第3話 捕虜と少年兵 2
捉えたシュト人は、ちょうど同じ年の頃の女の子だった。
帝国は、無謀にも総力10万の兵で挑んできたシュト王国に対し、3億の兵を送った。その中の誰もが未だ訓練兵であり、本来の兵力とは比べ物にならないことを、王国はきっと知らない。引率につくのは帝国一番の剛の男と称えられる武官、ヘカート将軍。要は、向こうにとっては戦争でも、こちらは訓練兵の実地演習に過ぎないのだ 。
前方を駆ける少女が派手に転ぶ。木の根か柔らかすぎる地面に足をとられたらしい。可哀想に、兵隊の自分とさほど変わらぬほどその顔は汚れてしまっている。罪悪感と憐れみを圧し殺し、少年兵ハリスは手の長剣を少女の首に突きつけた。
「頼む……観念しろ…っ!」
脅迫の言葉は、まるで懇願のような響きをしていた。
恨めしそうに睨み上げていた少女の目がわずかに見開かれ、ゆっくりとその両手が上に挙がる。戦場における降伏のサインだった。
「よくやったな、ハリス訓練兵。巣穴から逃げだした子狐を捕らえるとは」
拠点に戻った後、ヘカート将軍の言葉にハリスの首筋が粟立った。戦慄したのは将軍褒められたことによる畏れではない。あの少女を子狐と、つまり狩りの対象であると表現したこの男のおぞましさに、だ。あのままでは、あの少女はろくに人扱いしてもらえないまま一生を終えることだろう。
「は、ありがたき光栄、身に余ります 」
片手を胸に添えて深々と腰を折る。いつも微笑みをたたえていた唇を、今日はきつく噛み締めていた。
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