第66話 孤島の双鋏(決着)
討伐したと思っていたカニの放った水鉄砲で、辺りは真っ白になる。
そんな何も見えない状況で、地響きが足に伝わる。
「レイラ! 大丈夫!?」
僕は持っていたロープを投げ捨てると、急いでレイラの元へと走った。
ちゃんと討伐できているか、確認しなかったミスだ。
僕は、そんな後悔をしながらも、一歩でも早くレイラの元へ駆けつける為に足を動かす。
レイラに近づくにつれ、白い靄はだんだんと晴れていき、漸く姿を確認できるようになった。
そこには、こちらに背を向け座り込んでいる、レイラの姿が。
「レイラ!!」
彼女の横へ滑り込むように駆け寄り、怪我がないか確認する。
「イズミ……私は大丈夫よ」
「はぁ〜良かったよ〜」
彼女の無事が確認できると、肺の空気が全て出たのではないかと思えるほど大きなため息が出た。
それにしても、どうして無事だったのだろう?
明らかに直撃コースだったのだが。
「私は無事だったの……でも……」
その答えは、レイラが震える声で指差したすぐ先にあった。
「でも、リョウが!!」
そう、そこには彼女の盾になる位置に立ち竦む武さんの姿があったのだ。
武さんは、僕らに背を向けて微動だにしない。
そう、それはまるで義経を逃がすため、我が身を盾にした武蔵坊弁慶の様で……。
「そうか、武さんは最後の最後まで頑張ったんだね」
「たけぞーにしては、男らしい逝き方だった」
遅れて来たひなぞーも、同じ意見だった様で、最後まで自分が愛した女性の為に潔く散っていった友人に言葉を贈っていた。
「リョウ……私なんかの為に……リョウ!!」
僕らが武さんに手を合わしていると、レイラが泣きながら武さんに抱きつく。
「……いや、生きてるし」
そんな悲しみに満ちた空気を壊す様に、武さんがボソッと呟いた。
なんだ、生きてたのか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「障壁の籠手が無ければ死んでいたぞ」
満身創痍の武さんが、見ているとイラッとくる程爽やかな笑顔で言ってきた。
腕には、ナビちゃんから貰った籠手がいつのまにか装備されている。
使い方を教えてもらえなかったはずなのに、よく使えたものだ。
それはさておき、先程の笑顔が気に食わなかったので、『
渾身のボディブローと共に。
「コノヤロウ! 心配したんだぞっ!」
「無事なら無事とさっさと言え」
どうやらひなぞーも同じ思いだったようで、僕よりも強烈な一撃を叩き込んでいた。
「おいやめろ、まだダメージが残ってグハッ!?」
少々過激だったかもしれない僕たちの拳を腹に受けた武さんは、ピクピクと体を震わせてながら喜んでいた。口から赤黒い液体が出たような気がしないでもないが、本人が喜んでいるのだからまぁいいだろう。
「そんなに体を震わせて……よっぽど生きているのが嬉しかったんだね」
「友達思いなところがあるよな。俺ら」
ひなぞーも腕を組みウンウンと頷いている。
「喜んでいるんじゃなくて痙攣しているのよ! それに吐血までしているじゃないの!!」
唯一この流れに参加していなかったレイラが、武さんに駆け寄り手当てをし始める。
ついでに僕たちは怒られてしまった。
「やだなぁレイラ。スキンシップだよ? スキンシップ」
「レイラはお嬢様だからな、俺らみたいな一般男性のスキンシップに慣れていないのだろう」
そんな言い訳をする僕たちに、一瞬「え? そうなのかしら?」と腕を止めてしまうレイラだったが、武さんが必死で首を横に振っている姿を見て、誤魔化された事に気付き、さらに怒りのボルテージが上がってしまった。
武さんめ、余計な事をしおってからに。
とりあえず、武さんの応急処置も終わり、僕たちは宿営地に戻る事にした。
防具を作る為の素材は集まったので、長居は無用だ。
「待ってくれ、少し時間いいか?」
いざ、宿営地へ出発しようとしたところで、武さんが急に待ったをかけた。
一瞬イラっときたが、武さんの表情はいつになく真剣なモノだった。
しょうがない、文句は帰ってからにしてあげるか。
心優しい僕は、今は武さんを見守る事にした。
「今言わないと、これからずっと言えないと思うんだ。だから……レイラ、聞いてくれ」
武さんはそこで一旦言葉を区切ると、大きく深呼吸をした。
なんだか、関係のないこっちまでドキドキしてきちゃったよ?
「レイラ、俺は君が好きだ!
笑った君が好きだ。
怒った君が好きだ。
泣いた君が好きだ。
憂いている君が好きだ。
好きなものを食べている君が好きだ。
自慢のランスを磨いている君が好きだ。
ちょっとドジな所がある君が好きだ」
は? え? 告白ってこう言うのだっけ?
いきなりどこぞの少佐の演説みたいなものが始まったんですけど!?
驚きでフリーズしてしまっている外野を他所に、武さんの演説は続いていく。
「えーっと……それで、つまり俺が言いたいことは……」
あれから数分間、いかに武さんがレイラを好きかと聞かされ続け、そろそろ我慢の限界を迎えそうになった頃、ようやく武さんが本題を言おうとしている。
てか、よくレイラは怒らずに聞いていられると思うよ。
「俺と、付き合って下さい!!」
右手を突き出し、深くお辞儀をした姿で武さんが言い放った。
痛いほどの静寂が、孤島の密林を支配する。
僕とひなぞーが固唾を飲んで見守る中、レイラが静かに動き出した。
ゆっくりとした動きだが、確実に武さんとの距離を縮め……
突き出された右手をそっと両手で包み込んだ。
「私なんかで良ければ」
「………………やった……やったぞーーーー!!」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかったのか、動きを止めていた武さんだったが、レイラの言葉を理解すると感情が爆発した様に喜び始めた。
「やったな、たけぞー」
「おめでとう武さん!」
「ありがグハッ!?」
祝福の言葉と共に、ひなぞーの右手と僕の左手が武さんのボディに突き刺さった。
祝福のボディブロウは、そのまま意識を刈り取ってしまった様で、武さんは白目を向いたまま倒れてしまった。
「リョウ!? 何やってるのよ、あなた達は!」
「「彼を祝福するつもりだった」」
鬼の形相で詰め寄るレイラを前に、僕とひなぞーの回答がシンクロした。
「祝福の力加減じゃないでしょう!!」
「「ついつい力が入ってしまった。反省していないし、後悔もしていない」」
これほどまで見事にシンクロした言い訳があっただろうか? これならレイラも仕方ないと思ってくれるだろう。
ただ悔やむべきは、あまりにも棒読み過ぎたことくらいか。
「あなた達!! そこに座りなさーーい!!」
雲ひとつない青い空に、レイラの叫び声が響き渡る。
この日、僕の友人に素晴らしい伴侶が出来たのだった。
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