第43話 反乱軍⑥

 こんな戦争なんて起こらなければ、誰も傷つかないで済んだのだろうか。

 いや、よそう。

 言い出したらキリがなくなってしまう

 もう忘れたと思っていたが、目の前で人の血が流れ、動なくなる様はいつ見ても気持ちのいいものではない。

 色々と思い出したくないことまで思い出させてくるから……


「これは酷いわね……」


 神奈川基地に似た構造の新潟基地は、ほとんど原型を留めていない。

 倉庫があったであろう場所には壊れた戦闘機兵が乗り、銃弾が飛び交う滑走路では、複数機の戦闘機兵が機体をぶつけ合い、一瞬の駆け引きをしている。


「俺達も行こう」


 よしっと言いながら、広人が自分の頬を叩いたであろう音がした。

 瓦礫の影に隠れて、出ていくタイミングを伺う。


「──こちら北川小隊、白影小隊、救援に来ました」


『──了解。何期の隊員だ?』


「──今期からの入隊です」


『──くそっ! 神奈川め新兵ばかり寄越しやがって!』


 俺たちに聞こえるように言ったのか、たまたま声に出てしまったのか、どちらにしても明らかにその声は期待はずれ、といった様だった。

 気が立っているとはいえ、あまり面白くないな……


「──参戦します」


『──あ、あぁ、頼むぞ』


 その声の雰囲気を悟ったのか、広人も少し怒っているようだった。


「一樹くん、私達どうやらめちゃくちゃ舐められているようね」


「……そのようだな」


「もう戦っていいわよね?」


「え────」


 返事を待たずに奈々美さんが飛び出していく。

 姿勢を低くして、すぐ近くで戦っていた2機の機兵へと近づき、片方を一刀両断する。


『──うぉ』


 さっきまでの嫌味たらしい声とは一変、拍子抜けなすっとんきょうな声が出る。

 一瞬焦ったが、さすがは奈々美さん。

 自分のペースに持ち込めば1対1で負けることはまず滅多にない。


「──何をすれば? 先輩・・」


『──そ、そうだな、なかなかやるようだし、我々と一緒に最前線で戦って欲しい、かな』


 どこか少しおどおどしているような様子。

 ほんのちょっと可愛そうな気もした。


「──はい、もちろんです」


 奈々美さんがしてやったり、といったトーンで了解し、俺達の方を見る。


「ははは……さすがだね」


「奈々美ちゃん怖いよ……」


「…………」


 奈々美さんは男より男らしすぎる。

 桃咲が春奈の後ろに無言で隠れてしまった。


「お前ら……そろそろ準備をした方がいいんじゃないか? まさか気づいていないわけないよな?」


 1人別方向を見てライフルを構えている広人。


「何を言って──」


 ふと、敵を感知するレーダーの方へ視線やった俺は、愕然とした。

 俺達北川小隊の5人と、元々そこにいた新潟基地の隊員3人を囲むようにして、明らかに数の多い反応がある。

 広人はレーダーを使わずにこれを感知したのか……?

 いや、それよりもだ……!


「10……20…………30はいるんじゃないか?」


「嘘でしょ……! 無理だよ! 逃げよう?」


「春奈さん、私達がそれをしてしまったら、どうなるのか分かっているわよね?」


「そ、それは……でも!」


「……私……やる……!」


「青葉?」


 それは意外な答えだった。

 いつも春奈の後ろについていく桃咲が、春奈に守られてきた桃咲が、自らの意思で春奈の意見に反抗したのだ。

 桃咲にもかなりの死の恐怖があるというのに、戦うことを決意している。

 そんな1歩を踏み出そうとしているやつを止める権利が、俺にあるのだろうか。

 あるわけがない。


「よく言ったぞ桃咲。ここで少しでも時間を稼いで、2度とあんなことを起こさせてはならない!」


「春奈さんはどうするのかしら?」


 全員の視線が春奈へと集まる。


「私は……私は……!」


『──お前達! 何をしている! 早く行くぞ!』


「──すいません! 了解です!」


 新潟基地の3人が躊躇することなく俺達を置いていく。


「……春奈! 早く!」


「……私は……やっぱり無理……」


「春奈さん……」


「春奈……ちゃん……」


 立ち尽くしてしまった春奈を、俺達はその場に置いていく。

 あまり冷たいことを言うのは好きではないが、戦意のない者は戦場で真っ先に死んでしまう。

 この状況なら、むしろついてきて欲しくない。

 背中に残してきた仲間のことを、歯を食いしばり振り返らずに進む。


「……切り替えよう」


「あぁ……来るぞ!」


 海に近い新潟基地。

 敵はあらゆる所から、あらゆる手段を使って攻めてくる。

 空からは飛行ユニットを使っている戦闘機兵に加えて、旧型だが爆撃には適している戦闘機。

 海からは空母と思われるかなりの大きさの船や、砲身の長い砲台の積まれた戦艦などで編成された艦隊が並んでいる。

 さらに陸には量産機が既に上陸し、これまた旧式の戦車や装甲車などが近づいてくる。

 いずれにせよその数は俺達を軽く越していた。


「さぁ、いっちょ暴れてやろう……!」


「「あぁ!」」


 俺達が動くのとほぼ同時に、敵も動き出す。


「おらぁぁぁ!」


 広人がライフルを構えては、撃ち、構えては、撃つ。

 1発の弾丸が空を飛んでいた機兵の飛行ユニットを貫く。

 飛行ユニットを壊された機兵は、どうしょうもなく落ちていくほかない。

 落ちた機兵が、下にいた戦車の上から降り、爆炎を上げた。


「はぁぁぁ!」


 腰に付けていた投擲とうてき系の武器を、全て残らず前方へ投げつける。

 こちらへ走っていた地上部隊の足元を、爆発が襲う。

 砂埃が消え去る前に、中から機兵が数機突破してきた。


「奈々美さん! 桃咲!」


「分かってる……わよ!」


「……了解……です」


 後ろへ抜けようとした機兵を2人が仕留める。

 俺は前方から来る3機へと視線を戻し、ソードを抜く。

 1機目の振るったソードを、体を回して受け流し、振り返ったタイミングで2機目のソードをしゃがんで避ける。

 3機目の攻撃を受けると、勢いのまま後ろへ回り込み、背中へ一突き。


「……広人!」


「はいよ!」


 俺の声に素早く反応した広人が、狂いのない狙撃で2機の機兵へ弾丸を命中させる。

 もう何度も練習してきた流れだ。

 あの5人だったからこそ俺は背中を預け、伸び伸びと戦えたのか。

 自分のことながら恥ずかしくなる。

 気付くのが……いささか遅すぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦闘機兵オーディーン 笹霧 陽介 @Yosuke_120704

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