第11話 Heal the world
「次の方ー。中でお待ちくださーい。 …あぁ八百屋のビーンさんの奥様。 その後いかがですか?」
「こんにちわニーナ様。おかげさまで順調で。今日も朝からドタバタと元気に蹴ってくれています。本当にありがとうございます。先生にはもぅいくら感謝しても……私たち完全に諦めておりましたのに……こんな宝物を授けて下さって……」
「…よかったですね。きっと強い子になりますよ。さぁ先生がお待ちです。どうぞ中へ。」
──ここは王都中央に位置する王城のすぐ隣に建てられた診療所。
ここには、双子の美人看護師と、どんな病でもたちどころに治してしまう奇跡の医師が居る。
今日も全国各地から患者が長蛇の列を作っている。───
「あ~ん!あ~ん!恐いよ~!」
「大丈夫だってー!男の子でしょ!しっかりしなさい!」
「だって~‼ 先生が恐~い!!あ~ん!」
「もぉぉ先生!ちょっとは優しく笑いなさい!子供が恐がってるでしょ?! ほら?手を出して!あやして!ちょっとは笑いなさい!」
「…………無茶を言うな。」
白衣に包まれた禍々しく黒光りする長い身体。
血のように紅い瞳は見るものの命をも吸いとって来た。
その鱗は硬く、どんな魔法をも弾き返し、またどんな槍だろうと貫くことは叶わない。
ちなみに手は無い。
大蛇だから。
かの世界最強生物は大きく嘆息した。
「…いいか竜娘よ。我の専門は破壊と創造なのだ。ここはリヴァイアサン婦人科。小児科でも外科でも内科でもない。」
「知らないわよ。どうのこうの言いながらちゃんと治してしまうじゃないの。四の五の言わずにこの子の喉に刺さったトゲを取ってやってよね。」
「………。」
世界最強生物はまた大きく嘆息して、黙って細く小さく変化した。
男の子の口からにょろんと喉に入り込み、魚のものらしき骨をくわえて出てきた。
男の子は入ったことさえ気づいていなかった。
リヴァイアサンは元の大きさに戻ると、口にくわえた骨をペッと吐き出して
「……取れた。もぅよい。帰れ童子よ。」
と言って深い深いため息をついた。
元々大罪悪魔のリヴァイアサンは、七つの大罪の「嫉妬」を司っている。
「色欲」のアスモデウスや「怠惰」のベルフェゴールの様に、人間の物質的な欲望を司っているわけではないので、外科や内科的なことはさほど詳しいわけではない。だが、「嫉妬」は人類史でもっとも古い感情で、もっと遺伝子の奥底に潜む原始的な欲望であるため、とりわけ深い人類の神秘である「女」に特化した権能を持っている。
嫉妬の業火。嫉妬の炎。
元々女にはそういう悪魔じみた権能が生まれつき備わっている。
子供を送り出して、リヴァイアサンは赤い舌を苛立たしげにチロチロしてデスクで頭を抱える。
もっとも手は無いが。
そこにニーナがやって来た
「先生…お疲れのようですね。次は八百屋のビーンさんの奥様の定期検診ですか…少しお休みしますか…? 朝からもう111人目ですし…」
リヴァイアサンは顔を上げ、ニーナを優しげに見た。
もっとも、端から見れば、血のように紅い目は獲物にロックオンしたようにしか見えない。
「…お前は本当によく気がつく娘だな…。」
と言ったはいいが、少し恥ずかしそうにうつ向く。
もっとも、舌はチロチロ出てる。
「…ありがとう…ございます…」
ニーナも少し顔を赤らめてうつ向く。
そこにシーナが戻ってきた。
「なんだー? なんだか空気がピンク色だよー?患者さん待ってるけどー? めぐみん様も先生にご用があるとかで、所長室にお通ししてるからー。」
「シーナ! 少し先生を休憩させてあげないと……」
「…よい。竜娘よ。我は大丈夫だ。次なる患者を連れて来るがいい。紅魔の姫は心得ておられる。お待たせしても構わない。」
「はーい。次の方ーどうぞー!」
「…先生……。」
ニーナは本当にリヴァイアサンのことを心配していた。
魔王軍を殲滅させ、大打撃を受けて壊滅状態だったアクセルを立て直す為にと、カズマたちパーティは獅子奮迅の活躍をし、ものの見事な復興を果たした。
アクセルは、カズマの都市計画のおかげもあり、医療施設、学校、福祉施設、行政施設と、国民が安心安全に生活出来る為の施設がすっかり整えられ、今ではどちらが王都か分からないほど近代化している。
そして今度は王都を充実させるために、リヴァイアサンに白羽の矢が立った。
カズマがかねてより計画していた、王都中央診療所の所長医師として、カズマたちと離れて国民の健康を護っているというわけだ。
事実、リヴァイアサンにしたのは正解だった。
寡黙に、なんの差別もせず、黙々と、どんな病でもたちどころに治す奇跡の技とも言える診療を行う姿は、多くの国民の心を打った。
その外見の凶悪さからは及びもつかない、身近で献身的な診療で、国民の心を掴んでいった。
