おばあちゃんとお寿司屋さん

ボンゴレ☆ビガンゴ

おばあちゃんとお寿司屋さん

「はるちゃんや。晩御飯、角っこのお寿司屋さん行こっか?」

 皺くちゃの顔を丸めておばあちゃんが言った。

「うーん、今度ね」

 テレビゲームに夢中な僕は顔も見ずにそう答えた。

「じゃあ、またお母さんたちが仕事で遅い日にでも行こうか」

 おばあちゃんは少し残念そうに、それでもニコニコして言った。


 角っこのお寿司屋さんは最近出来た回転寿司だ。一皿100円のどこにでもあるチェーン店。お父さんは「どうせ、まがいもんの寿司屋だ」って言ってた。


 両親が二人とも仕事で遅くなる木曜日は、おばあちゃんが晩御飯を作ってくれることになっていた。お母さんには「お魚も食べさせてください」って言われてるみたいだけど僕が喜ぶからいつもお肉ばっかりだった。


 ある日、学校からおばあちゃんの家に帰ると、おばあちゃんが台所で倒れていた。切りかけのたくあん、ひっくり返った鍋。

「おばあちゃん!? どうしたの!?」

 慌てて駆け寄るとおばあちゃんは苦しそうに唸るだけで何も答えてくれなかった。

 

 脳梗塞だった。


 それまで元気に毎日出かけてたおばあちゃんは左半身が動かなくなった。入院するとすぐにボケて僕の事もわからなくなってしまった。

 おばあちゃん。僕は雄二じゃないよ。雄二は戦争で死んだおばあちゃんの弟の名前だよ……。

 介護の日々は短くなかった。そして決して楽なものでもなかった。でも思い出そうとしても何故かモヤがかかったように思い出せないんだ。

 

 おばあちゃんを火葬場に連れて行った後、着慣れない喪服で家路につく時、あの回転寿司屋が目に入った。

 おばあちゃんが僕を誘ったのは一回じゃなかった。何回も僕を誘った。でも、その度に僕は「今度ね」と断った。


 ねぇ、おばあちゃん。ごめんね。


 家族を先に帰し、初めて一人で外食した。百円で食べれる回転寿司なら僕のお小遣いでも大丈夫だ。

 レーンに乗ってお寿司が流れてくる。何故かお寿司が滲んで見えた。


 初めて食べる回転寿司は何故かしょっぱかった。


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