二の二【富士山と哀しみ】
三恵の大ケヤキから離れ、歩いているとふと思う。この時代の富士山というものはどのようなものだったのか、と。
かつて、TRー064が富士山について熱弁していたのを思い出したのだ。
「今は模型しか残っていないが、昔はすごかったんだ。全国の観光者が富士山を登ったんだ」
そんな様なことを言っていた。僕はそのとき彼に、どうしてそれが今はないのかと聞いたが、彼は知らないと言った。どうしてあのとき、彼が悲しそうな顔をしていたのかは分からない。
とにかく、彼がそんなに熱弁していたものを見てみたくなったのだ。遠くから見るのも良いとも言っていたので、探してみる。
いや、探す必要はなかった。南の方を見上げたとき、すぐにそれはあった。
山梨県森林化作戦が半分くらい進んだ時から、日本中の山が消え始めたのだが、どんな技術を使ったのかは僕にも、沙織さんにも分からない。だから、私は静岡の土地にある記念館のロボットと一緒に飾ってある、一四四分の一の模型しか知らないのだ。
しかし、今見えているものは全然違う。とても美しく、きれいという言葉では言い表せれないものだ。
もしかしたら、日本人はすでにこの山を見飽きて、ただの背景としてしか見れなくなっていたから、この山も潰してしまったのかもしれない。
それでも、外国人からしたら左右対称でできあがったその形は、他の山とは全く違って、珍しく新鮮味があっただろうのに。
イメージとしては日本とイコールであった富士山を、潰すのはどんな気持ちだったのだろうか。
その疑問は、僕の哀しみから生まれたものだった。
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