第二一話:疫病神の狂信者


 蓼科より出撃した【ヤマタノオロチ】は甲王牙より後方約10km離れた位置を飛翔していた。


A部隊アメノハバキリ各機へ、【A-01アメノハバキリ・マルヒト】!」

 【ヤマタノオロチ】は大きく、実働部隊【アメノハバキリ】と補給整備部隊【ヤシオリ】に別れていた。その【アメノハバキリ】隊の隊長となった真弓が他隊員へと指示を出した。

「これより隊を二小隊に分けます。

02マルフタ】【03マルサン】は私に、【05マルゴ】以下は【04マルヨン】に。

それぞれ従って下さい」

「【A-02アメノハバキリ・マルフタ】、了解」

「同じく【A-03マルサン】、了解」

 その指事に【A-02槌出内】と【A-03】がそれぞれ応じる。

「【A-04マルヨン】、了解しました。

それでは、【A-05アメノハバキリ・マルゴ】以下は私に続いて下さい」

 西住が応じ、続けて指揮を出す。


それに逸見が、

「【A-05マルゴ】、了解」


赤星が、

「【A-06マルロク】、了解」


直下が、

「【A-07マルナナ】、了解」


夏至が、

「【A-08マルハチ】、了解」


それぞれ彼女に応答した。




「【A-01】へ、こちら【F-11ファヴニール・エルフ】。

僕はどうしますか?」

『【F-11】は私たちに続いてください』

「【F-11】、了解」

 進言し、返ってきた答えに一輝も応じる。


 だが、次の瞬間。


「───正面より高エネルギー反応接近!!!」

『───総員、回避行動ッ!!!』


 山吹色に輝くビームの様な何かが正面から迫ってくるのを確認した一輝が叫び、すかさず真弓は回避を促した。

 すぐさま自由回避行動により散開する各機。だが、ただでさえ慣れない空中操作でブースターの体積分も考慮した回避に間に合わなかったのであろう、運悪く射線に最も近かった【A-02槌出内機】と【A-04西住機】が躱し切れずにブースターに被弾してしまう。

「───西住さんA-04……!!」

 その内、近かった【西住機】に接近した一輝は、相対速度を合わせそのブースターのすぐ上で並走し腕を伸ばすことでどうにか機体を支えた。

「大丈夫ですか……!!?」

『───すみません……助かりました!!!』

 掠った左翼部が折れバランスが崩れた【西住機】は一輝がフォローを入れたことでどうにか墜落を免れることが出来た。だが【槌出内機】のものは最悪な事に右翼エンジン部に被弾し該当部が爆散、炎上しながら機体はそのまま山中へと墜落していく。

『───槌出内三尉!!?』

 あまりの事にコールサインではなく本名で呼んでしまった真弓。

 どうにかブースター上部から落下傘パラシュートを展開したことで何とかなったが、槌出内機はそのまま不時着するしかなくなっている。


『───今のビームは……!!!』

「───うん、間違いない……この感じは……」

 透の反応に返しながら、西住機の左翼部を見やる一輝。

 翼が折れたそこは、断面が綺麗に切断されていたのだ。

「【エリス】の同型機か……それとも、単に装備が同系統なだけか……?」


 だが、


「……通信……?」


 すぐに思考は遮られる。渚から───というかディサイアの司令部からだった。

 平行させることもできたが、機転を効かせた一輝はふと隊内のチャンネルを閉じそちらに合わせる。


『一輝、聞こえるか!!?』

「こちら【F-11】、聞こえます。……どうかしましたか?」

 予想通り渚からだった。だが、

『……奈々が国防軍から攻撃を受けた』

 その報告を受けるのは流石に予想の範囲外だった。

「───奈々さんが……!!?」

『射角から位置座標は特定した。今からそこへ向かって欲しい』

「……了解ッ!!!」


 すぐさま隊内に無線のチャンネルを合わせる。


「【F-11】より【A-01】へ、意見具申します!」

『こちら【A-01】、どうしました?』

 真弓が応じる。

 一瞬だけ、この事を伝えようか迷った一輝。もしこれでグルだったら、という可能性が一瞬浮かんでしまったから。

 だが一輝は、不安を振り切り、伝える。

「……甲王牙が、国防軍の攻撃を受けたとの報告が入りました」

『───何ですって!!?』

 真弓もまた驚愕する。やはり【ヤマタノオロチこの部隊】には何も通達されていなかったらしい。

 そのことに内心安堵しながら、だが現状に変化がないことに変わりはなく、すぐに気を切り替えた。

「位置座標は確認しております。

これよりF-11槌出内さんA-02西住さんA-04でそっちに向かいます!!!

他の皆さんで甲王牙の救援を───!!!」

『……分かりました……【A-03】、及び【A-05】以下は私に続いて下さい!!!』

『『『『了解ッ!』』』』

 一同が応え、真弓に続く。

『……一輝、お前も気を付けろよ』

「……言われなくても」

 それだけ告げて真弓に続く透に返しながら、一輝もまた進路を目的地に向け急いだ。





 そこは、広大な演習場の近くに陣取られた対機壊獣派遣部隊の一陣営。

 そこには一番近い駐屯地からそちらに派遣された部隊が陣取っていた。

「蒲田ァ!!!貴様───」

 その指揮官が怒鳴り声を上げかけ、だがすぐに止まってしまった。

 何故なら───。

「くっひひひ……」

「───何故笑っている……!!?

何が可笑しい!!!」

 その対象の青年隊員が笑い始めたからだ。


 【甲王牙】は国防軍の運用する機体である、という事前情報により、彼らもまたその話を大小なり壊疑心が無かった訳ではないものの信用していた筈だ。


 だが、彼はその自軍機に対し誤射しておきながら笑い声を上げていたのだ。それも、狂気を孕んだ様な眼差しで。




 直後。



「ヒイィィャハハハハハハハハハハ!」



 突然。感極まったかの如く、彼の笑い声が高らかに響いた。

 他の者達も突然のことにギョッと体を強張らせた。


「なんだ、こいつ……!!?」

「狂ってやがる……!!」




 そして。



ァァァァァ!!!




今こそ滅びの救済をォォォォォォォォ!!!」





 その言葉によって、ある隊員が察してしまう。



「……蒲田、お前……まさか───……ッ!!!?」



 


 それは半ば都市伝説とされていた新興宗教───あろうことか人類に敵対と破壊しかしない機壊獣を



「……妹を殺されて気が狂いやがったか!!?」


 もう一人の隊員がそう叫んだ。だが彼の耳には届いていない。


「あああっひゃひゃひゃヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


 涙を溢れさせながら狂った様に笑うその姿を垣間見た他の者達は、皆一様に思っていた。


 駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。





「───あぁぁっ!!?」

 一発、また一発と、鳥雷が甲王牙の背甲に直撃する。

 起き上がったところで再び食らい、また転倒してしまった。

「何で……こっちは味方じゃ……!!?」


 四つん這いになりながらも、甲王牙は、奈々は目の前の機壊獣を睨み付ける。


 ケケケッ!


 聞こえたその声が、嘲笑っていた気がしていた。


「───嗤うな……ぁっ!!!」


 口内に焔が充填されていく。


「―――烈熱焔咆ブラストエアッ!!!」


―――ボヒュゥゥゥゥゥン!!!―――


 烈熱焔咆を放つ甲王牙。

 口部より焔を纏って放たれた砲弾に対して、目の前の敵は回避行動を取る。

「───そっちはジャブだよ!」


 その予想通りの挙動に、ニヤリと一瞬口許を歪ませた奈々は───。


「―――貫烈焔咆ブラストエア!!!」


 間髪入れずにそう吼えた。


 再度、焔を纏った砲弾が口部から放たれる。

 口で発したスペルは一緒。感覚や原理も一緒。だが、この砲弾はより鋭く、速く駆け抜けていった。

 【烈熱焔咆ブラストエア】と区別して、【貫烈焔咆ダート・ブラストエア】と呼称されているこの技は、徹甲弾を使用することでより速い弾速の砲撃と化していた。


 ───いくら機動力が高い飛行型でも、回避挙動の直後なら───


 そう、奈々は確信していた。


 そして、それが彼の機体の、無駄に肥大化した頭部を穿つ















───筈だった。


「───っ!!?」


 予想もしていなかったで、そいつは砲撃を避けていた。


「……首が……!!?」


 太かった首が、


「───いや、違う……これは───!!!」



 


───グェェェッ!!!───

───ギョェェッ!!!───


 

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甲王牙 ーKO-GAー 王叡知舞奈須 @OH-

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