか緊張してきた。」
「いいから早く入ろうぜ。もう時間だろ?」
時間を確認した木坂は、全員集まっていることを確認すると店の中に入っていく。
カランカラン。
『いらっしゃいませ。』
ホールにいた由姫と歩は、声を揃えてお客様を出迎える。
オオオオオオオオ────。
由姫の喫茶店の制服姿を見て思わず声を漏らすクラスメイトたち。
フリルの付いた白いエプロンに、黒を基調とした制服はまるでメイドさんと言われるそれであった。
思春期の男の子たちに興奮するなというのが無理な話かもしれない。
ジロジロとクラスメイトたちの視線が由姫の体に突き刺さり、恥ずかしそに頬を染めた由姫。
ゴクリ!
その仕草がクラスメイトたちを、余計に興奮させるだけだというのに。
ゴオオオオ!
真澄のオーラが、クラスメイトたちに襲い掛かる。
クラスメイトたちは、状態異常魅了から恐慌に変化した。
「ヤッホー由姫。昨日ぶり。」
「今日は由姫さまを差し置いて、すみません。」
美緒と真澄が話し掛けてくる。
結局あの後、賞品の図書カードを返して貰った美緒は、土下座して由姫に感謝していた。
「いらっしゃい、美緒、真澄ちゃん。好きなところに座って貰って良いから。木坂くん、みんなに席についてもらうようにお願いしていい?」
「了解。みんなー、空いているところに好きに座って良いぞ。汐崎さんに迷惑かけないようにな。」
『はーい。』
「みんな元気がいいねえ。さすがは高校生だね、若いなあ。」
歩はそう言うと、各テーブルにお冷やとおしぼりを配る。
由姫と同じシフトだった博哉も一緒に行った。
「歩さんは大学生何ですか?」
クラスメイトの一人が歩に話し掛ける。
「そうよ。今年大学二年なの。よろしくね。」
「おおお、リアル女子大生! 大人だ。」
男子たちは何やら興奮しているようだった。
「汐崎さん、ありがとうございます。あの、制服よく似合ってますよ。」
「ありがとう。なんか少し恥ずかしいんだけど。」
由姫は顔を赤らめて、持っていたお盆で体を隠す仕草をする。
「おい、抜け駆けするなよ。」
「俺たちも似合ってると思ってたんですよ。」
周囲のクラスメイトも話に加わろうとしてくる。
「あらー、由姫ちゃんは相変わらず大人気なのねー。こんにちは、今日はみんな楽しんでいってね!」
マスターがホールにやって来ると、男子生徒に対してウインクを投げ掛ける。
ザワザワ、ザワザワ。
男子生徒たちは、行きなり現れた髭を生やしたダンディな男を見て、その口調のギャップからざわめき始めていた。
「あ、あの~、汐崎さん? あちらの方は一体どなたなんでしょうか?」
一人の勇気ある男子生徒が質問をする。
「ああ、あの人はこのお店のマスターなの。とっても優しくて、いつもお世話になってるんだ!」
由姫がすごくいい笑顔でそう答えてきたため、男子生徒たちは自分の体を嘗め回すように見られていたことについて、なにも言えなくなってしまった。
「お、おい。あの人お前のことを見てたよな。」
「ふざけんなよ。どう見ても視線はお前にロックオンしてたわ!」
男子生徒たちがにわかにざわめきだす。
普段、由姫の視線が自分を捉えていたと主張していた男たちは、今必死にマスターの恐怖から逃れるために押し付けあっていた。
クラスメイトはそんなこんなしていたが、由姫と歩と博哉は厨房から先に用意していた料理を持ってくると、各テーブルに配り始める。
『お待たせしました。』
料理を運んできた由姫と歩は、各テーブルに料理を置いていく。
