第3話 試し
「お主は暗殺者か否か、どちらだ!」
俺は今、自分の仕込刀を突きつけられている。
答えによっては後ろのメイドさんに首を落とされるかも知れない、さて、暗殺者じゃないと言って信じてもらえるかどうか。
「ふぅ、俺は暗殺者じゃない。ただの剣客だ」
「………」
彼女の、カイリの目を真っ直ぐ見つめる。
初めて出会ってからまだ数時間しかたっていない。
しかし、彼女は常に俺の目を見て話をしていた。
目覚めた時、食事の時、そして今刀を突き付け暗殺者かどうかを問うてきた時も、常に真っ直ぐな誠実な目をしていた。
だからこそだろうか、俺は今刀を突き付けられていながら動かず彼女を切らなかった。
「……剣客? はわからんがようは剣士なのだろう、なのになぜわざわざ杖にみせた、普通の鞘に剣を収め持ち歩けばよいではないか」
わざわざ杖に刃を仕込み隠す必要などないだろう、堂々と剣を持ち歩けばいいじゃないか、なぜ疑われるようなまねをしているのかと。
そんな問いに俺は目を閉じながら答える。
「俺は視力が弱い、右目は光を通さず、左目もかろうじてこの距離ならカイリの顔が少しボヤけて見える程度だ。生まれつきではなくだんだんと視力を失っていったから両目で見ていた景色を片目で処理することに俺の頭は対応出来なかった。だからすぐに目と頭が痛くなる、これが杖を使っている理由だ」
「なぜ、視力が弱いのに剣をとった」
「我を通すために。目が見えないとバカにされる、そんなのは日常茶飯事だった。自分に向けられる悪意を打ち払う強さを求めた結果が仕込み杖だ。」
これは嘘偽りない本音だ、バカにされるのは我慢できたが悪意による肉体言語には耐えられなかった。
自分に向かって飛んでくる石、歩けば車道に突き飛ばされ、道中のすれ違いにわざとぶつかって喧嘩を吹っ掛けられ、しまいには階段から突き落とされる。
会う人全員が悪意を持っていたわけではないけれどそれでも少なからずも悪意を向けてくる人もいたのは確かだ。
「死にかけた事など何度もある、騙された事など数えきれない程だ。右目の視力を完全に失ったのは10才の時で、左目だけでの生活は大変だった、真っ直ぐ歩けず、すぐに頭と目が痛くなり半日も目を開けていられなかったよ。今では半日は目を開けていられるがそれでも少し間を置いて目を閉じ休めるなどしてなんとかといったところだ。それなら目を必要時以外は目を瞑っていたほうが目にも頭にも優しいだろう」
俺にとって杖は前に進むためのものであり振りかかる悪意を切り捨てる刃なんだ。
だからこそ本音を伝えた、カイリが持っているそれは気軽に扱ってはいけないものだと、一人の人間の生を支えているものだと。
「ウル」
「はい、お嬢様。滝様、失礼しました」
「疑ってすまなかった、これは返そう」
ウルがナイフを収めてさがり、カイリが刃を収めた杖をこちらに渡してきた。
杖が無事に返ってきた、よかった。
「暗殺者じゃないのはわかった、お主はこれからどうする」
「冒険者ギルドにでも登録して冒険者にでもなるさ」
この世界には冒険者ギルド、鍛治ギルド、商業ギルド、裁縫ギルド、料理ギルドなどその職によってギルドに別れているらしい、職業別の組合みたいなものだろう。
「カイリ、冒険者ギルドの場所はどこ」
「この後案内してやろう。お主金もってないだろう、登録ぐらい貸してやる」
「ありがとう」
「うむ。ときに滝よお主、我が剣を向けたのになぜ動かなかった」
「そちらのメイドさんにナイフで首切り落とされそうだったので」
「我の目は誤魔化せん、お主ならウルが切ろうとしてもどうにかする技量はあるだろ」
確かに首元にナイフを当てられても切られる前に杖を取り返して二人を切ることは可能だが、それをしなかったのは不安要素があったからだ。
「メイドさん。ウルさんが俺の背後に回って首筋にナイフを当てるまでの動き、最初の初動がまったく気がつかなかった」
「ほう、初動とな」
「ああ、俺が気づけたのは多分2、3歩目ぐらいからだろう、初動をとらえきれなかったは久しぶりだ。あれは魔法か?」
この二人が俺より武という面で格上だとはありえないと判断している、武の道を歩いた者の気配がない、つまり気配が素人なのだ。
しかし、その素人二人に俺の直感が危険信号をだした。
武の気配なし、むしろ隙だらけな二人。ならそれ以外の要素、魔法または異世界特有のスキルとやらが関係しているのだろう。
「ククク、あれはスキルじゃ。普通はあの間合いなら気がつく前に首が落ちとるわ」
「危ないね」
ホントに危ない。スキルや魔法を使うだけで素人でもここまで動けるのか。
これは気を引き締めていかないと命を落とすことになりそうだ。
異世界で流れ星を見る みちる @4411nn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界で流れ星を見るの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます