風、去る


その天幕の住人が、再び寝静まった後。

ただ一人ーーーーというのは語弊があるのかもしれないがーーーー起きているものがいた。

それは、風だ。



◆◇◆◇◆



一部始終をずっと眺めていた風は、天幕の上の方をふわふわと浮くようにしていた。


ここの住人は、面白い。風はそう、思った。

ちょっとだけ覗いてみようと思ったのに、なんだか思いがけずにすごい宝物を見つけた気分だ。

でも、もう道草を終えなければならない。時間切れか、と風は呟いた。


一度、フーと白い息を吐く。

その冷たい冬の息吹が、ヒュルヒュルと舞い上がって消えていく。

風は黙ったまま、その天幕を後にした。

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双竜紀外伝〜その道の先へ〜 ゆきこのは @yukikonoha

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