アカハライモリと私

相良あざみ

アカハライモリと私

 私という自我の発露。

 何故という感情。

 それらは私が本来持ち得ないものであると、そんな確信があった。


 私が私である。

 私という一人称。

 一人称という言葉と意味。

 本来知り得ないものであると、そういう確信もあった。


 生きるままに生きている。

 生かされているという感傷はない。

 私は生きるために生きているのであり、生かされるために生きているのではない。

 自由意志であるのだ。


 私は自らの、黒っぽい手を見つめた。

 形は、モミジのようだ。

 赤子の手のことをも、モミジのようだという。

 赤子は、人間の赤子のことであって、私と同胞はらから達のことではない。


 ちゃぷんと水面に手を下ろす。

 とても冷たい。

 本来ならば私は、眠っていたのではなかっただろうか。

 はて、と思う。


 外は、びゅうびゅうと風が吹いている。

 私は、冷たいけれども静かな水辺に這っている。

 はて、と思う。


 水が冷たい。

 手がじんとして、上手く動かなくなるような気がする。

 このまま眠るのだろうか。

 はて、と思う。


 水から上がって、つるつるした石の上に登ってみると、空気は冷たいけれども、そんなに冷たくないとも思えた。

 外はびゅうびゅうといっているのに、ここはびゅうびゅうとしていない。

 はて、とおもう。


 とうめいで、つるつるした、いたに、かこまれている。

 わたしは、こんなところへ、いただろうか。

 はて。


 ふっとくらくなり、かおをあげると、くろいあたまの、にんげんが、わたしをみている。

 じっと、みている。

 ちろ、と、あかいしたが、のぞいた。


 あ。


 まて。


 まって。


 わたしのからだをかえせ、アカハライモリめ。

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