第15話 デート

 競技大会が終わった日の翌日の土曜日、今日は喫茶店のバイトもなくフリーだった由姫は、一貴から誘われていた映画鑑賞を今日にしようと伝えていた。


 一貴からの返答は二つ返事でOKだったので、今日は朝からどの服にしようか悩んでいた由姫なのであった。

「う~ん、どれにしようかな。ねえサクラ、どれがいいと思う?」


 由姫はカーペットの上に並べた服を見ながら、腕の中に居るサクラに問い掛けていた。

 当然答えなど返ってくるはずもなく、「く~ん。」と鳴いて由姫の手を舐めるだけなのだが、「よし、じゃあこれにしよっか!」と答えを出す由姫。


 一種の儀式のようなものなのだが、由姫にとっては大切なことなのだろう。

 結局、悩んだ末に出した答えはコットンギャザーのワンピースだった。

 特に、今日は気を張る相手でもないしシンプルにいくことに決めた由姫。


(それにしても、一貴と一緒に遊びに行くなんて久し振りだな。昔は、しょっちゅう由姫と三人で遊びに行ったものなのにな。やっぱり性別が違うと、何となく疎遠になっちゃうのかな?)

 由姫は、勇樹だった頃を思い出すとついそんなことを考えていた。


 服を着替えた由姫は、姿見の前で一回転して何処かおかしなところがないかチェックをする。

「どうかな、サクラ?」

 サクラにも確認をして、鳴き声で肯定の返事と受け止めた由姫は、サクラと共に一階のリビングへと向かった。


「あら、由姫。おめかしなんかして何処かへ出掛けるの? 今日はバイトはなかったはずよね。」

「あっ、お母さんに言うの忘れてた。ごめんなさい、お母さん。今日は一貴くんと映画を観に行く約束してたんだけど、サクラのこといいかな?」


 由姫は、母に伝え忘れていたことを思い出して、慌ててそう告げた。

「あら、デートなの? それなら良いわよ。お母さんに任せなさい!」

 母は、嬉しそうにそう言ってきた。


(いや、デートじゃなくて幼なじみと遊びに行くだけなんだって・・・、何て言ってもどうせ聞かないしな。)

 由姫は、学習のできる子なのである。言っても無駄なことは分かりきっているので、敢えて言葉を飲み込んだのだった。


 しかし、由姫は忘れていた。否定しないことがそれを認めていると受け止めてしまう、問題児が家には居たと言うことを。

「何だと! 由姫、父さんはそんな話聞いてないぞ! 認めん、認めんぞ。結婚するまでは、不純異性交遊なんて絶対ダメだ!」


(あっ、父さんのことすっかり忘れてた。くそ~、結局こうなるんだから!)

(ふっふっふっ、まだまだ甘いわよ由姫。)

 結局、どっちに転んでも母に弄ばれてしまう由姫なのであった。


「ほらほら、あなたは落ち着いて。あなただって私と初めてデートしたのは、高校の時だったでしょ。それなのに娘には認めないなんて、そんな身勝手は許しませんよ。」

 母は、由姫に助け船を出した。


「しかし、母さん・・・。」

 有無を言わせぬ圧力に屈した父。

(こうなったらコッソリと・・・。)

「言っておきますが、後をつけようと何てことさせませんからね?」

「そんな~。」

 母は、ニッコリと笑って(目は違う)そう告げた。

 父の目論みは、こうして始まる前に潰えたのだった。


 ピンポーン。

 呼び鈴がなったので玄関に向かった由姫が扉を開けると、そこには私服姿の一貴が立っていた。

「おはよう、一貴くん。」

「おはよう由姫ちゃん。」

 お互いに挨拶を交わす二人。


「もう出られるかな?」

「うん、大丈夫。」

 由姫はそう言って外に出ると、母と父が玄関まで来ていた。


「おはようございます。」

 一貴が由姫の両親に挨拶をすると、二人も返事を返してから一貴に話し掛けてきた。

「一貴君、今日は由姫のことよろしく頼むわね。」

「はい。」


「あー、一貴君。君達はまだ学生だからな。あまり羽目を外しすぎずに、節度をもって行ってきなさい。もし、万が一にも由姫にもしものことがあったら・・・。」

 バシ!

