二の三【願いと消滅】

 到着した目的地は、憩いの桜並木と呼ばれるところだった。ここでカメラを構えている男と話をしろと言われた。

 少し歩くと、その男はファインダーをのぞき込みながら、同じくらいの歳に見える少女と話していた。彼は近くの高校の制服を着た学生のようであるから、男と呼ぶよりは少年と呼んだ方が適しているかもしれない。

 「すいません、ちょっとお時間いいですか」僕は早速話しかける。

 「はい、何でしょう」僕は少年に話しかけたつもりだったのだが、しょうじょのほうが反応してしまった。

 「彼の撮る写真に興味がありまして、どんな写真が撮れるのだろうかと」想定外の出来事だったが、彼と話すために嘘をついた。僕は写真になんて興味はなかった。

 「祐君、この人君の写真に興味があるんだって。見せてあげれば。君の写真はすごいんだから!」彼女は興奮したように彼に言った。

 「何かの取材かなんかですか?僕、もう少し撮りたいんでもうちょっと待ってくれますか」彼はファインダーを覗きながら答える。

 しばらくたって、彼は「立ち話もあれなんで、あっち行きましょう」と言って僕を遊湯公園というところに連れて行った。

 「実は写真について聞きたいわけではないんです」煉瓦で出来た段差のところに三人で座ると、写真には興味はないと僕は言い、僕は彼に聞いた。「単刀直入に聞きます。山梨県は好きですか?」

 彼は驚いたような顔をした後、すこしかんがえてから答えた。「好きじゃなかったら、あそこの写真なんて撮っていない」と。

 「でも、このままでは山梨は消えてしまう。本当に山梨を残したいなら、君が動かなければならないんだ」

 「消えるってどういうことなんですか」

 話す気はなかったのだがこのままでは、彼の気持ちが変わることはないと考え、山梨県森林化作戦のことを全て話した。

 「祐君なら大丈夫だよ」さっきまで食べていたアイスのゴミを捨てて、戻ってきた彼女が言う。「興味ないとは言ってたけど、彼の写真見てごらん。」

 彼女に促されて、彼はファイルを取り出す。【春】というラベルの貼られたそれの中にはたくさんの写真が入っていた。

 「一番よく取れた写真なんです」そう言って私にファイルの中から一枚の写真を僕に渡してくれた。「こいつにも協力してもらって撮ったんです」そう言って、隣に座る彼女を指さした。

 「祐君は、山梨が大好きなんですよ。この間なんて、山梨にある全部のお寺をこのカメラに収めるとか言って、山梨中を巡ってたんですよ!」私は出来ないなぁと彼女は楽しそうに言う。

 「そうか」しかしそれは私が来る前に起きたことだ。たとえ山梨中を巡ったとしても、山梨を好きなことの証明にはならない。

 「それに、その写真見たら分かるでしょ」渡された写真は月をバックに桜を見る少女を写したものだった。少女の写り方も綺麗だったが、それ以上に月夜で輝く桜が美しかった。

 「綺麗だ。本当に美しいってのはこういうことなんだろうな」

 「でしょ。だから祐君は大丈夫。ね、祐くん」彼女はそう言って少年を見た。

 「彼女と出会えたのも、この山梨の自然のおかげなんです。だから、」彼は突然立ち上がって言った。「だから、何が起きても僕は山梨を守ります」

「本当か」

「本当です」

 「そうか、良かった。本当に」感情のロックがまた消え始めているのが分かった。僕は、泣いていた。「守ってくれ、この美しい自然を、この風景を、この音を」

 「当たり前です。きっと守りきって見せますよ」僕が消えても、心のどこかに彼のその誓いは残るだろう。そう、沙織さんは言っていた。「何が起きても、二人で守ります」

 「ありがとう。僕は、この時代ここにこれて本当に良かった」そろそろ消えてしまう予感がしたため、私は立ち上がった。「では、そろそろ私は帰ることにするよ」

 帰るところなど無かったが、そう言うしかなかった。

 「はい、またどこかで」そう言って彼らも去っていった。

 消えることはあまり怖くなかった。ここで消えることを幸せに感じたからだ。でも、涙は止まらなかった。この涙が、嬉しさからくるのか、悲しさからくるのかは分からない。所詮はロボットだ。分かるはずもない。

 祐というあの少年が将来山梨の何に関わるのか知らないが、きっとあの心があれば大丈夫だろう思った。機械の体を持つ私は、人間のプログラムの中でしか生きられないが、彼は何にも縛られないで生きることが出来る。彼の思いが山梨を、日本を救うのだ。

 消えてしまうことの、唯一の心残りは僕が去った後に聞こえた言葉に疑問を持ってしまったことだ。

 確かに彼はこう言った。「沙織、これから二人で守っていこうな」

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山無県 幻典 尋貴 @Fool_Crab_Club

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