3 ウナギアメ
「ニュルポキンFMラジオ、『タカベエの深夜急行』。今宵も落ち着いたひとときをお届けします。さて、甘ーいお菓子と言えばこちら。東洋一のウナギアメ工場と名高い浜松市の飯場ヶ原工房にやってきました。夜のお菓子として知られるウナギアメはこうして深夜二時から五時までの間、製造されているということです。生中継でつながっています」
「わあー、ええーっ、やだー声も格好いいけどタカベエの本物ー? お父さん写真、写真」
「アットホームな雰囲気で、こうして従業員六名で特産品のウナギアメを作っているわけなんですね。創業は明治六年。当時、昼間は豆腐店として市場に卸していたため、夜間の操業となったわけです。ご主人の敬一さんは六代目ということで、年間約五億粒のウナギアメを製造なさっている」
「きゃーお父さん、リクエスト曲ボンジョビにしましょボンジョビ! イッツマイライフね! ね!」
おぞましいほど空気を読めねえ奴らだなと思いながら起床した。ポータブルラジオから垂れ流される声をBGMに、飲みかけの缶チューハイが床にこぼれている光景が枕元で広がっており、昨夕たまたま近くに脱ぎ捨てたTシャツで拭いた。中途半端な時間に目覚めてしまった。薬を出したミッフィーの絵皿には何故か冷凍の餃子の食べ残しが乗っていて(おそらく寝ぼけて解凍したのだろう)、仕方がないから少しかじってみたけれど、醤油まみれでしょっぱくてレジ袋に捨てた。
今日もまた人が殺される夢を見た。それは会社の同僚だったり上司だったりあるいはたまに行くバーで会う常連客だったりするのだけれど、順番に刺されていくとき私は真っ先に逃げ出して一人しか入れないサイズの箪笥やロッカーに身を隠し、息を潜めて殺戮の一部始終を見守るのだった。善人ぶっているくせに自分大嫌い死にたいと思っているくせに、やっぱり死ぬのは怖いし、他人よりも自分が可愛くて生きたいのだ。
午前三時を回ろうとしている。深夜に似つかわしくない、ボンジョビのロックが流れる。あのリクエスト受け付けられたのかすげーな。工場では今ごろウナギアメ作りながら従業員一同ダンスでもしているのだろうか。
ウナギアメ屋の女みたいな、傍若無人な振る舞いをできる人は何かが欠けているわけでは決してなくて、ものごとを取捨選択する能力があるのだと思う。どう思われるのだろうとか嫌われるんじゃないかとかそういう無駄な不安要素をさばいて排除していく。多分エゴサーチとかしないのだろう。ラインの未読とか既読とかフェイスブックのいいねの数とかチェックすることすらないのだろう。っていうかそもそもSNSやらないと思う。「そういうの苦手だから」の一言で堂々と押し通す、そういうスタンスで。
何も失いたくなくて手放したくなくて、だから私の部屋には物が多い。周囲を気にしすぎるのは優しさでも繊細さでも何でもなくてきっと取捨選択ができないことに起因している。ごちゃごちゃの部屋の中で結局大切な物はどこにしまったか分からなくなって忘れてしまう、その繰り返しで何を得たかというと過剰な自意識。他人を気にすることができる私と自称している痛々しい自意識だ。ささくれ立ったままインスタグラムを開いて、上から順番にいいねボタンを押す作業に取り掛かっている。空が白んでいく。新たに缶チューハイを二缶空けて、明け方の変なテンションのままウナギアメの楽天市場を開いてバラエティーセットをポチって二度寝した。
やじろべえ 五臓六腑ひふみ @5zo6pu123
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