第42話 最終回。弾ける笑顔。
あれから既に2年が過ぎようとしていた。
最初の頃は多少混乱したけれど、前もって対策を立てていたのでそれで済んだ。麗華さん、高橋さん、知宏の協力の賜物だ。
システムは今や人間の監視下にあり、必要があれば微調整をしている。
追放先の名前が今までなかったので、誰からともなくこう呼ぶようになった。
西の大陸と。
それに伴って反対側の大陸は東の大陸と呼ばれた。単に西、東と言う人もいる。たとえば「西に観光して来た」などだ。
両大陸の行き来は多少制限されている。
混乱を避けるためだ。
申し込みをすれば、いずれ順番が回ってくる。
最近聞いた話では半年先でないといけないらしい。西の大陸の人気の食べ物は何と言っても刺身だ。美貴が好物なので、それをメデイアに取り上げられたのがきっかけだった。
今では少し落ち着いたが、俺たち一家は何かにつけて注目を浴びていた。
両大陸の代表としての務めが俺たちの仕事になったからだ。
公共の催し物があると、そこに足を運びスピーチをした。
それが次の朝にはメデイアが好んでニュースとして人びとに伝えている。
俺らの第2子の誕生の時は両大陸ともお祭り騒ぎになり、一晩中大騒ぎになっていたと後で知宏が教えてくれた。
今回の出産の時の俺は、美貴の横に寄り添って終始励ましていた。
実際に新生児を取り上げたのは経験豊かな産婆さんだった。
最初に比べると安産だったと美貴が言っていた。
健康な女の子だ。
亡くなったお母さんの名前と美貴の名前の一字が同じ美の一字をとって、美香と名前をつけた。
その話に加え、俺が以前法廷で話したのがメデイアによって伝えられ、それに影響を受けた若い人たちの間では、人間の異性との結婚を望んでいる人達が殆どだと聞かされた。
実際に多くのカップルが誕生しており、それに伴って自然出産の件数がうなぎ登りだ。
食糧生産にはまだまだ余裕がある。
しばらくはベビーラッシュが続きそうだ。
さて、実は今日は特別な日だ。
新しい家を東の大陸の人々の好意で建てられた新築祝いで、友達だけの内輪のパーティをしている。
半年前には西の大陸でも同じように新築祝いをした。
つまり、俺達の家は二箇所ある事になる。
しかも、それは両方とも豪華で大きな家なので、夫婦共々大いに感謝している。
でもそれは表向きに言っているだけで、夫婦の間ではもっと質素で小さくてもいいと考えている。
麗華さんにそれを言ったら、それを感謝の気持ちで受け取るのがあなた達の務めと言われ、納得した。
また、彼女が言うには、人は誰かの役に立ちたくて生きているので、このような行為は相手に対して生きる喜びを与えているのだとも。
最初聞いた時は理解できなかったが、俺らの子供に対しては全く同じ気持ちだと気付いて、それからは出来るだけ人の好意は受け取るようにしている。
ただ、長く滞在する先々で必ず出される刺身には少しうんざりしている。
いくら好きと言っても、毎回では食べれない。
たとえば、鰻好きの人が毎食では飽きるのと同じだ。
だから美貴も一切れだけ頂いて、その他の料理を堪能している。
さて、話が長くなったが友達が集まりだした。親父も来ている。
パーティの始まりだ。
それに今日は特別ゲストを呼んでいる。かれは最初断ってたが、何回か連絡して最終的には納得してくれた。
それと、美貴から何か発表があるらしい。
俺にも教えてくれない。
なんだろう。見当もつかない。
楽しみでもあり、少し不安でもある。
お、麗華さんと知宏が来た。
これで呼んだ俺達の友達は全員だ。
でも、俺は行けそうにない。彼との話がもう少しあるからな。
「今日は。美貴さん。これが新しい家なのね。
話に聞いたけど、想像以上に豪華で大きな家ね」
「今日は、麗華さんと旦那様の知宏さん。
やはりそう思いますよね。
でも、麗華さんが快く受け取りなさいって言ったんですよ。
後で家の中を案内しますので。
中はもっと豪華にできていて。びっくりしますよ。
今でもここに住んでいいのか疑問に思っているんです。
わー、麗華さんのお腹大きくなりましたね」
「そうなのよ。
来月が予定日で順調に育っているって、アンドロイドの先生が言っていたわ。
美貴さんの気持ちが今になって本当に分かるわ。
ねえあなた」
「ああ、なんとも言えないなこの気持ち。
俺達の赤ちゃんがここにいると思うと、つい微笑んでしまうよ。
そう言えば智は」
「例の彼氏と向こうで話し合っている」
「そうか。
でもよく来たな彼。
俺だったら奴をぶっ飛ばしている」
「知宏!!
この間約束したでしょう。乱暴な言葉使いは止めようって。
言葉遣いが子供に移るから」
「あ、悪い。ついな。
でも彼だよ」
「彼も悩んだのよ。
その当時は人間同士の結婚が認められなかったし、親友が子供をあやす姿を見たら誰だって多少は嫉妬するわ。
分かってあげなさいね。
智が彼と仲直りしたら、貴方もするのよ」
「うふふ。
知宏さん、麗華さんには弱いみたいですね」
「そうなんだよ分かる。
でも仕方ないさ、惚れちゃったからね」
向こうから笑い声が聞こえる。
さてと、彼との話も終わったし最後の決着をつけますかね。
俺は彼を殴った。
少し彼の顔から血が滲んでいる。
「これで俺たちは元の友達だ。
これからもよろしくな!」
「お前、少しだけ手加減しただろ。
まあいいか。
今日からまた友達だ。
よろしくな!」
「ああ」
あれ、ばれたか。
美貴との約束で「もし彼を殴る時は手加減してね」と言っていたのを思い出したんだ。
それから俺たちはみんなのいる所に戻った。
「みんな聞いてくれ。
隆と仲直りした。
みんなも元のように彼と付き合ってくれ」
あちこちで拍手があった。
これで彼も幸せになれるだろう。
その後すぐに美貴が俺に寄り添って来て、みんなの方を向いて話しだした。
「えー、ここで個人的な発表がありまーす!」
みんなが一斉に俺達の方を見た。
美貴はやけに機嫌がいい。
何を発表するんだ?
「隣の人のせいで、3人目ができました〜〜」
え、3人目?
本当か?
嬉しいね。
しかし、どこかで聞いたセリフだな。
みんなが歓声と拍手で祝福してくれている。
「美貴、よくやったな」
「あら、言ったでしょ。あなたのせいだって」
美貴は、俺が一番好きな弾けるような笑顔になっていた。
俺は美貴に優しくキスをした。
終わり。
作者からです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ、読書感想をお願いします。
今後の励みにしたいので。
一つだけ。
人前でキスをするのは日本にない習慣で、違和感があるかも知れません。
欧米では当たり前の行為で、2人の愛の深さを表現するのに適していると判断して取り入れました。
私自身、アメリカに長く住んでいるとそれらの行為は違和感なく、むしろ微笑ましいと思っています。
次回作もよろしくお願いします。
坂本ひつじ
騙して結婚したつもりが……、本当に好きになっちゃった! 坂本ヒツジ @usasasuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。騙して結婚したつもりが……、本当に好きになっちゃった!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます