こんな優しい目で葵の上を見たことがなかった

源氏物語の葵の上って、ちょっと嫌な女ってイメージがあります。
つんと澄ましてお高くとまって。
だから逆恨みされて呪い殺されたんだ、って。あまり同情も感じなかった。

だけどこちらの作品では、葵の上を生き生きと、血の通った少女として描き出しています。
少し軽めの文章で描かれる物語は、葵の上(翠子)の不満や戸惑い、恐れや後悔を、とてもリアルに且つ優しく私たちに伝えてくれます。
ぎこちない日々にやっと訪れる柔らかな光。温かい安らぎ。そしてそこに兆す、影。
結末を知っているのに、いえ、知っているからこそ、翠子の幸せを願わずにはいられなかった。

ひとりの少女の成長を。
ひとりの女が愛する者に遺していくものを。

是非、見届けていただければと思います。