第28話

 さて、暴走する機械群と戦うことをあきらめた二回目の宇宙の八人はというと、一回目の宇宙から来たミタノアの指示するとおりに、辺境区へ行って、自給自足の生活をすることとなった。誰一人、死なずに住む歴史がつくられたのであり、その結果にミタノアは満足していた。

 八人はそれぞれ、この展開に満足していた。なぜなら、『失格者』にならなければ、この宇宙の創造神である無のゆらめきに出会うことすらなかったからだった。無のゆらめきに会って話をした喜びは、人類の認定を外されてもかまわないぐらい大きな喜びだった。

 暴走する機械群は、無のゆらめきを発見した時、無のゆらめきをどう扱うのか非常に悩み、システムエラーを起こしたのであり、主人である人類に無のゆらめきへの対応策を委ねることにした。一回目の宇宙では、それは無のゆらめきを殺してしまう残酷な神殺しが人類の決定だったのであり、一回目の宇宙の暴走する機械群は、無のゆらめきなど粗暴に扱うことに決定していた。しかし、二回目の宇宙では、無のゆらめきを人類は大事にして保護することにしたのであり、二回目の宇宙の暴走する機械群は、人類のなすがように、無のゆらめきを人類の如く扱うことに決定したのだった。

 無のゆらめきの観点からいえば、人類を含むあらゆる物質が無のゆらめきで構成された子孫なのであり、人類も暴走して成長する機械群も無のゆらめきにしか見えなかった。ビーキンは無のゆらめきが人類の目に観測できるように顕在化した姿であり、その本質はもっと遥か深遠につづいていた。

 すなわち、数年もたったある日、八人の人類の認定が復活したのだった。暴走して成長する機械群が、無のゆらめきであるビーキンを人類として扱えばいいことに気づいたからだった。暴走する機械群のシステムエラーは数年で修正された。

 宇宙がビッグクランチを起こすのは数千億年後のことである。ビッグバンから始まり、ビッグクランチで終わるこの宇宙にとって、途中でビッグバンコピーが行われようと、それは無邪気でかわいい戯れにすぎなかった。時空の誕生する前の、混沌のなかに存在するビーキンは、時間軸を無視して移動し観測することができるのであり、宇宙の創造と宇宙の終末を自在に組み立てていた。その組み立てた時空連続体のなかで、自分が死んでしまうというのも、ビーキンからすれば、ビーキンの視点でものごとを見ることができた被造物が、ビーキンのことを愉快なやつだと思ってくれることを期待してのことだった。

 暴走する機械群から、人類の認定をとりもどした八人は、それぞれがそれぞれの故郷へ帰っていった。ジェスタはジェスタの故郷へ、ミヤウラは持ち場である辺境区の小惑星へ、ジナは天体技師の研究所へ、トチガミは懐かしき地球へ、ビーキンは無のゆらめきの如く放浪のたびへ、ミタノアはミタノアの故郷へ、リザはリザの故郷へ、サントロはサントロの実験室へ、それぞれが帰っていった。八人は今ではかなりの仲良しになり、一年に一度、集まって近況を語り合うことにした。なぜなら、八人にはわかっていたからだ。自分たち八人が、人類のなかで最も特出した特性を持つ八つの極点であることを。

 八人は人類の認定をとりもどして、幸せに暮らした。

 そして、宇宙はリザの指定した終末に向かって動いた。

 勝ったのは、リザなのだ。リザの願いは確かに叶ったのだ。

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この神は脆弱だ 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

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