第67話 炎の怪鳥(遭遇)

「さて、お小言は聞き飽きたから帰るか」


そう言うと、ひなぞーがすくっと立ち上がった。

正座をしていたと言うのに、足は痺れていないのだろうか?


武さんに素晴らしいパートナーが出来てから数十分。僕たちは、そのパートナーに怒られていた。


少々過激なスキンシップで、武さんの意識を刈り取ったのがいけなかったみたいで、さきほどからずっと怒っているのだ。


「お小言って……ヒナタ、貴方ねっ!」


「まぁまぁレイラさん、落ち着いて。続きはファッカスで飲みながらやろうよ。いつまでもモンスターが出る所に居たんじゃ危ないよ」


興奮している彼女を何とか宥め、僕たちは宿営地まで向かう事にした。

ひなぞーも、余計なこと言わなければいいのにね。


「それにしても、このたけぞーゴミどうやって持ち帰るか」


「放置すると、嫁が怒りそうだしねぇ」


白目を向き倒れている友人を覗き込み、僕たちはどうやって運搬するか相談していた。

背負うには防具が邪魔になるし、かと言って防具を脱がせばほぼ裸だ。

流石に裸の野郎を背負いたくない。まぁ身長的な問題で、背負うのはひなぞーなんだけどね。


結局、大八車に乗せて運搬することになった。ただし、討伐したカニと一緒にだが。

余っている大八車は無いし、わざわざカニを移動するのも時間の無駄という事で空いた隙間に武さんを押し込める感じに落ち着いたのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


大八車を押しながら歩く事数時間。僕たちはようやく密林を抜け、開けた場所まで出てくる事が出来た。僕たちはここで一旦休憩を取る事にした。


「あー倍以上の時間がかかるな」


「道を選びながらだし、しょうがないよ」


モンスターを乗せる様な大きな大八車を引きながらでは、移動できる道が限られてくるのだ。

地図を片手に、あっちじゃないこっちじゃないと散々密林の中を歩き回ったので、体力の消耗も激しい。


「それなのに、呑気に寝てるとは」


「こいつやりおるわ」


カニの隙間に入った武さんを、恨めしそうに睨みつける。


「あなた達が原因でしょうに」


レイラが何か言っているが、軽くスルーする。

もともとは、体力を使いきった武さんが悪いのだ。うん、そうに違いない。


「ポーションを飲ませてみるか……でも気絶しているしな、無理矢理流し込むか」


「座薬なんてモノもあるんだし、お尻に入れてみれば?」


「試すか?」


「いいけど、誰がズボンを下ろして、ポーションを穴に差し込むのさ。僕はイヤだよ」


「俺だって嫌に決まっているだろう」


僕とひなぞーはしばらく睨み合うと、同時に横を向いた。


「「ここはひとつ嫁さんに」」


「ばっ、バッカじゃないの!? 私だって嫌よ!」


レイラは顔を赤く染めると、そっぽを向いてしまった。まぁ誰も好き好んで他人のお尻にモノを突っ込みたくないよね。



10分程の休暇を終え、僕たちは宿営地へ向かい歩き出した。

空を見上げると、すでに茜色に染まりつつある。日が落ちるのも時間の問題だろう。


朝から行動をしているが、カニ2匹の討伐に、武さんの告白演説。

さらに大荷物を持っての移動と来れば妥当な時間だと思うのだが、出来るなら暗くなる前には宿営地に戻りたい。


しかし、神さまと言うのは、どこまでも僕たちに厳しい様だ。

空を見上げている時に、黒い点が動いているのに気が付いた。


「ねぇ……アレ何かな?」


僕の言葉に全員が空を見上げる。

黒い点は、こちらに近付いている様でだんだんとその大きさが増していく。


「鳥か?」


「飛行機だ!」


「飛行機なんぞあるわけねーだろが、バカ」


せっかくボケたのに、ひなぞーに素で返された。しかも、『バカ』というありがたくない言葉と共に。


「空を飛んでいる物体を見て、『鳥』の後に続く言葉は『飛行機』しか無いじゃんか」


「お前はいつの時代の人間だ」


だって……古今東西

『鳥だ! 飛行機だ!! いや〇〇だ!!!』

って言う流れが王道でしょうに。

にもかかわらず、セオリー通りにしてバカ呼ばわりとか……泣いてもいいですよね?


