第25話 虚構ではない世界 3

タイムマシンに戻ると早速、犬を固定し簡易麻酔をかけた。

犬の意識は当然ある。


犬の頭を中古の電気ショップで買ったレーザーメスを当てた。煙を上げながら頭蓋骨をはずすと脳を覆う1枚の膜が現れた。これを業務用のカッターで丁寧に切り取り、ワシは脳みそを直接、肉眼で捉える事に成功した。


好奇心で脳みそを人差し指で軽く凹ませてみると犬は胃の中の物を吐き出した。どうやら、脳を触ると嘔吐しやすくなるらしいが痛覚はなさそうだ。


ワシは一応、電気科出身なので少しばかり電気には詳しい。電気ショップで、ついでに購入した電圧計と電流計と細くて長い電極の針を用意した。快楽の測定の仕方が分からずに苦慮していたが射精時の快楽が1番近いと考えて犬の脳みそに細長い針を刺し込み電流を流し込んだ。


流し込んだ所から脳内物質が分泌され精液が放出されれば、今日の実験はひとまず成功である。3度か4度、差し込んで観察すると局部が膨張し精液が放出される様が確認できた。


ワシは知的好奇心から、このまま、脳内物質を出させた状態を維持させたいと思い、電流を流し続けた。


トントン


「すみませーん」


今が1番いいところなのに邪魔な客人が来た。


なぜ、こんな所まできたのかと不思議に思いながらも犬には大きな一枚のシートを被せ、寝ている婆さんの横へ置いた。もちろん、婆さんにもシートを被せた。


ドアを開けると屈強な男が二人が立っている。


「すみません。警察です。古谷マナミって女の子ご存知ですか?」


「さあ、聞いたことないですねあ」


「そうですか、実は先日ありました事件なんですけどね」


「ああ、ニュースで観ましたよ。男と駆け落ちしたのだっけな」


「ああ、ご存知でしたか。それで事件発生前に、あなたに似た人物がマナミさんと会話している所がカメラに写っていましてね。それに両親から聞いたところ、怪しい老人がお通夜に来て娘のイヤリングを10万円で売りつけたと」


ワシは冷静に答えた。


「いや、わかりませんけど」


すると、後ろから犬が鳴き始めた。それも狂ったように最後の絶頂を噛み締めているように思えた、その時、警察は船内へ入り込んで一枚の布を剥がした。


「あ」


ワシは一声あげると、警察は脳に電極が突き刺さった犬の変わり果てた姿を見て顔を歪めた。一人の警官が床に落ちた精液を触り、粘度を調べながら二人はワシの方を振り返った。


「これは、一体どうゆうことですか?」


「これはちょっとしたお仕置きです。この犬がね、わたしによく嚙みつくもんですから」


するともう一枚の布から声が聞こえた。


「爺さん、何かあったの?」最悪のタイミングで婆さんが口を開いた。


ワシが少しばかり心を許して口に詰め物を入れなかったのが甘かった。


警察は布を剥がして婆さんの状態を直視した。老人が椅子に座り手足は縛られ、ほぼ素っ裸。これはどう見ても虐待と捉えられても仕方ない絵面だった。


「行きましょうか」


一人の警官がワシを誘導して、もう一人の警官が婆さんと犬の保護をするため、応援を呼んでいた。


ワシは警察の車両の窓から、ダサい試作機が小さくなるまで見つめ、見えなくなってから目を閉じた。全てが終わり、ワシは裁かれると悟った。



ワシは死ぬ前に苦痛を味わい地獄へ行き、再び苦痛を味わう。嫌だ、ワシは苦痛を味わいたくない。ワシのせいではない、時空を超えさせた連中が悪い。時空を超える理論を発見した妻が悪い。ワシは悪くない、少し快楽に溺れて視野狭窄に陥り行動が荒れただけで神経衰弱により情状酌量があると心の奥底から叫び続けた。



だが、自分のしでかした罪を理解できる精神状態ゆえに自分が悪かったと認めることが、どうしても歯痒かった。

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ゼロの質量 緑茶文豪 @ryokutyabungoou

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