 母のお盆の突っ込みが、父に炸裂した。

「ごめんなさいね、一貴君。二人で仲良く楽しんできてね。」

 母は取り繕いながら、一貴にそう話しかけた。


「はい、ありがとうございます。おじさんも、由姫ちゃんは必ず無事に家まで送り届けますので。」

 一貴が父に頭を下げてそう言った。


「う、うむ。それならば気を付けて行ってきなさい。」

 父の許しを得た一貴は、頭を上げると二人に「それでは行ってきます。」と告げた。

 由姫も、サクラと両親に対して「行ってきまーす。」と言うと玄関の扉を閉めていった。


 通りを歩きながら駅へと向かう二人。

「ごめんね一貴くん。お父さんが変なこと言って。昔みたいにただ遊びにいくだけなのに、何を勘違いしているのか。」


 由姫が今日のことを全く理解していないのに苦笑する一貴だったが、「まあ、しょうがないよ。」と言うだけに留めた。


 他愛のない話をしながら歩いていた二人は、やがて駅に着き電車に乗り込むと映画館のあるショッピングモールに向かっていった。


「ねえ、あの二人見てみて。」

「どれどれ、うわ、なにあの二人。モデルさん並みの美男美女何ですけど。」

「二人ともやっぱりカップルなのかな?」

「そりゃそうでしょう。あんなに近付いていて、お互いに気を許し合ってる関係のなんて恋人同士くらいでしょ。」


「くそ! 朝から見せつけやがって。」

「止めろ、それ以上言うと虚しくなってくるから。俺たちには縁の無い世界なんだ。」


 車内では、あちこちで由姫たちを見てはヒソヒソと話をしていた。

 しかし、一貴が由姫を周囲の視界から遮るように立ち、向かい合って学校での出来事や昔話に花が咲いて、由姫はそんな周囲のことなど気が付いていなかった。


 やがて、ショッピングモールの最寄り駅に着いた二人は、映画館へと向かっていく。

「今日の映画は本当に楽しみだな。カーアクションがシリーズが進む度に派手になっていってるから、今度はどのくらい車が壊れるのかな? 久しぶりにワクワクしてくる。」


 一貴が持っている鑑賞券の映画は、シリーズ毎に車の破壊台数がうなぎ登りに増えていく日本でも人気の高いアクション映画であった。

 由姫も流石に女の子達、しかも高校生だけでこの映画を観るのはちょっとハードルが高くて観たいとは言い出せなかった。


 しかし、男だった頃からアクション映画は大好きだったために、一貴からの誘いは渡りに船であった。

「二人とも昔からアクション映画が好きで、良く付き合わされていたからなぁ。僕もすっかりはまっちゃったよ。」


 一貴は、よく勇樹と由姫と共に映画館に行っていた中学時代を思い出していた。

 あの頃から、何をするにも三人はいつも一緒だった。


「セットのポップコーンとドリンクでいいよね?」

「うん、はいお金。」

 一貴が由姫に確認をして来たので、由姫は割勘分のお金を渡す。


「いいよ、ここは僕が出すから。」

「なに言ってるの。こーゆーときは割勘て昔から決めてたでしょ。それに、映画代まで出してもらっているんだし、これ以上はもらえないよ。」

 由姫も勇樹も、昔からお金関係には母から厳しくしつけられていたので、そこら辺の考えはシビアであった。


「うわぁ、やっぱり公開初日だけあってほとんど満席だ。」

 由姫は、劇場内の座席に座っている観客を見てそう呟いた。

「そうだね。座席番号はJの23と24だからこっちだね。」

 一貴が由姫を先導して座席に向かう。


 由姫が階段を上っていくと、座席の観客から注がれる視線に少し居心地が悪い気分になる。

 ざわざわ───。

「まじか、すげぇ可愛い子じゃねえ?」

「ホントだ、って男連れかよ・・・・・・。」


 一貴は、由姫の座席の隣が女性になるように座席に促した。

 由姫は一貴にお礼を言って座席へと座る。


 由姫は隣の席の二人を見て、どうやらカップルのようだなと思った。

 やがて劇場内が暗くなり上映が始まった。


 映画は序盤からカーアクションが満載で、手に汗握る展開になっていた。

 由姫はスクリーンを見つめたままポップコーンを食べようとして、一貴の手と手が重なってしまった。


「あっ、ごめん。」

 由姫はそう一貴に謝る。

「ううん、気にしないで。」

 一貴はそう由姫に答えた。

 もし、この場が明るかったなら一貴の顔が赤くなっていたことに由姫は気が付けたのだろうか。


 映画の話も進み、お約束の男女のキスシーン等もあり由姫は何となく気まずいように感じる場面が何度か合った。

 由姫の目が不意に隣に向くと、カップルの女性が男性の肩に頭を預けイチャイチャしているところだった。


(うわ、隣でリア充がまさにリア充しているところだった! そーゆーのはラブロマンスの映画でしてくれ。)

