第2話 捕虜と少年兵

蔓延る木の根と日陰の泥に足をとられながら、ヨハンナは全速力で駆けている。全身を巡る血はまるで沸騰しているかのよう、肺は焼けるように痛み、刻一刻と精神が削られていく。

若い枝は柔らかな肌を裂き、足元の泥が裾を汚す。とんでもない姿だと、ヨハンナは自分を嘲った。浅ましく、汚ならしく、無駄だと分かっても生きようとする。そんな人間の姿を見ても、きっと誰も救いの手を伸べることはない。

(っ…この世に救世主などいない)

どうして、自分でなければならなかったのか。なぜ、父でなければならなかったのか。なぜ、この国でなければならなかったのか。

堂々巡りの思考を止めないまま、さらに早く走ろうとしてつまづいてしまう。仰向けに見上げた青空は、忌々しいほど澄んでいた。

「見つけた、将軍!こちらです!」

遠くで響く足音と、少年の声。ヨハンナは弾かれたように飛び起きて、そこで喉元に長剣を突きつけるあどけない敵兵の顔を見た。

転んだ自分とさほど変わらぬ泥だらけの顔。しなやかな腕、しっかりと握りしめた手にあるのは農具でも工具でもなく、戦争に使う道具。

「頼む…観念しろ…っ」

囁かれたのは喉から絞り出したような命令の言葉。それは、命令というよりも懇願に近い響きを帯びていた。ヨハンナは顔を俯け、降伏の印に両手を挙げる。狭まった視界に、少年を追ってきた無骨な軍靴が加わり、入れ替わりのように少女の胴を荒縄が締め付けた。

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