「イズミ、ヒナタ構えなさい! 来るわよ!!」


僕たちの漫才を無視していたレイラから、鋭い声が上がった。

レイラの視線の先には、先程まで黒い点だったモノが悠々と地面に降り立とうとしていた。



ソレは始祖鳥をより恐竜寄りにした様な姿をしていた。全身に毛は無く、代わりに見るからに堅そうな薄汚れた桜色の甲殻に覆われている。

顔付きは、頭の鶏冠と大きく鋭い嘴から恐竜よりも鶏に近い様に見える。


そして、何よりもその大きさ。

ひなぞーが見上げる程の所に頭がある為、最低でも2m以上はある。また、翼を広げている大きさは優に3mを超えていると思われる。何故なら、大八車を横並びにしても余裕があった宿営地へ向かう道を、完全に塞いでいるからだ。


「ニワトリ?」


「いずんちゅの頭の中は空っぽなのか? どう見てもワイバーンだろうが」


「だってあの頭はニワトリでしょうよ!」


「一部だけ見て判断するんじゃねーよ! このオカマ野郎!」


「あんだと!?」


「お? なんだ、やんのか?」


「喧嘩しない! 相手はフレイムクックよ!!」


敵さんそっちのけで睨み合っている僕らに、レイラが相手の正体を教えてくれた。ゲンコツというおまけ付きで。正直、痛い。


そう言えば、クエストに出る前にシルノが教えてくれたっけ?

ヴィズルクラブを狙うフレイムクックが出るって……。

ちょうど同じ事を考えていたのか、ひなぞーもカニ(武さんも)が積まれている大八車を見ていた。


「目的はカニか」


「カニを食べるニワトリとか、贅沢過ぎるでしょう」


大八車を放棄すれば、逃げられる可能性はある。が、その大八車には現在も気持ち良さそうに眠っている友人が1人。


「たけぞーは起きると思うか?」


「無理でしょう。カニの連戦による疲労と魔力の枯渇。魔力が枯渇した事がないから正確なことはわからないけど、あの寝顔を見る限りでは当分目を覚まさないでしょうよ」


フレイムクックを警戒しつつ、横目で武さんの様子を見るが、起きる気配はまったくもってない。

カニに挟まれ、スヤスヤと眠る武さんを見ていると、何故だかだんだんと腹が立ってきた。


「「いっそのことそのまま差し出してみるか」」


「イズミっ!? ヒナタっ!?」


重なった僕らのつぶやきに、レイラが過剰に反応した。

まぁ恋人がカニと一緒にモンスターに差し出されたら、そりゃ焦るか。


「「冗談だよ? 冗談」」


「冗談を言ってる顔じゃなかったわよ!」


HAHAHAと、ひなぞーと一緒に笑って誤魔化しておいた。誤魔化されたかどうかは、わからないけどね。



「ここは二手に分かれよう」


フレイムクックと睨み合っていた、ひなぞーがポツリと呟いた。

なにやら彼に作戦がある様だ。


「せっかく狩った獲物を横取りされるのは、腹がたつ。なので、1人がヤツの注意を引きつけている間に、残りの2人がカニを宿営地まで運搬する」


なるほど、ここから宿営地まではそれ程離れているわけじゃない。それに、宿営地ならば魔道具のお陰で、モンスターも寄ってこない。


「よし、その作戦でいこう。で? 誰が残るの?」


僕の質問に、ひなぞーは笑みを浮かべながら、ポンポンと僕の肩を叩いてきた。


「は?」


「お前だよ。お・ま・え」


「はぁぁぁっ!?」


こいつ、何サラッととんでもない事ぬかしてんの? バカなの?


「ちょっとヒナタ!」


レイラも声を荒げてくれる。いいぞレイラ、もっと言ってやってちょうだい!


「まぁ聞け、って言っても時間がないからサラッと説明するぞ」


ひなぞーがした説明は、とても理にかなっていた。

と言うか、それしか選択肢がないと言った方がいいだろうか。


カニ2体(+武さん)を積んだ大八車は、魔文字の力が発動していても相当の重さがある。

これを牽けるのは、怪力のスキル持ちであるひなぞーだけである。そうなると、フレイムクックと対峙して時間を稼ぐのは、僕かレイラとなる。


女の子1人残して、男だけで逃げるのは何とも後味が悪い。それにレイラは防御主体の戦闘スタイルだ。もし万が一相手の攻撃が防御出来ないほど強力だったら……。


「と、言うわけで足止めはいずんちゅに任せた」


「納得出来ないけど……納得出来ないけどっ! しょうがない、任されたよ」


「なるはやで戻ってくる。それに、いずんちゅのスピードなら回避に専念すれば大丈夫だろう」


そこは、自信が無くても『大丈夫』だと言い切って欲しかったよ。


僕は話し合いを終えると、ハミングバードを構え直す。

そして、深く深呼吸をする。


大丈夫、相手はただの大きなニワトリ。

当たらなければどうと言うことはない!


「オラオラ! かかって来いや! ニワトリ野郎!!」


そして僕は、ハミングバードをフルオートで撃ちながら、フレイムクックへと突進して行った。


ひなぞー、レイラ、本当になるはやで戻って来て下さい!

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三人組の珍道中~伝説!?の冒険者までの道~ キルト @Kilt

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