 由姫は思わず内心でそう思ったが、端からは「お前たちも同類だろう」と言われる存在だと気付いていなかった。


 隣のカップルの存在を意識的に消去した由姫は、ようやく映画が終わったので一貴と外へと出る。

「いやぁ、車がすごい数破壊されていく様子が迫力満点で面白かったね。」

「そうだね。それにハッピーエンドで良かったよ。」

 一貴の感想にそう答えた由姫。


 由姫は、基本的にハッピーエンドものが好きで、悲しい物語などが苦手であった。

 もちろん嫌いなわけではないのだが、どうしても見終わった後に引きずって暗い気持ちになってしまうからだった。


「一貴くん、この後ちょっと寄っていきたいところが在るんだけどいいかな?」

「うん、別に構わないよ。何処に行くの?」

 一貴の了承を得た由姫は、「こっち。」と言って一貴を先導する。


 由姫がたどり着いた場所は、ペットグッズが売っているお店だった。

「サクラもそろそろ大きくなって来て、この間予防接種も受けたからそろそろ外の散歩に連れていけるようなの。だから、今日はリードとか買っていこうと思って。」


 由姫はそう言うと、リードが置かれている場所を探して、棚から手にとってはサクラに似合うかなとか、機能性を確認していった。

 一貴は真剣に悩む由姫を微笑ましく眺めていたり、時々意見を聞かれてはそれに答えていた。

 やがて、納得のいくものが見つかり漸く買うことができた由姫。


「ごめんね。長い時間付き合わせちゃって。もうお昼過ぎちゃったね。」

「大丈夫だよ。僕もサクラのこと考えてたら時間忘れちゃてたよ。」

 由姫の謝罪に、一貴は笑いながらそう答えていた。


 そう言ってくれて少し気が楽になった由姫は、それじゃあ何処かで昼食にしようかと一貴に言うと、後ろから声がかかる。

「あれ、由姫ちゃん?」


 そう呼ばれた由姫は、後ろを振り返るとそこには笹本動物病院の看護師をしている美奈子がいた。

「美奈子さん、どうしてここに?」

 由姫は、美奈子にそう問いかけていた。美奈子の隣を見ると、そこには若い男性が一緒いることに気が付いた。


「やっぱり由姫ちゃんだ。そんなに綺麗な髪をしている人が、そうそう他にいるわけ無いと思って声をかけたんだけど人違いじゃなくて良かった。」

 美奈子はそう由姫に言ってきた。


「あっ、一貴くん。この人は笹本美奈子さん。動物病院で看護師をしていてサクラのことを助けてくれた人なの。」

「初めまして。僕は六条一貴と言います。」

 一貴が美奈子に自己紹介をする。


「初めまして、私は笹本美奈子と言います。こっちは木佐森将治きさもりしょうじと言って、獣医学生をしている私の彼氏なの。」

 両親に美奈子の隣にいたのは彼氏のようだった。美奈子さんほどの美人なら、彼氏くらい居ても不思議じゃないと思い納得する由姫。


 美奈子に紹介された将治は、一貴と由姫に挨拶をする。

「それにしても、やっぱり由姫ちゃんにも彼氏さんがいたのね。それだけ可愛いんだからいるとは思っていたけどね。」

 美奈子にそう言われた由姫は、慌ててそれを否定する。


「ち、違います。一貴くんは、小さいときからの幼馴染みで友達なんです。」

「えー、本当? すごくお似合いのカップルに見えるのに。」

 美奈子は、疑うようにそう由姫に言ってきた。


「まあまあ、美奈子もあまり若者を困らせないように。こういうのはゆっくり時間をかけていく問題なんだから。」

 将治はそう言うと、何か由姫と一貴を微笑ましく見ていた。


(なんか絶対勘違いされてる!)

 由姫は、将治を見てそう思ったが流石に年上の男性に突っ込むことが出来ずにいた。


「そうだ、由姫ちゃんたちもこれからお昼でしょ? 一緒にどうかな?」

 美奈子が由姫を誘ってきたので、二つ返事で了承した。


 レストラン街を歩き、みんなの意見を取りながら店内に入っていく。

 注文した料理が出てくるまで、ドリンクバーの飲み物を飲みながら四人は会話をしていた。


「いやぁ、それにしても美奈子の言ってた通りの子だったんだね。少しオーバーに言ってるだけだろうと思っていたんだけど。」

「だから言ったでしょ。日本人離れした可愛い子だって。」

 美奈子と将治は、由姫を見てはそんなことを話していた。


 由姫はそんな会話を聞いて照れ臭くなり、「そんなこと無いです。」と否定するのがやっとだった。


「うちの学校のやつらが見たら、それこそ大騒ぎしそうだよ。今だって周囲から視線を感じるし。」

「一貴くん、ちゃんと由姫ちゃんを守ってあげてね。」

 将治と美奈子がそんなことを言ってきた。


「そのつもりですから大丈夫です。」

 一貴が恥ずかしげもなくそう告げてきた。

「あら、言うわねぇ。本当に二人は付き合ってないの?」

 美奈子の問に幼馴染みなのでと答えた由姫。


「まぁ、でも私と将治も幼馴染みのようなものだったし、それがこんな関係になっているんだから将来はどうなるか分からないわよ。」

 美奈子がそう忠告してくる。


(ところが私は男なのでそれはない───、何て言えないよね。)

