第40話 男。警察の友達。

 知宏に連絡を取ろうとしているんだが、なかなか繋がらない。

 何かあったんだろうか。


 3日目の朝、追放以来、初めて知宏と繋がった。


「もしもし、知宏か」

「智、お前か。本当にお前なのか」

「ああ、本当に俺だ」

「お前生きてたんだな。こちらではお前は死んだ事になっている。知ってたか」

「いや、俺は死んだ事になっているのか。

 ちょっと驚くな。しかし、この通りピンピンしている」

「いやー 、俺も驚いている。

 てっきりお前が死んだと思っていたからな。

 お前の名前がスマホに現れた時は幽霊かと一瞬思ったほどだ」

「そうか。そりゃ驚かせたな。

 ところで話があるんだが、今大丈夫か」

「ああ、今日やっと非番になってな。

 昨日までは大変で、個人の電話機能をオフにしていたんだ」


 声からは、凄く疲れた感じがした。


「何があったんだ」

「それがだ、お前さんと関係がある。

 男女の境を取るように大規模な集会があってだな。その警備でここ1週間休み無しだった。

 一応、収まったがな」

「そうか、それは大変だったな。

 しかし、これから話すのはもっと大変な事に対処してもらわないと」


 彼はしばらくは黙っていた。


「お前、何考えている?

 それより、お前どこにいるんだ!」

「これから詳しく話すよ」


 俺はそれからシステムが出来た経過と、追放先がある理由。

 それと、第1コードがすでに解放されていて、空き家が多い理由も説明した。


「おったまげたな。

 お前それ、本当なんだろうな」

「ああ、本当だ。俺が死んでなくて、ピンピンしている以上に本当の事だ。

 ま、驚くのも無理もないな。俺も最初聞いた時はびっくりしたからな」

「それで、俺に話があると言っていたが、これに関連した事だよな」

「ああ、あと1ヶ月後に、第二のコードが解放される。

 それに伴う混乱を予想して、対処方法をあらかじめ考えて欲しいんだ」

「で、肝心の第二のコードは何が解放されるんだ」

「法律に関するものと、防衛に関するものだ。

 最初のはアンドロイドの裁判官などが機能停止になり、代わりに人間の裁判官が必要になる。

 また、システム側と追放地側の社会構造がまるっきり違うので、それに伴う法整備も必要になる。

 人の行き来ができるからな」


 しばらくは知宏から返事がなかった。


 頭の中を整理しているのだろう。

 複雑な話の時は、彼はよくしていた。

 石橋を叩いて歩く性格だからな。


 そのくせ、こうと決めたら実行に確実に移す。

 今回の件には必要な要素だ。


「少しずつだが頭が混乱してきた。

 それじゃ、その後は、俺も追放地に行けるのか。

 もちろん観光だが」

「その通りだな。

 移住目的の人達も多く出るだろう。それだからあらかじめ、その後のための法整備が必要になってくる」

「だいたいそこまでは理解できたが、俺は警察関連の法律しか知らないぜ」

「それに関しては美貴の知り合いの弁護士がいるので、法律関係はその人に任せる事になっている。

 後でその人の連絡先を教えるよ」

「え、女地区の人と連絡できるのか。

 特定の人達だけだと思っていたよ」

「それは、いわゆる洗脳だな。

 俺もそうだったんだが、思い込むとそれに関しては当然の事としてそれ以上考えなくなるからな。

 システム自体はそれを止めてないんだよ」

「いやー、何から何まで変わる気がするな。

 で、俺は何をすればいいんだ」

「これから話す事が、今回お前に電話した最大の理由だ」

「おお、そうか。

 じゃ、ちょくら、気を引き締めて聞くかな」


 俺は少しだけ笑った。

 彼の癖で、本当に真剣な話の前には、少しだけ相手に砕けて見せる。

 彼は本気に聞いて、それに応えようとしている。


「さっき言った防衛に関するものだ。

 警察関連のアンドロイド、軍隊のアンドロイド、それとシステムを防衛しているアンドロイドも機能を停止する。

 軍隊に関しては外からの脅威は全くないので問題はない。あるとすれば俺ぐらいだが」


 彼は少し笑ったが返事がない。


 彼の頭の中で真剣に考えている証拠だ。


「問題となるのは警察関連と、システムを防御している特殊なアンドロイドの機能が停止する事だ。

 その後は、人間の力で当分の間守らなければならない。

 特にシステムに関して言えば、一旦物理的な損傷が起きると、現在の知識では回復不可能だ。

 その対処をあらかじめ構築して、関係各所に知らせておかなければならない。

 その窓口をお前に任せたいんだ」

「んー。大問題だな。

 それでいつまで守ればいいんだ」

「こちらからの遠距離操作で、できるだけ早くアンドロイドの防衛機能を回復を目指すんだが、1週間から10日ぐらいはかかるな。

 その後はIDを持った人達だけがそれらの施設に入れるようにする予定だ」

「だいたい分かった。

 しかしそれは、歴史が大きく変わる出来事になるな」

「正にその通りだ。

 せっかくの休みなのに休めなくなるな。

 悪かった。今度ビールを一杯奢るよ」

「おいおい。歴史が変わろうとしているのに報酬はビールが一杯だけか」

「あ、悪い悪い。二杯にしとくよ」


 二人は大笑いした。彼ならきっとやってくれるだろう。

 俺はそう確信した。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る