実録! 生鮮寿司が届くまで!!

雪車町地蔵

実録! 生鮮寿司が届くまで!!

「トビコォォォ!? 死ぬなああああ!!!」


 ハンバーグは叫んだ。

 一発の銃声が響き、彼のかたわらで周囲を警戒していたはずのトビコが傾斜していく。

 ぐしゃりと倒れふしたトビコの眉間からは、赤色の細胞液がこぼれだしていた。

 魚卵は加工されていた。

 死んでいた。


「これが、これが人間のやることかよっ!!!」


 悲痛な声でハンバーグは絶叫する。

 彼の周囲には、すでにいくつものむくろが転がっていた。

 マグロ、イカ、サバ、卵……

 あるものはサク状におろされ、あるものは下足げそだけ切り取られ、あるものは酢で〆られていた。あまりに無残で、凄惨な殺害現場だった。


「ちくしょう、ちくしょう……っ、みんな、みんないい奴だったのに! なんでだ……なんでこうなるんだよおおおお!!」


 肉汁を両の眼から流しながら、ハンバーグは問いかける。

 彼の視線の先で、それはにやにやと笑っていた。

 白衣に身を包み、きっちりと髪を整え、白い帽子を被ったその存在は、右手に包丁ナイフを持っていた。

 そして、左手には、おぞましいほどの熱量を有する火炎放射器が……!


「やめろ……それで俺になにをする気だ……? やめろ、やめろおおおおおおおおおおおお!!!」


 ハンバーグの耳をつんざくような悲鳴が上がる。

 その存在は、その音色を心地よさそうに聴いていた……


§§


「へい! ハンバーグ軍艦お待ち!」


 板前は注文通りの寿司を、客の前に出した。


「お、待ってました!」


 客は舌なめずりせんばかりに歓声をあげる。なにせ今まで、彼の目の前でそのハンバーグは、たまらない。

 これまでに大トロ、ゲソの炙り、シメサバ、玉、トビコと平らげていた客は、うきうきとしながらハンバーグ軍艦へと箸をのばした。


§§


 これは、よくある回転ずしのワンシーン。


 お客様に、生鮮寿司が届くまで――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実録! 生鮮寿司が届くまで!! 雪車町地蔵 @aoi-ringo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