絶対死なないペットってサイコー!

ちびまるフォイ

母:不死身ペットってやっぱりいらない

「ちゃんと面倒みるの?」

「見るよ!」


「途中でお母さんにまかせたりしない?」

「しない!」


この手の押し問答が続いた結果、親が根負けしてペットショップへと向かった。

不死身ペットショップではさまざまな動物がガラスケースに入っている。


「いらっしゃいませ。この動物たちはみな不死身。

 餌をあげ忘れても平気ですし、飼い主のもとを渡り歩いていますから

 人に慣れているのでとっても飼いやすいですよ」


「おかあさん、ぼく、これがいい!」


ぼくは小型犬を指さした。

バカ高い値段の札は見えたけど、子供ながらに見えないふりをした。


「ふふ、この子人気だからね。不死身だから死んで悲しいこともないよ」


「これください」


母親と店員とがやり取りしている間、店の奥にのれんで仕切られた部分を見つけた。


「なんだろう?」


「「 だめ!! 」」


入ろうとすると、店員とお母さんが必死に形相で引き留めた。


「ぼうや、その先は関係者以外立ち入り禁止なんだ。

 特別なペットを売っているからね」


「うん、わかった」


なんで親まで止めに入ったのかよくわからなかったが、

可愛い小型犬が手に入ると、そんな疑問はどこかへ吹っ飛んだ。


「お母さん、ついに、ペットがきたよ!」


「ふふ、まあお母さんは二度目かしらね」


お母さんは前にもペットを飼っていたらしいが、ぼくは始めて。

犬のやることなすこと、何もかも新鮮で楽しい日々が続いた。


犬が失踪するまでは。



「お母さん、クッキーが帰ってこない」


「どうしたのかしら……。不死身だから死んでいるってことはないけど……」


「もしかして、ぼくの家きらいになったのかな? それで家を出たのかな?

 不死身だから、前の飼い主のおうちの方がよかったって思って……」


「心配しないで、とにかく探しましょう」


電柱に貼り紙を貼って、ネットで情報を求めたが見つからない。

ペットショップの人にも無理を言って前の飼い主の住所を聞いて訪れた。


「犬? ああ、でもここには来てないよ。

 つか、前の飼い主は死んじゃってるし、会いたくても会えないんじゃない?」


「だめか……」


不死身なので、先に死ぬのは飼い主のほう。

前の飼い主に会いたくて出て行ったわけでもなさそうだ。


「きっとお腹がすいたら帰ってくるわよ」

「うん……」


お母さんの言葉が不死身ペットには通用しない理屈だとはわかったが、

それでも希望を捨てずに静かに待っていることにした。


不死身なのに戻らないってことは……どこかで捕まって動物実験でもされているんじゃないか。

そんな不安を感じながら。



「わんわん!」




「わんわん!」



聞き覚えのある声に道路に出ると、向かいの歩道に犬が待っていた。

口にはキーホルダーをくわえている。


「あのキーホルダー、ぼくのかばんのキーホルダーだ!」


ペットショップへ訪れた日に、かばんにつけていたキーホルダー。

なくしたことすら気付かなかった。


「お前、まさか、これをずっと探してくれたの!?」


「わん!」


前の飼い主のところに戻ったんじゃなかったんだ。

クッキーにとって、自分が今の飼い主だってちゃんとわかってくれたんだ。


「クッキー! おいで!」


「わん!!」


クッキーは元気に走り出した。





そして、道路を横断するところで、通りがかった重機にひかれて粉々になった。


「あ……」


数秒前まで犬の形をしていた"それ"は、道路にぶちまけられたペンキのように広がっていた。

飛び散った肉片がじょじょに中心に集まって、ふたたび元の形状を取り戻す。


「わん♪」


「え、ええ~~……」


いや、元通りかもしれないけど……。

一度そのグロテスクかつ生命の神秘を感じさせる再生能力を見せられたら、

ドン引きする以外の選択肢はなかった。


あらためて、ぼくの飼っているのがただのペットではないと認識した。


「お母さん、ぼく、いらない……」


「……そうねぇ、お母さんもちょっといらないかも。

 ペットショップに返しにいこうかしら」


ということで、ペットショップへと戻った。

店員は困った顔をしてはいたが、納得してくれた。


「まあ、しょうがないですね。たまにいるんで大丈夫ですよ。

 機会があればまた利用してください。ほかの子もいるんで」


「はい、そうしますわ」






お母さんとクッキーは店を出て行った。


不死身のぼくはペットショップの奥へと返却された。

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