 由姫は一貴の方を向いて乾いた笑い声を出していた。


 昼食はそんな感じで過ごし、デートの邪魔をしちゃ悪いので美奈子たちとはそこで別れることにした。

「サクラちゃんも大分大きくなってきたし、外に散歩にいくのはいいけどあまり無茶はさせないようにね。」


 別れ際の美奈子の言葉に了承すると、由姫たちは美奈子たちを見送った。

 由姫の「折角だから、一貴くんも何処か行きたいところはない?」と言われた一貴は、「服でも見ていこうかな」と言ったので、洋服の売っているエリアへと向かうことにした。


 服を見ていた一貴に、由姫は似合いそうな服を数着ほど持ってくる。

「これなんかどうかな? よく似合うと思うよ。」

「そうかな? ちょっと試着してみるね。」

 由姫から手渡された服を持って、店員に試着室に案内してもらう。


 一貴は、試着するとカーテンを開けて由姫に感想を聞く。

「うん、やっぱり一貴くんにとても似合って格好いいよ。」

「彼女さんの言うとおりとてもよくお似合いですよ。」

 由姫の言葉に、店員も同意してくる。


 店員に「彼女じゃないです」とは言えなかった由姫は、ハハハと引き攣った笑いをしているだけだった。


「くそ、見せつけやがって。」

「言うな、虚しいだけだ。」

「俺が二人の服選んでやろうか?」

『要らねえよ?』

 由姫たちを見ていた三人組の男たちはそんなやり取りをして、ショップから出ていった。


「折角選んでもらったからこれ買います。」

「ありがとうございます。今お包みしますね。」

 一貴は試着した服を店員に手渡すと、レジに向かって購入することにした。


 買い物も終えて午後三時を過ぎた頃なので、そろそろ帰るという話になったので由姫が提案をする。

「この後家にくる? サクラもきっと一貴くんに会いたがってると思うんだけど。」

「お邪魔じゃなければ行こうかな。」


 そう言って一貴は、由姫の家でサクラと遊ぶことになった。

「ただいま。」

「お邪魔します。」

 二人は由姫の家へと帰ってきた。


「あら、お帰りなさい。一貴君も来たのね。折角だし夕飯を食べていきなさい。今日は由姫がお世話になったし、家には連絡しておくから。」

 母は一貴にそう言うと、「ありがとうございます。ごちそうになります。」と答えていた。


「じゃあ夕飯の準備までは部屋でサクラと遊ぼう。」

 由姫は、サクラを抱えると二階のサクラの部屋へと向かった。


 二階に上がった由姫は、サクラを放すと早速今日買ったリードをためしにつけてみた。

「サクラ、もう少し経ったらこれをつけて外に散歩に行こうね。」

 サクラと散歩の練習をしていると、由姫の足元でじゃれついて来てしまうサクラの様子に苦笑して結局抱き抱えてしまう由姫。


「もう、しょうがないなあ。」

「きゅーん。」

