第二十話 壊れた久々
「なぜここにいるんだ、純」
「それはこっちのセリフだ」
ショッピングモール。そこは人々が買い物をするために集う場所、さまざまな人がそれぞれの店に向かうため、一つの流れを作っているが、その流れの中に立ち止まる二人の人物がいた。
一人は、身長の高く外で買い物をするには少々不相応なジャージ姿の男。
もう一人は、若々しさの感じるファッショナブルな服装をした長いブロンドの外人。
流れは途絶えることはないが、人々の注目を集めるにはなかなか歪な組み合わせだった。
「君はこういうところに来るような人間ではないと思ったが?」
「それはお互い様だろ。お前もそんな格好をするんだな」
「あぁ、仕事の都合上な」
仕事の都合上。ということはD.D課としてでのことなのだろうか。
彼女に会うのはおおよそ2ヶ月ぶりだった。探偵課改めD.D課として活動をしているわけだが、日本でそんな殺人事件が頻繁に起こるわけでもない。結局D.D課は捜査一課と協力することは少なくなり、他の部署でのアドバイザーとして活動している。そんなこんなで顔を合わすことは少なくなったわけだが、何の引合せかプライベートでバッタリと会ってしまった。
「エミリー、足の調子はどうだ?」
「普通だ。だが、お気に入りのショートパンツが履けなくなってしまった」
今彼女が履いているのはロングスカート、先の事件で足を銃撃されたせいか未だにその傷は生々しく残っている。若いのに哀れなことだ。
「そっちも事後処理で大変だっただろう。どうだった?」
「一課ほどではない。何せ、純が一番わかってるはずだ」
その返答に対し、思わずムッとするが、仕方のないことだと思った。結局のところ彼女のおかげで前回の事件は解決できたのだ。そのおかげで、あらゆる部署に挨拶回りに行ったことや、あのうるさい警視正に頭を下げて....なんだか思い出したらムカムカとしてきた。
「ともかく私はこれで失礼する。これから仕事だ」
そう言って、横を通り過ぎようとするエミリーだが、これから仕事だと? 思わず振り返り、エレベータに向かおうとする彼女を引き止める。
「おい、仕事ってどういうことだ。俺は何も聞いてないぞ」
「当然だ、私に直接依頼があったからな」
振り返り淡々と答える彼女だが、確かにD.D課に新しく入ったシステムで探偵に直接依頼が可能になったと聞いたことがある。まさかとは思うが、ここのショップングセンターが直接依頼に来たのか。
一体なんのために。
「なんの依頼を受けたか聞きたそうな顔をしているな」
「違う、お前がまた無茶をしないか心配なだけだ」
「純には何も関係ないのにか? 変な奴だ」
エレベータに乗って上の階へ向かっている間、終始互いの顔を見つめ合うという状態が続く。そしてしばらく、エミリーが軽くため息を吐き、ようやく今回の内容をゲロした。
「わかった、教えよう」
今回の依頼は、窃盗犯を捕まえろとのことだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「D.D課のエミリー=ホームズです。齋藤店長はいらっしゃいますか?」
着いたのは洋服売り場、見渡す限り服のかかったハンガーで埋め尽くされており、かなり広い店内だった。見れば客も多く、少なからず3桁はいるはずだ。
そしてエミリーが手帳をかざして、カウンターから店長を呼び出し、数分。カウンターにやってきたのはいかにも紳士そうな、スーツをしっかりと決め込んだ初老の男性だ。しっかりと胸には金属製のネームプレートに齋藤と書かれている。
「どうも、本日はお忙しい中。ありがとうございます」
「それで、窃盗犯を捕まえたいということですが。詳しい状況を教えていただきたい」
「エェ、ここでは何ですから。どうぞ奥に」
そして、店長について行くわけだが....これは俺もついていったほうがいいのだろうか? 若干困惑気味にエミリーの表情を伺うが早く着いて来いと言わんばかりだ。まぁ、店長が何も言わなければ協力くらいはしてやるか。
「あの....すみません。あの後ろの男性は....」
「あぁ、彼は助手です。何か問題でも?」
「いえ....ではこちらです」
店長がこちらを不審そうに見ているが、まぁ仕方がないことだろう。しかし、何でエミリーは俺のことを刑事と言わなかったのだろうか。
しばらくして、店の端の方にある応接室へと案内された。座らされ、用意された湯飲みの茶を軽く口に含み、店長が本題を切りだす。
「まず、私たちの店では窃盗に被害に遭っています」
話の内容はこのようなものだった。
2週間前、閉店間際に在庫の確認を行ったところ在庫数が売れた数と合わないことがバイトを通して発覚。そして、入念な再確認を行った結果窃盗を疑う。そしてなんとか対策を施して入るものの、在庫数と売れた数が合わないことが続き、警察に頼るにも一向に改善せず。売り場には警備員を配置、店舗の防犯カメラの数も倍にして対策を行ったが全くもって治らないのだという。
「というわけなのです」
「わかりました。ちなみに盗まれたのはどんなものなんですか?」
「はい、この店でも少々値の張る革製品や毛皮のものが多いですね」
革製品か....確かこの応接室を通る時に売り場をちょっと見たような気がするが、確かにあれは高そうだ。少し考え込む表情をしていると、隣に座っていたエミリーがこちらを覗き込んでくる。
「どう思う?」
「どう思うって....少なからず在庫確認で窃盗がわかるのだったらプロの犯行だろ。それに何度も同じ人間が店にやってきて何も買わないで店を出たら疑われるだろうし....」
考えられるのは、窃盗のグループのようなものだ。しかもかなりのプロだと思う。在庫確認するまで気づかれていないのだから相当なものだろう。見合わせたエミリーもどうやら同じ考えだったらしく満足げな顔で頷く。
「私も同じ考えです。もう一つ聞きますが、それは連日続いているんですか?」
「はい、もう連続で四日も続いています」
となると....
