寿司屋とアルバイト

穂実田 凪

寿司屋とアルバイト

【寿司屋と初仕事】

アルバイト初日、どんな仕事をするのかを聞いた。

「接客、会計、テーブルの片付け、皿洗い、ネタの確認、米炊き、寿司ロボットの整備」


――握るの以外全部かよ! あと、最後の何だよ!


※寿司ロボットとは、酢飯を入れると一口大のシャリになって出てくる素晴らしい機械。え? カウンターの中にいる職人が握ってるんじゃないのかって?

残念。あれは寿司ロボットが成型したシャリをトレーから取ってるんだよ。でも、中途半端な職人が握るより美味いよ。



【寿司屋とシャリ】

酢飯作りもやることになった。

大量の白米に酢を豪快にかけ、切るように混ぜる。暑い。熱い。

大将が言った。

「シャリは寿司の命やきにゃあだからな。しっかり頼むがよからね


――寿司の命をバイトに握らせるのかよ! (寿司だけに! )



【寿司屋と先生】

ある日、客として学校の先生が来た。実は校則でアルバイトは禁止されている。

担任じゃないけれど、その先生の授業は受けている。まずい。

「ちょっと、ええかやいいかな?」

先生に呼び止められた。やばい。

「アナゴないがないのかな?」


――メニュー見ろよ! アナゴはねえよ! ウナギならあるよ!



【寿司屋とまかない】

日曜日は朝から夕方まで働くので、もちろん昼食が用意された。

毎回カレーだった。


――たまには寿司食べさせてくれよ! ここ寿司屋でしょ!?



【寿司屋と職人】

寿司を握る以外の仕事を全て任されているかと思ったら、そうじゃなかった。

いなり寿司を包む皮を作るのだけは、専門の人がいた。

その人は、ひたすら皮を作っていた。

皮だけを作っていた。


――世の中にはいろんな仕事があるんだな……。



【寿司屋と最終日】

大学受験のためアルバイトを辞めることになった。

「最後やきだから特別にやりゃああげる

最終日のまかないの時間、大将は刺身を切ってくれた。

マグロの刺身を。

マグロの刺身をカレーの上に。

マグロの刺身をカレーの上にポンと載せた。


――普通に食わせてくれよ!

でも、ありがとう! 楽しかったよ!



おしまい。

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寿司屋とアルバイト 穂実田 凪 @nagi-homita

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