この物語は、ひたすらに読み手の不安をあおる。時にシンプルに、ときに搦め手で、トキには現実感すら危うくさせて。そして、その不安の極致で、私たちは迷子になる。それまで手を引いてくれていた導き手が、さっと消え失せてしまうのだ。しかして、私たちは不安の絶頂で、物語の極限へと辿り着く。赤い、赤い色彩のはてで、彼が誰であるか、自分が誰であるかすら、わからなくなって。この惑乱、筆舌に尽くしがたし!お見事!!
不思議なお話でした。前半の幻想的な雰囲気と、後半の軽妙洒脱な二人のやりとり。どちらも情景や情動の描写が美しく、もの騙りのなかへ、引き込まれていきます。夕陽の赤から、夜の黒へと変化していく展開。そして、最後の項を読み終えて感じる身震い。読み終えて、足元を見てほしい。あなたの下にあるのも、薄氷に過ぎないのだから。