第41話 女。第2コードの解放。

 ついにその時が来た。


 ここ1ヶ月の慌ただしさと言ったら、言葉では言い表せないほど忙しかった。

 1日の睡眠時間が数時間の日もよくあった。

 100台以上あるコンピュータの接続作業加えて、攻撃用のプログラムの見直し。

 それと高橋さんと弁護士さん、それと知宏さんからこれからの法律に関しての方向性の相談に対する受け答え。

 私達しか両地域にすんだが経験がない為に、どのような方向性が最も良いか細かく聞かれた。

 そして、3人が出した結論に、私達は最初はお断りしていた。

 それは、私達を一時的に両地域の総代にする事だった。

 これには開いた口が塞がらなかった。


「高橋さんと知宏さんに相談した結果、もう結論が出ているのよ。

 諦めなさい、美貴さん」

「どうしても私達を、両地域の総代に就任しなければなりませんか?」

「もうすぐ世界は大きく変わるわ。

 特に、こちらでは社会不安が増大すると予想されている。

 でも、一つだけ解決策がある。

 それは、あなた達が両地域の総代になる事。

 こちらではあなた達の名前を知らない人がいないし、そちらでも同じ事が言えると高橋さんがおっしゃていたわ。

 ある意味あなた達は英雄であり、正義の味方。

 あなた達の話す言葉は人の心を引き付け、説得力になって世界の基準になる。暴動がもし起こっても、あなた達の名前を使って治安に使えば有効だと知宏さんが言っていた。世界の秩序を保つ為には、あなた達の名前がどうしても必要なの。

 美貴さんが目立つ事が嫌いなのは知っているわ。

 でも、世界はあなた達を必要としている。

 素晴らしい世界が訪れようとしているのに、あなた達が了承しないとなれば、新しい世界は混沌から始まる。

 そうはなりたくないでしょう」


 それはそうだけれど。

 私が始めた今回の一連の出来事の最後の後始末がこれだったとは意外だった。

 諦めるしかなさそう。


「分かりました。謹んでお受けします。

 それで、その総代は具体的に何をすればいいんですか」

「今考えているのは代表としての立場ね。それぞれの地域では違う秩序で構成されているので、これらを大幅に変えるわけにはいかない。

 こちらは出来るだけ早い段階で、自由選挙を実施して議会制民主主義に移行しようと考えている。その後も当面の間、総代の立場を維持してもらうわ。

 高橋さんの方は各集団の代表者による世襲制が上手く機能しているので、当面は変えない方がいいと結論したみたい。その各集団の代表の上に、あなた達が総代として居て欲しいと。

 これからは、あなた達の幸せは全ての人の幸せになり、もし将来、ご家族になんらかの不幸が起こったら全ての人が知る事となり、共に悲しんでくれるでしょう。あなた達の行動は社会の規範となり、あなた達の話す言葉は人の心に残り、あなた達の着ている服は直ぐに人々が着るようになる。

 ま、そんなとこね」


 また私は開いた口が塞がらなかった。

 今度は頭の中が機能していない。

 最初に浮かんだのが、それって絶対に嫌ですだった。

 しかし、諦めるしかない。

 私が全ての始まりを作ったのだから。


「分かりました。

 本当はやりたくはないですが、私が全ての始まりを作りましたから。罰として受けます」

「美貴さん。これは罰ではないわ。

 名誉ある役職ね。誰もが憧れるけれども、あなた達にしか出来ない。

 重い責任が伴うけれども、これ以上のやり甲斐のある事は無いわ。

 私も応援するからかんばって」

「いろいろと気を使って頂き、有難うございます。

 今やっと素直に、総代して務める決心が出来ました。

 これからもよろしくお願いします」

「そんなに堅くならなくてもいいわ。

 そう言えば、私の名前言ってなかったわよね」

「えーと。はい。弁護士さんで今まで通して来ましたから」

「私の名前は麗華。これからは麗華さんと呼んで」

「分かりました。

 それでは麗華さん。明後日が決行日になりますので、お願いします。

 少し恥ずかしいです、弁護士さんをこう呼ぶのは」

「そのうち慣れるわよ。

 第2コードが解放されたら連絡して」

「はい、もちろん。真っ先に連絡します」




 運命の日が訪れた。


 ここには大勢の人達がいる。

 沢山あるコンピュータの前には学生達が座っていた。それに、高橋さんを始め、大きな部屋には見物人が一杯だ。それでも入り切れないので外にも人で溢れている。


「みんな、順次は出来た」

「はい」

「はい」


 あまり元気のない返事が、バラバラに聞こえて来た。

 緊張しているからだろうか?


 歴史的瞬間に、この返事では良くないと思った。

 彼らはこの瞬間をこの先ずっと記憶するのに、この元気のなさはこの場に不適切だ。


「みんな元気ないわね。ちゃんと朝ごはん食べて来た」


 あちこちで笑い声が聞こえる。


「もう一回言うわよ。みんな準備は出来た」

「はい」


 今度は一斉に返事をしたけれど、声が小さい。

 若いのだから最も大きな声が出せるはず。


「声が小さいわよ。もっと大きな声で。みんな準備は出来た」

「はい」

「宜しい。みんな朝ごはんを食べて来たみたいね。


 今度は部屋にいる全員が笑った。

 これでいい。

 準備は全て整った。


「私がカウントダウンしたら一斉に操作を始めて、分かった」

「はい」

「行くわよ。5、4、3、2、1。始めー」


 みんな一斉に操作を始めた。

 私もすかさず自分のコンピュータを操作した。部屋は静まり返っており、キーボードの音だけが聞こえていた。

 しばらくして、私のコンピュータにある表示が現れた。


(第2コードの解放完了)


 やったわ。

 遂に第2コードが解放された。


「みんな聞いて」


 辺りはシーンと静まり返っている。

 私の次の一言を待っている。


「成功したわ。

 第2コードが解放された。

 みんなありがとう」

「おー」


 一斉に感動の声と拍手が聞こえる。

 成功したんだわ、私達。本当に成功したんだ。

 これから、理想の新しい世界が始まる。


 ふと気がつくと、智がこちらに駆けてくる。


「美貴、おめでとう。これはお祝いだ」

「え」


 智は、人前だというのにキスをしてくれた。

 周りでは感動の声がより一層大きくなり、拍手もそれに負けじと大喝采に変わっていった。

 彼のキスは、甘くて、情熱的で、優しいキスだった。



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