エピローグ
エピローグ
十一月初旬、もうそろそろ肌寒くなってくる季節だった。
コートを着て、首にヘッドフォンをかけた川蝉は成田空港にいた。ガラス張りの壁からは日の光が存分に入ってくる。
そしてロビーの椅子で、妹の優季と二人で並んで座っていた。
優季は文庫の本を大人しく読む。
大した会話もなく、ただ時間だけが過ぎていく。
だが川蝉にはそれでよかった。こうして二人で外へ一緒に出かけられただけで十分なのである。
「じゃあそろそろ行くから」
そう言って優季は立ち上がった。
川蝉もそれに従って腰を上げた。荷物の詰まったキャリーケースを引いて、ロビーからゲートの方に移動する。
そして目的の場所まで行くと川蝉は足を止めた。
「チケットは持った?」
「持ってる」
「向こうでは付き添いの人の言うことをよく聞くんだよ」
「そんくらいわかってるよ、ガキじゃねえんだから」
「何かあったらすぐに連絡してくれ」
「…………うん」
優季は気まずそうに俯いてそう答えるだけだった。
そしてキャリーケースを引ったくるように川蝉から取っていった。
それを持って移動しようと川蝉に背を向け、歩き出す。
だが何故か優季はすぐに足を止めて、振り返ってきた。
頬を若干赤くさせ口を目を反らしながら開く。
「あ、あのさ……」
「何だ?」
「あ、ありがとね、何かいろいろ」
「当然だ。家族なんだから」
「……い、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
優季は今度こそ歩き出していった。
人混みの中、見えなくなるまで川蝉はずっと妹の姿を見守る。
――ありがとうか。
そんなことを言われたくてやったわけではないが、いざ言葉にされると照れ臭いものがあった。
それでも、とても嬉しかったのは間違いないだろう。
優季が海外へ旅立つ一方で、川蝉は国内へ残る。
まだ借金がたんまり残っている。
これからもダンジョンに潜り続けることになるだろう。
しかし後悔はない。
また優季がこの地に健康な体で足を踏むまで戦い続けるのみである。
川蝉は踵を返し、また東京の街へ戻っていくのであった。
終わり
東京ダンジョンEE リンゴあきと @akihito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます