あとがき
昏部贋作です。
まずはじめにご了承を。当作品は未完の作品となっております。
この作品、本来は長編作品となる予定だったもので、かつコンテストに応募しようと執筆していた作品だったのですが、あまりにも内容がグロテスクで、倫理観を度外視した作品となっており、とても送れないのではないかと執筆を止め、封印していたものでした。
そのおり、今回「カクヨム版伊藤計劃トリビュート」を見て、あ、公開するならここしかないわ、と直感し、全四部のうちの第一部だけ完成していたものをここに載せることに決めました。この企画を作ってくださった方々、本当にありがとうございます。
この「適者」という作品は、虐殺器官とハーモニーを読んだ僕が、仮想化と解離性同一性障害という概念を知ったときに生まれたものです。
そもそも仮想化とは、単一のコンピュータを複数台に見せたりする技術のことです。この技術のおかげで、最近のサーバでは当たり前のように一台のサーバが複数台ぶんのふるまいをしており、これが現在の情報化社会においてサーバのコスト削減につながっていたりします。
一方の解離性同一性障害、DIDとは、かつて多重人格と呼ばれていたもののことです。
この仮想化とDIDはかなり近い概念なのではないか、と感じるまでに、僕はさほど時間がいりませんでいた。あとはいかにDIDが必要とされるか、そしていかにして現代の社会が存続した未来をつくるかを考えていく作業に入りました。
そうして完成したのが、食人国家での魂の存続、というものでした。
食人国家というか、ヒューマンリソース(物理)みたいなものは、虐殺器官における棺桶等を、より現代の切迫した食料事情から再表現しようとしてできたものです。なのでかなり虐殺器官に影響されてできた作品といえます。
世界的に見ると、実はかなり食料の値段が上がっていたりします。一番顕著なのはアフリカ諸国。最近は輸出していた原材料の値段がひどく安くなったせいで、アフリカ諸国のほとんどが貿易赤字だったりします。そして、それまでに外貨が取り込まれたアフリカではかなり人口が増え、彼らの食料を提供するには輸入しか手段がないという、ある意味日本みたいな状況になっていたりします。
こんなふうに食糧費があがりまして、実はいまアフリカ諸国でデカイ工場を立てると全く採算が取れなかったりします。人々の労働賃金がかなり必要になるからです。
そんなこんなで、実はアフリカ諸国とか、いま貧困にある国々では、イルカさんを養殖する事業にこれから手を出すのは非常に厳しくなりそうだ、と考えました。
そして、日本の場合であると、まず一次産業がほとんど息をしていません。お米が奇跡的なレベルです。なんでこうなるかといえば、現在は採算が全く取れないから。というか、日本ではあらゆるものをつくるにもお金がかかりすぎます。おかげで価格競争に全く勝てず、先進国ともども、二次産業も死にかけです。こんな日本でも産業としてイルカを使えそうにないのです。そして、加工もよその国でやらないと全くもって採算が取れません。
ならばこれまでにない素材を使えるようにすればいい、と考え、サイコパスにおける「最も狡猾で、いくら狩り殺しても絶滅しない動物はなんだと思う?」「人間でしょう」という言葉と、スウィフトの「穏健なる提案」をもとに、この作品に食人国家という概念が生まれました。これならば価格の下落した食料たちの代わりになりますし、さらに人間を食べ物から電子計算機までの全ての材料にできれば、価格が下落し切ることは不可能です。だってもとは同じ人間ならば、人間は必要以上の価格競争を望みもしませんから。
そして、可能な限り人間が欲望を満たそうとし、かつ価格を常に安定させられる空気をつくりたいのならば、子供だけでなく大人の身体も使ったほうがいい、と考え、この食人国家ができています。
と理路整然と語っているようですが、ほぼ詭弁なので気にしないでくださいね。
こんなめちゃくちゃな世界観なので、みんな自分や他人がいなくなることなど当たり前に起きます。そこで人をどうにか残したいと考え、仮想化という手法によって魂を存続させようと努力する研究者は、少なくとも現代と比べればひとりはいそうなものだと考え、「食人国家での魂の存続」を主軸としています。
しかし、ただ単純に研究してるだけじゃ眠いのでは?と考え、「探偵ガレリオ」と「キャッスル」と「サイコパス」と「相棒」を足して割ったようなミステリー作品になっていきました。
かなりごった煮です。あとめちゃくちゃ専門知識が多用されますし、相当振り回されたと思います。読んでくださった方、本当にお疲れ様です。この話のどこからか、興味を引く話を見つけてくだされば幸いです。
この作品をカクヨム版伊藤計劃トリビュートに投稿するにあたって、かなり不安ではあります。発想はたしかに虐殺器官やハーモニーからくるものが多かったは多かったのですが、どこにその鱗片を感じてもらえるかまったく考えずに書いていたものだったからです。ただそれでも、どこかしらに伊藤計劃さんの作品のファンに響く何かとなってくれればいいなあと一縷の望みをかけようと思います。
今回取り上げた解離についての話のほとんどは、柴山 雅俊さんの『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 』から発想を得たものです。あくまで発想を得たものであって、今回僕はこの作品をつくるにあたってかなり大嘘を含んで書いていたので(サーバの仮想化と結びつけてる時点でアウト)、解離性障害についてちゃんと理解したい人はぜひこの本をお読みになってください。とりあえず僕がこの本を読んで言えるのは、「ちゃんとお医者さんの言うことに素直に聞いて、お医者さんにたくさん質問をするようにしましょう」ということです。我々素人だと本当に悪魔祓いみたいな話になってしまいますので。
では、今回は読んで頂きありがとうございました。この作品のどこかしらに、何かを考えるきっかけとなってくれることを願っています。
昏部贋作
適者 倉部改作 @kurabe1224
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