宝箱の中身

 ここはとある迷宮の最奥。一つの冒険者パーティが宝箱の在処をいよいよ突き止め、中身を開けようとしたところ守護者の怪物に襲われている所だった。

 死闘は長らく続き、しかし確実に冒険者達は怪物の軍団を追い詰めており残るは最後の一匹だけとなっていた。

 重厚な刃が空気を切り裂き、魔物の頭をかち割った。

 クリティカルヒット。

 一撃で双頭の魔物である、ツーヘッドライオンの片方の頭が戦士の振り下ろしたグレートアクスの一撃によって砕け散る。続いて、後衛に控えていた魔術師の呪文詠唱が完了し、構えた杖から眩い光が発される。


ライトニングスピア


 閃光が槍状に模られ、光の速度で持って魔物の体を貫いた。胴体に大穴を開けた魔物は最早生きているはずも無く、地面に倒れ伏して動かなくなる。地面には魔物のどす黒い血がどろりと流れ出て広がっていく。

 恐る恐る前衛の勇者、戦士、モンクが魔物に近づいて息を吹き返す事が無いかを確認する。


「完全に死んだな」


「ああ、死んだ死んだ。全く手間ぁかけさせやがる」


「はぁーっ! 流石に疲れましたぞ!」


 前衛三人がへたり込む中、今度は後衛でひたすら隠れて敵の攻撃をやり過ごしていたシーフが姿を現した。


「さて、ここからは俺の仕事か」


 まず彼は倒れた魔物が何かを持っていないか調べる。しかし守護の怪物たちは何も持っていない。


「けっ、しみったれた奴らだぜ」


 元よりそちらはアテにしていなかったが、と捨て台詞を吐きながらシーフは仰々しく豪華に彩られた台座の上に置かれた、鍵付きの荘厳な装飾が施された宝箱に向かっていった。懐から鍵開けのツールを取り出し、極めて慎重かつ繊細な指捌きで鍵の形状とトラップがどのようなモノかを探り、鍵開けの技術を披露する。

 その作業はパーティの生死を左右する極めて危険なものだ。他のパーティメンバーは固唾を飲んでシーフの作業を見守っていた。シーフの額から汗が流れ、手にも汗がとめどなくわき出てくる。都度手ぬぐいで彼は汗を拭き、逸る気持ちを押さえて作業を続ける。途中で宝箱の罠に気づき、仕掛けられた警報の罠の解除スイッチを押し、後は鍵を開けるだけとなった。

 

 開錠ツールが鍵穴のくぼみを探り当て、シーフがツールを半回転程捻るとカチリと宝箱の鍵が開く音が辺りに響いた。


「さて、いよいよお宝とご対面だぜ」


 喜色満面の笑顔でシーフが宝箱の蓋を開く。


「……な、なんだ、こりゃあ?」


 中に入っているものを見て、冒険者一行は大いに戸惑う。

 宝箱の中に入っていたのは、一つのカセットテープだった。

 テープには「DJマオウ_XXXX/07/25」と記録されている。それ以外には宝箱には何も入っていなかった。


「一体何なんだ、これは?」


 勇者がテープを拾い上げ他のメンバーに尋ねるも、誰もこれを知る者は居ない。

 辛うじて魔術師が答えを捻り出す。


「……何らかの記憶媒体、のような感じはするが」


「記憶媒体か……。それなら再生するものがあるはずだ」


 僧侶が更に答える。

 シーフはあからさまに金目のものでないので既に興味を失っていた。

 

「しかし魔王という単語が入っているからには、何か重要な記録がこれに入っているに違いない。再生する何かを探しに行こう。魔王を倒すためのヒントになるはずだ」


「けーっ、どうせならもっとこう金目のものが入ってりゃあ良かったのによ」


 シーフの愚痴に戦士が肩を叩きながら慰める。


「この遺跡は元々墓荒らしに何度も荒らされてて有名な場所だって聞いてたろ? 宝に期待なんかしてもしょうがねえって。それによ、この遺跡を安全にしてほしいっていう仕事は十分に果たしたんだ。依頼人の金払いは良いんだからそれで我慢しようぜ」


「おい! そろそろダンジョンから抜けるから皆こっちに集まってくれ」


 魔術師が脱出の魔法を唱えると、勇者一行は地上の迷宮入り口へと転移した。

 そして彼らは次なる目的に向かって歩き出す。

 カセットテープの内容を再生できる機器を探す為に。


 ……その後、彼らがテープの内容を聞くことができたかどうかは、定かではない。

 

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DJマオウ 綿貫むじな @DRtanuki

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