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 マッチングが成立しました、とメールが届いたのが先週のことだ。

 メールの中には、それなりの格好で指定の時間に案内所に来るように、との簡素な内容が大仰な表現で書かれていた。

 僕は憂鬱な気分を抱えたまま、今日、待ち合わせの当日に至る。

 新しい婚活サービスの試運転プロジェクトに応募してみたらたまたま当選したのが、事の発端だ。言われるがままに案内所に行き、面接を受け、数百はあろうかという質問に答え、あらゆる角度から写真を撮られ、へとへとに疲れた上で詳細な説明を受けたから、実のところ、どんなサービスなのか、僕はちっとも理解しちゃいない。なんか自分そっくりのアバターがどうとか、仮想空間がどうとか、節々を辛うじて覚えているだけだ。

 僕はため息を吐きながら、髭を剃って適当に髪を整え、一番皺の寄っていないYシャツとチノパンを身につけた。

 外出する。電車に乗る。案内所まで徒歩で向かう。

 この期に及んでも、憂鬱な気持ちがちっとも晴れない。アバターが選んだ最適な相手? そんな相手が僕にいるものか。僕は僕を信用していない。僕と気が合うというなら、よほど陰気な相手じゃなかろうか。

 案内所の扉を開ける。担当のスタッフだというやけににこやかな女性が待ち構えており、お相手の方はもうブースでお待ちになっておりますよ、と伝えてくれた。

 心の準備を整えられないまま、案内されてブースへと向かう。

「ほんとにこのパッとしない男か?」

 開口一番がこの言葉だ。

 目の前に立っていた女性は、予想とは違い、勝気な雰囲気を漂わせた美人だった。なんというか、どんな集団でも一目置かれるが、ズケズケと物を言いすぎて反感を買いそうなタイプに見える。

「ちっとも気が合いそうにないんだけど」

 ちょうどこんな風に。

 気が合わないのはお互い様だ、ということを僕は言わない。

「ねえスタッフさん、診断結果は本当に間違いとかないわけ?」

「……僕も、一応、確認したいんですけど」

 後で詳細なデータもお見せ致しますが、それではまずお二人のアバター自身に確認してみましょう、とあくまでにこやかなスタッフは、ブースに備え付けられたモニターを指し示す。

 モニターの中では、滅茶苦茶なしかめっ面をした彼女のアバターと、居心地悪そうな面をした僕のアバターが、辛うじてといえるくらいの指の絡め方で手を繋いでいる。

「なんかまあ、そういうことだ」と彼女のアバターが言う。

「じゃ、あとはそっちが頑張って」と僕のアバターが言う。

 それから、彼らはおざなりなキスをして、消える。

 どういうことなのかさっぱりわからず、僕と彼女は、ただ顔を見合わせている。

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