第24話 虚構ではない世界 2

ワシは虚構の世界から現実の世界と知ったのは、この時からであるが、もう引き返すわけには行かない所まで来ていた。


玲奈は大やけど、婆さんは生きた臓器貯蔵庫として保管し、マナミはワシの命令で痴漢を誘発しようとして運悪く自殺志願者の巻き添えをくらい頭手足、内臓が飛び散り死亡。


多分、いや間違いなくワシは地獄に堕ちるだろう。そうであるならば、いっそこの世を天国と考えて残りの人生を好き勝手やって自由に生きれば良い。


ワシが与えた苦痛は地獄で全て受け入れよう。


もう、そうやって自分に言い聞かせなければ落ち着かない所まで来ている。


ワシの目的はただ一つ。あの快楽を味わう事。


この崇高な大義を振りかざして、ワシは他の生物を苦痛にまみれさせる事を誓った。他の生物が感じる苦痛が多ければ多いほど快楽が増すとさえ思う。


ワシは図書館から保健所へ行き実験に使えそうな犬や猫を探した。保健所といっても無人で勝手に連れて帰ってくれというシステムで犬や猫は存外に扱われている


。小さなダンボール程の柵が雑多に並べられていて、そこに野良犬が収容されていた。糞尿は床に垂れ流し、風呂は週に二度ほど薬品のシャワーを浴びさせているらしく、犬の毛は抜け落ち、ストレスと不規則な生活で痩せほそり、これなら毒ガスで息の根を止めた方が余程、人道的ではないかと思えた。


ガラス越しに犬を見ていると見覚えのある犬がワシに向かって懸命に吠えていた。


「ワン、ワン」


ワシは存在には気付きながらも通り過ぎようとしたが、後ろ髪を引かれて(ワシはハゲなので後ろ髪はない)再び、ポチの前まで戻り、ガラス越しから、ぼんやりと見つめた。ポチも放っておけば、いずれ死ぬだろう。どうせ、このまま苦しみながらジワジワと殺される位ならワシの元で実験に参加して快楽を得ながら死んでいく方が幾分、慰めにはなる。


むしろ、飼い主の務めであると今更ながら無責任な責任感がポチを連れて帰る動機となった。


ポチの目の前にあるボタンを押すとクレーンで吊り上げられてベルトコンベアのように運ばれ、薬品の浴槽に勢いよく落とされた。この過程を3度ほど繰り返して、乾燥施設へと送られ、ポチは洗濯物のように大きなドラム缶に入れられ、遠心力により振り回して水分を飛ばしていた。


そして、ワシは同意書にサインをして機械に通すと、一連の過程で疲労困憊のポチが後ろ足を縛られ、逆さまの状態でワシの目の前に現れた。


ポチはぐったりしていたが、久々に触っていると重大な事に気付かされた。



よく見るとポチではなく同じ犬種の別の犬である。


ワシは間違えたと思い返却しようと受付のモニターを見ると



【警告】保健所から引きとった犬を再び保健所へ返却を希望する場合は処分料30万円が必要になります。

と書いてある。



ワシは仕方がないので犬を抱え、トボトボと廊下を歩いていると再び、犬の鳴き声が聞こえた。振り向くと、そこにもポチがいたが、今度は騙されまいと出口まで小走りになった。



しかし、あれ程の愛情を注いだ犬の容姿や仕草を簡単に忘れてしまう自分が多少、情けないと思えた。だからこそ間違えて拾った、この犬を遠慮なく実験に使って快楽を味あわせてやろう。人類の進歩に、ちっぽけな駄犬が貢献するのだからポチ冥利につきると思う。

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