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「さくらちゃんは、無理よね?」
猫を抱えつつ、セーラが聞く。
「仕事が忙しいので難しいと思います。家にウサギもいますし」
猫とウサギを一緒に飼うことは一般的にNGである。小鳥ならなおさら。
「じゃあそこの二人組──」
セーラは視点を遠くへ。中庭にあるベンチで仲良くお弁当を食べていた男女に合わさる。
「森岡さん達は、どうかしら?」
突然話題を振られ、えっ、と驚きの表情を見せる二人。森岡 翔子と藤枝 勝。
「何のことでしょうか」
「この猫、飼えないかなって」
森岡は藤枝と顔を見合わせる。
「忙しいから無理かな。勝くんもそうだよね?」
「そうだね、ちょっと無理かな」
「そうでしたね、アパートで一緒に住んでるんでしたよね」
えっ、と二人が固まる。
「なんで知って──そっか、海部先輩だから知っててもおかしくないか」
「私に隠し事は通用しないわよ?」
「まあ、そんな訳で、無理です」
セーラの視線が翠に向く。
「鶴里さんは、どう?」
翠は少し考え、
「大丈夫ですよ?」
あっさり了承した。
「猫、買ってみたいなぁって思ってたし、この子可愛いし」
「親からは、反対されないの?」
「押し通しますけど」
「強いわね」
セーラから、翠は銀色の毛並みをした猫を受け取る。
「よろしくね、タケ」
胸元に抱えて、思い切りぎゅーっと抱きしめる。
「ちょっと、猫苦しそう!」
歌穂が翠を止めようとした時、チャイムが鳴った。
「あ、昼休みも終わり、なんですね」
さくらが寂しそうに呟く。
「そういえば、その猫、どうするんです?」
「どうするって、抱えてくけど?」
「授業なのに、ですか?」
「うん」
「先生は?」
「この子の魅力で悩殺よ?」
「翠先輩は、すごい自信家ですね」
にゃあ。猫が一声鳴いた。
冬の日 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu
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