「今日も来るな」
「あぁ。店長、すみませんが監視カメラの部屋まで案内してもらえますか?」
席から立ち上がり、エミリーがそう言うと店長は泡って、応接室の隣にある部屋まで案内をする。部屋の中に入ると無人で、各監視カメラの映像だけが映し出されている。
「無人観察タイプの監視カメラか....店長。今度から人を置いたほうがいい」
「は、はい。操作はそこのパネルで行いますので自由に使ってください」
店長が後ろで構えているが、意気揚々にパネルの前まで進んだエミリーは画面の下にある監視カメラの操作パネルをじっと見ている。
「....純、操作の仕方がわからない」
「ハァ....貸してみろ」
こいつ、こんな機械音痴だったのか? エミリーが机の前から離れ、代わりに俺が入る。何も映し出されていな机のようなディスプレーを起動させると、様々な表示が現れ、順にそれぞれどのカメラの操作部位なのかを確認してゆく。警察訓練の時に散々操作方法はやってきたから若干懐かしい記憶に浸っている。
「純、早速話に出た革製品と毛皮製品の売り場を映してみろ」
「了解」
パネルを操作して、先ほど自分たちが通ってきた道を映そうとするが、なぜか監視カメラの可動範囲の限界のせいか映すことできない。他の監視カメラにも同じような操作を行うが、なぜかその売り場を映すことだけができないのだ。
「すみません、話にあった場所だけが写せないのですがこれは?」
「業者の話だと、そこには監視カメラを置けない設計らしくて....」
店長が申し訳なさげに言うが、なるほどそれならば仕方がない。後ろで腕を組みながら難しそうな表情をしているエミリーだが、突如として映してほしい場所の指示を飛ばす。その指示に従い、各フロアを映して行くが大量の人がそれぞれ品物を見ているために、ごちゃごちゃしていてよく分からない。だが、そんな映像をエミリーはじっと見ているのだ。
そして数分。エミリーがすべての映像を確認し終えた。
「よし、4人に絞り込めた」
「....本当か?」
おおよそ写り込んだ人間は100人は超えるほどいた。そんな中から犯人を4人までに絞り込んだだと?
「今から言う人物をマーキングしろ。動かせる限り追って行け」
「あ、あぁ。わかった」
言われた人間の一人はサラリーマン。現在スーツ売り場でネクタイを選んでいるが、片手にはなぜかそれに見合わない大きな袋を肩から下げている。もう一人は女性買い物カートに犬を乗せており、現在Tシャツ売り場を物色している。そしてひと組夫婦、女性は妊娠をしているらしくお腹の部分が膨れており、子供服売り場を物色している。そして最後に大学生くらいの男性、ずいぶん周りのことを気にしているような感じでキョロキョロしながら婦人服売り場を通り過ぎている。
それぞれの動向を監視カメラで追いながら、エミリーは黙ってその様子を見ている。こっちは一人一人を追うのに苦労している。はっきり言えばこういう仕事は村上さんが得意なのだが....
「二人だ。追ってくれ」
「あ、あぁ」
指示を出されたのは、先ほどの四人から夫婦、そして犬を連れた女性だった。この二人が本当に窃盗犯のグループなのか....?
それぞれの動向を追っていると、犬を連れた女性が他の客に引き留められていて犬の話に花を咲かせている。夫婦は子供服売り場を離れて別な売り場へと移動している。特に目立って怪しい行動をしているわけではないはずだが....
しかし、エミリーの目の動きは完全にふた組に集中しており、その行動の一つ一つを簡単な一動作でも見落とさないようにしている。
そして数分。二人ともその場をあまり動かない状態が続く。
「なぁ、エミリー。本当にこの二人なのか?」
「正確にはこの二人のどちらかだ。だが、この時間帯に出くわすとは犯人も運が悪いな」
そう言いながら嗜虐的な笑みを浮かべているエミリーを呆れてみると、二人が再び動き始めた。
「おい、動いたぞ」
「見ればわかる。さっさと追ってくれ」
「はいはい....」
二人の姿を追ってゆく、しかし追って行った先は一つの場所に集中した。そう、あの盗難が多発している売り場である。
「おい、エミリー」
「落ち着け、予想済みだ」
懸命にそれぞれの監視カメラを動かして売り場を映そうとするがどの角度から映しても二人の姿を捉えることができない。
「くそ....」
「その場所に固定しておけ。しばらくすれば出てくるはずだ」
そして、そばらくその場所に集中してカメラの視点を合わせる。店長は様子を見るために部屋から出て行った。
さぁ、勝負だ。窃盗犯。
名探偵という名の流儀〜PRIDE OF DETECTIVE〜 西木 草成 @nisikisousei
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