第4話 冷めた食事
一日に二度与えられた食事は、酷い味をしていた。薄暗く湿り気を帯びた床石の上、手枷も足枷もなく転がされたヨハンナは、床に置かれた器を前に絶望した。
罪人には家畜の餌が似合いとばかりに、適当に盛り付けられた野菜くず。一応火は通してあるようだが如何せん固い。生焼けなのだろう。玉菜(キャベツ)で腹を壊すことはないだろうが、匙を投げたくなる味だ。
「まず……」
初日、ヨハンナは半分も皿の中身を減らさなかった。二日目は空腹に負けて全部胃に収めた。吐き気が止まらなかった。三日目になると肉の端切れが一緒に出た。どうやら燻製肉のようで、火を通さなくとも食べられるが、やはり残飯らしさは否めない。とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「この国の食事はどうなってるの。せめてきちんと火を通すべきよ。でなくば生のまま出すべきだわ。この国の調理師は頭がおかしい。国民がこれならお上の能力も知れたものね。」
「面白いことを言いますねぇ貴女。」
吐き捨てられた愚痴に返事が帰ってくるとは知らず、硬直したヨハンナの手から匙が落ちる。床石を鳴らすスプーンを見て、これはもう使いたくはないな、と現実逃避に陥るヨハンナ。それを、身なりの良い貴族然とした男が見下ろしていた。
「初めまして。私はこの国の筆頭呪術師ガナン・カナン。誇り高きイ=ルーの影にして右腕。よろしく、シュト人のお嬢さん。」
長身痩躯、毒々しい蛍光色の青髪に血のような赤い瞳、血の気の失せた頬を歪める狂気の笑顔の呪術師は、そう言って手を差し出した。お節介にもシュト人の使うイルハ語で。
訝しげな顔のヨハンナは、聞くなりその手に唾を吐きつける。ドスの効いた低い女声が牢屋の中にこだました。
「下手くそなイルハを使うくらいなら、最初からお得意の帝国語を話しなさいよ。私たちにそれ位の学もないと?お高くとまっていらっしゃるのね、帝国の紳士様たちは」
ヨハンナの包丁 モル酸 @hiroko_samani
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