第11話 まとめ 後編 & 終わりに
結局なんだかんだで一週間分の食料を買い込むと、彼女はスーパーを後にした。部屋に戻ると、ドアの横に買ってきた物を下ろし、真っ先に机に向かう。そして車のキーから赤べこをはずし、本棚の元いた場所に戻し、手を合わせた。
「何とか無事に戻ってこれました、ありがとうございます」
そして一礼をすると玄関にもどり、買い物袋の中から小さな黄色い花を取り出した。さっき駐車場の隅っこに咲いていたのを見つけたのである。名前も知らないその花を海苔の佃煮が入っていた小さな瓶に差し、水を入れると、本棚の二つの赤べこの隣のコップのそのまた隣に置いた。
「お花屋さんに寄りたかったんですけど、今月ピンチなもので」
そう言って、もう一度手を合わせた。
◆ ◆ ◆
彼女はまたジャージに着替え、日がな一日だらだらと過ごした。ネットを見てテレビを観てネットを見て。生産的なことは何も行わないまま一日が過ぎて行った。休みの日はこれでいいのである。予定なんて面倒臭い。何もしないからこその休みではないか。彼女は強くそう思っていた。
夜は更けてもうすぐ9時である。いつもならまだまだ起きている時間だが、今夜はそうも行かない。彼女の職場では朝の掃除は当番制であり、休み明けの明日は彼女が当番だった。明日の朝は7時には出社しなければならない。面倒臭いが仕方ない。今日はもう寝よう。彼女は立ち上がると、本棚の赤べこたちに向かって手を合わせた。
「神さま、今日は一日ありがとうございました。何とか無事で一日終わりました。明日は早起きしなきゃいけないんで、もう寝ます。あ、そうだ。明日から新しい人が来るらしいんですよ、本社からの出向みたいなんですけど、大丈夫かな。私、うまくやって行けるかな。また失敗しないといいんだけど。ま、そんなの今から心配しても仕方ないですよね。とにかく頑張ってみます。また明日も一日イロイロあるとは思うんですけど、どうか無事な一日になりますよう、よろしくお願いします。では、おやすみなさい」
彼女はベッドに入り、明かりを消した。明日は明日の風が吹く、そう思いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
前回・今回と、神さまと暮らす一日をシミュレートしてみました。だいたいこんな感じです。この通りにしなくてはならないということではありません。神さまとの暮らし方は、人の数だけバリエーションがあります。ご自分に合った暮らし方を築いて行ってください。
※終わりに※
オチは? と言われそうな気もしますが、エッセイなのでオチはありません。
この『手乗り神さま』を書いたのは、自分の中の宗教観をまとめてみたかったからです。小説として書くという手もあったのでしょうが、物語にするほど大量の言葉を要するとは思えなかったので、ハウツーエッセイにしてみました。
日本人はよく無宗教だと言われます。でもだからといって、超自然的なものの存在を完全に否定する人も、そんなに多くはないでしょう。大多数の日本人にとっての神さまは、創造神や全知全能の絶対神ではなく、自然の光や風の如く、もっとふんわりしたものだと思います。
その「ふんわり感」を形にしてみたつもりなのですが、どうでしょう。
このエッセイがあなたにとって、何かのきっかけや、何かを始めるとっかかりになってくれれば幸いです。神さまとの暮らしは、悪いものではありませんよ。
手乗り神さま 柚緒駆 @yuzuo
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