「サクラはまだ小さいからしょうがないよ。焦らずにゆっくりやれば良いよ。」

 一貴はそう言うとサクラの頭を撫でる。


 サクラは「クーン。」と鳴きながら目を閉じて気持ち良さそうに撫でられていた。

 その後は部屋で、サクラとボールを追い駆けたり、紐で綱引きをしてみたり、お座りやお手を教えて由姫が孫を誉める祖母ぐらい甘々になったりして時間が過ぎていく。


 その後、夕御飯の準備をするために由姫はキッチンにおり、一貴はリビングで父とソファに座っていた。

「一貴君、今日は特に変わったことはなかったかね?」

 父が一貴に話を振る。


「そうですね。映画を観て、買い物をしたくらいですかね。あっ、そういえば動物病院の笹本美奈子さんと会ってお昼を一緒にしました。」

「ほう、それは偶然だな。美奈子さんは買い物にでも来ていたのかな?」

 父の問に一貴が答える。


「彼氏と一緒にデートをしていたみたいです。」

 デートと言う単語に父がわずかに反応する。

「ほ、ほう。まあ、美奈子さんも社会人だからな。デートくらいはするか。まあ、学生のうちは勉学・・が優先されるべきだと思うんだよ一貴君。そうは思わんかね?」

「そ、そうですね。」

 父が一貴の顔を見ながら、言葉を強調してそう告げてきたため思わず頷く一貴。


 バシ!

「なにバカなこと言ってるの? 夕食の準備できたわよ。一貴君ごめんなさいね。さあ夕食にしましょう。」

 母は父の頭をはたくと、二人にそう言った。


「すごく美味しいです。」

 一貴が夕食を食べた感想を述べる。

「それは由姫の手作りなのよ。一貴君どう? 毎日でも食べたいと思わない?」

「お母さんなに言ってるのよ。」

 母の言葉に突っ込みをいれる由姫。


「お父さんが毎日食べてあげるからな。」

「あなたは黙ってて。」

 父の発言を強制的に止める母。


「一貴くん、ごめんね。なんかうるさくて。」

「いや、とても楽しいよ。家だとこんなに明るい食事の時間なんてないからね。」

 由姫の言葉を否定した一貴。


「そうだ、今度サクラが外の散歩に行けるようになったら、一緒にいこうよ。サクラも嬉しいだろうし。」

「うん、その時は電話かメールで教えて。」

 由姫の誘いに快諾した一貴。


「お父さんも───。」

 バコン!

 父の言葉が聞こえてそちらを見ると、父はテーブルに伏せていた。

 お盆をもった母は、後ろに隠すと「おほほほほ!」と笑っているだけだった。


「じゃあ一貴くん、気を付けて帰ってね。」

「うん。それじゃあまた学校でね。」

 由姫は手を振りながら一貴を見送る。

 そんなこんなで夕食を終えた一貴は、自宅へと帰っていった。

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