今ではもう、ベルゼルグに奇跡の医師ありという噂は、世界各国に知れ渡り、こうして連日奇跡を求めた患者があとを断たない。
しかも、彼が王都に居れば、どんな高位のモンスターであろうと、どんな高位の魔族であろうと、絶対に近寄れないからだ。
ドラゴン族の加護があるとは言え、王都には王城も王も姫も居る。
そういう輩はあとを絶たなかったが、リヴァイアサンが来てからはまったく平穏無事に過ごすことが出来た。
しかし、診療所設立からこのかた一度も休んでいるところを見たことがない。
まぁ第三位の大悪魔ともなれば、そんな休息なんて要らないのかもしれないが、それでもニーナは心配だった。
黙々と目の前でビーンの妻の定期検診が行われる。
リヴァイアサンがボソボソと口走ることを、シーナが一字一句漏れなくカルテに書き留める。
驚くことに、このボソボソと口走る内容を後に繋ぎ合わせると、完璧な患者の治療方針が出来上がっている。
それを元に、ニーナとシーナが薬を調合したり、注射や点滴をしたりするのだ。
そして何よりも、どんな病気でもたちどころに治してしまう奇跡の技というもの。
今から行うこれが、リヴァイアサンが適任だという一番の理由だ。
「はい奥様。分娩台に乗って脚を拡げて下さいね。すぐに先生が内視しますからね。」
「はっ はいっ♪お願いします♪」
ニーナが声をかけ、奥さんが分娩台に乗るのを手伝う。
奥さんは期待に声が上擦っている。
いつも内視される女の人は、だいたいがこんな反応をする。
ビーンさんの妻は20台後半。まぁ仕方ないでしょうね…。
「人間の小娘よ。力を抜いていろ。」
シーナが奥さんの身体を支え、ニーナが手を握っていてやる。
奥さんははぁはぁ言っている。
「では参るぞ。」
リヴァイアサンは白衣を脱ぐと、直径5センチ程に縮む。
長さは2メートルくらいだろう。
彼は奥さんの秘所に向かい、赤い舌でチロチロと粘液で濡らすと、そのまま一気に頭から突っ込んで行った。
「あぁぁあああ!」
奥さんの身体が弓なりに反るのをシーナが押さえる。ニーナを握る奥さんの手は痙攣して、爪を容赦なく立ててくる。
リヴァイアサンが、奥さんの中へズンズンと進む。
「あぁ!あっ!……おっ…きい…は…ん……んんっ…ぁあっ」
進む度に奥さんの甘い喘ぎ声と、白濁とした液体が、奥さんから噴き出してくる。
「ぁぁあ…は…はっ…おっきい…ぁ…もっと…もっと…突い…て…」
ニーナもシーナも、いつまで経っても毎回その声には慣れない。
最近ではシーナは、紅い顔で股間を押さえてモジモジするようになっている。
ニーナもなんだか下腹あたりがジンジンするが、「患者さんの健康を護んなきゃ…」と何度も唱えて我慢した。
2メートルほどのリヴァイアサンがすっかり中へ入った頃、奥さんがガクガクと痙攣を始めた。
ほとんど白目で、涎を垂らして、身体は弓なりに反って、ニーナの腕をかきむしる。
「いっ…いく…い……ぁぁああああああ!」
そして、リヴァイアサンが溺れそうな凄まじい勢いで、サラサラの液体が噴き出し、彼女はこと切れた。
内視される女のひとは毎回こんなもんだ。
やがてズルズルとリヴァイアサンが出てきて、ニーナが濡れたタオルで身体を拭いてやる。
辺りは大洪水だ。
リヴァイアサンは元の大きさに戻ると、口にくわえていた何かをシャーレに吐き出した。
それはピンク色の綺麗な肉の塊。
ところどころに黒く毒々しい斑紋がある。
ニーナが
「先生なんですか…これ?」
リヴァイアサンは白衣に身体を通しながら、目を細めて
「この小娘が長く子宝に恵まれなかった原因だ。卵管に永らく取りついて塞いでいた良性の腫瘍のもう片方だな。妊娠前に取ったものの片割れだが、他に特に害は無さそうだったのだが、悪性に変成する前に取り除いて、転移出来ない様にあちこち焼いて来た。」
シーナは微笑んでカルテに書き留める。
ニーナも笑って礼をした。
「お疲れさまでした先生。外の患者さんはどなたも救急ではなさそうです。本日はこれでお引き取りいただきますね。遠くの方は王城の宿泊所にご案内しておきますので。」
リヴァイアサンは何も言わず踵を反すと、所長室に向かった。
もっとも、反す踵は無いのだが。
ドアを頭で押して、身体を部屋に半分入れたところで、二人に振り返り、
「……今夜はどこかに食べに行こう。お前たちの食べたいものでよい。」
とだけ言って、所長室に入って行った。
ニーナとシーナは顔を見合わせ頷いて、極上の笑顔で患者の元へ向かった。
──明日も世界中から患者たちがこの診療所に集まる。
この禍々しくも愛すべき奇跡の医師と
双子の美人看護師の笑顔が起こす
唯一無二の奇跡を求めて───
めぐみんのさんぽ finfen @finfen
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