『おおおお────。』
テーブルに並べられたのはナポリタンを始め、サンドイッチやサラダ、ピザ、ドリア、ポテト、唐揚げなどの高校生が好きそうなメニューが目白押しであった。
始まりの乾杯の音頭のため全員にドリンクが行き渡ったところで、木坂が立ち上がると挨拶を始めた。
「皆、球技大会はお疲れ様でした。皆の協力のお陰で一年生にして準優勝という快挙を成し遂げられた。これも皆の努力と汐崎さんの存在のお陰だも思っている。乾杯の音頭は我がクラスの代表の汐崎さんにお願いしたいと思う。いいかな?」
『わあああ。』
パチパチパチパチ────。
木坂がそう言うと、クラスメートたちは頷きながら拍手で賛成していた。
「えー、私? 行きなり言われても・・・。」
そう言うも、皆からの期待に応えないわけにもいかなくなり、仕方なく木坂と入れ替わりに皆の前に立つ。
「由姫ー、がんばれー。」
「由紀さま、ファイトです。」
美緒や真澄の声援に、由姫はやがて話始めた。
「今回の球技大会では、皆それぞれに努力を重ねて、試合ではその力を出し切れた結果だと思っています。皆の頑張っている姿を見て私はそう思いました。クラス共同で初めての思い出ができて、とっても嬉しいです。これからの十ヶ月間皆と最も楽しい思い出をたくさん作っていきたいです。準優勝おめでとう。皆かっこよかったよ。それじゃあ、カンパーイ!」
『カンパーイ!!』
皆がグラスの飲み物を飲み干すと、パチパチパチパチ────と盛大な拍手が沸き起こっていた。
「汐崎さん、俺のことかっこいいって言ったぞ!」
「アホか、皆って言ってただろうが。都合のいいとこだけ抜かしてんじゃねーよ!」
「ふっ、やはり俺のホームランが彼女の心を盗んでしまったようだ。」
「お前が打ったときには試合はもうすでに着いていた後じゃねーか。」
男子生徒たちが由姫の言葉に一喜一憂しているなか、女子生徒たちはいつものことというように食事を始めていた。
「う~ん、美味しい。」
「こんなところに隠れた名店があったなんてね。これからたまに来るのも良いかもね。」
しばらく談笑しながら進む食事も一段落すると、由姫の事に話題が移るのだった。
「汐崎さん、その制服とっても可愛いね。」
「ありがとう、ちょっと恥ずかしいけどデザインは気に入ってるんだ。」
「ねえねえ、折角だから皆で写真とろうよ。」
「あっ、いいね! 汐崎さんもこっちきて。」
逡巡していた由姫だったが、他に客もいないしマスターからも許可を得たため女子たちと代わる代わる写真を撮っていくのだった。
そうなると、黙っていられない男子たち。当然にメイド姿の由姫を撮るためにスマホを取り出すたのだが、『ギロリ』そう真澄に睨まれて動けずにいた。
「くっ、隙がねぇ。」
「誰か何とかしてくれ、このままじゃこんな貴重なチャンスをみすみす潰しちまうぞ。」
「そんなん言うならお前が何とかしろ。」
そんな男子たちに救世主が現れる。
「はぁ~。しょうがないなお前たちは。ねえ皆、折角の機会だし全員で記念撮影しようよ。ほら皆こっち集まって。」
木坂がクラスメート全員に号令をかける。
『木坂~。お前のこと誤解していたよ。』
『お前がナンバーワンだ。』
なんのこっちゃ知らないが、この時木坂は初めて男子生徒たちに学級委員の纏め役として認められることになる。
「はーい、じゃあ皆撮るよー。」
由姫を中心にEクラス全員で記念撮影をする。カメラマンは歩がすることになった。
「3・2・1」カシャッ!
『やったー!』
「データ俺のスマホに送ってくれ!」
「ばか、俺が先だ。」
「ここは公平にくじ引きにしよう。」
「ふざけんな、てめーそのくじ全部外れじゃねーか。」
相変わらずの様子であった。
「あっ、そうだ。みんなに食べてほしくて私家でパウンドケーキ焼いてきたんだけど、良かったら食べて?」
「うわー、いいの? ありがとう。」
「食べたい食べたい。」
「まじか、汐崎さんの手作り・・・。」
「俺、家宝にしよう。」
「俺も。」
いや食えよ、という話はさておき由姫は博哉の元に向かう。
「あの、博哉さん。先日はお世話になりました。もし良かったら博哉さんにも食べてほしいと思って・・・。」
由姫は博哉にパウンドケーキを手渡す。
「気にしなくていい。別に君が悪いわけでもないし仕事だしな。でも、これはありがたく貰うよ。仕事が終わったら頂くよ。」
受け取ってもらえたのが嬉しい由姫は、笑顔で「ありがとうございます。」と博哉に告げた。
「お、おい。あいつは誰だ? なんかスゲー親しそうに話しているし、汐崎さんめちゃくちゃ嬉しそうにしてるぞ。」
「バイトの先輩だと。しまった、その手があったか。分からないことは手取り足取りとそんな羨まけしからんことを。」
馬鹿どもが右往左往するなか、女子たちも話題がそちらにいく。
「うちのバカどもと違って、あの人は大人よね。」
「私が水を溢したときも、さりげなくタオルを持ってきてくれて、片付けまでしてくれたもん。やっぱ大人の男の人は違うわよね。」
『けっ、あんな優男!』
男たちの恨みの視線が博哉に集まっていた。
「マスターと歩さんにもありますので、良かったら食べて下さい。」
「ありがとう由姫ちゃん。」
「あら、私までいいの。悪いわねー。」
歩とマスターもクラスメートたちと共に由姫の手作りパウンドケーキを食べる。
「美味しい!」
「お店で出しても良いくらいよ。」
「まじでうまいー。」
「我が生涯に悔いはない。」
「そんな事ないよー。作り方は簡単だから誰にでも作れるし。」
クラスメートから絶賛されて、照れる由姫。
「由姫ちゃんはほんとうに良い子に育ったのね。あの響子からこんなに素直な良い子が出来たなんて信じられないわ。」
マスターは染々と由姫を見てそんな感想を述べていた。
「あははは、母がご迷惑をお掛けしてすみません。」
由姫は苦笑いをしながら答える。
「まあ、響子もあれはあれで人からは好かれていたけどね。曲がったことが嫌いで、よく困った人を助けていてね。皆の纏め役のようなことをしていたわね。一種のカリスマね。その分振り回される人は続出してたけど・・・。」
マスターの話に、さもありなんという感想を持った由姫。
(お母さんももう少し大人しくなってくれたらなぁ。全く想像できないけど。お父さんもよくお母さんと付き合う気になったものよね。お母さんでもその時はおしとやかだっのかな? まさか~。)
そうこうしている内に、貸しきりの時間は終わり打ち上げはお開きになった。
「今日はありがとうございました。」
「お世話になりました。」
『汐崎さん、ありがとうございました。』
クラスメートたちがマスターや由姫へとお礼を告げて店を出ていく。
「いやー、汐崎さんの制服マジやばかったな。」
「ああ、これから汐崎さんがシフトの時は通おうぜ!」
「おっ、おい! あれ・・・。」
男子生徒たちが盛り上がるなか、一人が声をかけてきたので振り返るとマスターが男子生徒たちにウインクと投げキッスをしていた。
男子生徒たちはその時、マスターがまるで猛禽類のように狙いを定め舌舐めずりしている幻覚が見えたという。
『う、うわああああああーーーー!!』
その後、何故か由姫のクラスの男子生徒たちはこの店に近寄らなかったという・・・・・・。
「ただいま~。」
「キャンキャン!」
由姫が玄関を開けると、元気よくサクラがお出迎えに来てくれる。
「サクラ~。寂しくなかった?」
「クゥーン、クゥーン。」
サクラを抱き上げてあやしながら、リビングへと向かう。
「お帰りなさい由姫。どうだった?」
「ただいま、もう疲れたよ~。でもみんなと一緒で楽しかった。」
「由姫は良いわね。青春の真っ只中で。」
母と話していた由姫はふと気になることを尋ねる。
「ねえ、そういえばお父さんは? 何処かに出掛けたの?」
「あっ、いっけない!」
母は慌ててソファーに向かうと、何やらごそごそしていた。
「一体なにが・・・ってお父さん! まさか朝からずっと?」
由姫が目の当たりにしたのは、縛られたまま猿ぐつわをされ、力なくぐったりしている父の姿であった。
「あははははは、つい忘れていたわ。」
「お母さん───。」
ジと目で母を見る由姫。
(この人が本当にマスターの言う人物とはとても思えないんだけど・・・。て言うか父よ、なんでこの母と結婚したの?)
由姫は心底不思議そうに思った。
その日の母は、何時もより父に優しくしていたことは由姫には関係のないことだった。
14回目の誕生日を迎える双子の兄が通り魔に襲われ妹を庇い享年14歳・・・・・・のはずが妹に憑依しちゃった。 コタツダイスキ @kotatudaisuki
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