沼にはまったお嬢様系彼女

「やっぱりこのガチャはおかしいと思いますの!」

 おうかが使用済み魔法のカードを投げて悲痛の叫びを上げた。

 この姿を家の人に見られたらきっと大変だ。泡を食うに違いない。


「ねぇピックアップガチャはピックアップされるキャラの排出確率が上がっているんですよね!? それなのに…それなのに…どれだけつぎ込めば山の〇様は来てくださるの!?」

 慌てておうかの口を塞ぐ。それ以上の発言はマズい。


「第六章、第七章と〇の翁様はとってもカッコよかったのですわ! ですから、私が山〇翁様を引くのは義務ですのに………。もしや、課金が足りないのでは!?」

 どうするべきか。ソシャゲ沼に肩まで浸かってしまったおうかを見ていると胃が痛んでくる。


「出るまで回せ…回転率が全て………ですわ…!」

 スマホをタッチしようとするおうかの白い手を、彼女の手を引くことで止めてしまう。

 これ以上の深追いはおうかの人間性と財布を破綻させてしまう。例え、おうかの財布はアンリミテッドなワークスができそうな感じだとしても。


「離してくださいまし! 私は日本の経済を回しているんですの! ファンが買い支えねばならないとあなたが教えてくれたことですわ!」

 確かにそう言った! 言ったが、そこから先は地獄なんだ! 人間性を捧げたとしても目当てのキャラを引く前に破産してしまっては…!


「大丈夫。たとえ私が爆死したとしても、あなたが隣にいてくれるなら、私はきっと人でいられます。だから、私を信じてください。あなたの、彼女を」

 おうかの真っ直ぐな瞳にはなんの迷いも躊躇も無い。それは死地に赴く戦士の目をしていた…!

 ゆっくりとおうかの手を離す。

 おうかの指は躊躇わずにショップを開いた。


「さぁ、逝ってきますわ…!」

 おうかも分かっていたはずだ。

 彼女の指は震えていた。

 ここまで引き続けて、当たりは来ていない。

 それがおうかにどれほどのダメージを与えていたかなんて簡単に想像がつく。

 でも、おうかは諦めない。それでも、と言い続けた心は底の見えない沼の中にあって燦然と輝いて見えた。


「お願いします!」

 この世に神がいるのならば。どうか彼女に幸福を。

 因果の収束を信じるその信心に救済を。


 シャンシャンと鈴の音が鳴り響き、ガチャの結果が表示されていく。

 空虚な鈴の音が無慈悲に駆け抜けていった。


 空振りだ。星四礼装一枚なんて、確率絞り過ぎだ…。

 顔を伏せてしまう。

 こんなことがあっていいのか? 神は机に積まれた魔法のカードの束が見えないのか?


「は、はは…」

 おうか…。この大爆死を彼女は耐えられるのだろうか。


「まだ、まだゲームは始まったばかりですの! 出るまで回せですわ! もう抜け出せないなら、誰よりも深みへ逝ってやりますの!」

 彼女の戦いは終わらない。ゲームは続いていく…。

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ゲームしよ?って誘ってくれる彼女 漂白済 @gomatatsu0205

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