第2話 家出少女を拾った

 打ち所が悪かったのか、目を回していた少女は中々目を覚まさなかった。露出の多い服装で倒れているのは少し可愛そうな気がして、ティホは自分の外套を少女の上にかける。

「おーい、どうだぁ!?」

「はぁ……今日も閑古鳥が鳴いてますよ、親方」

 魔族との武力による対立は終わった。武器を必要とする者は減り、さらに、親方ことガウスのポリシーで善からぬ者には商品を売らない。人を選んでいる。よって、売り上げは上がらず底辺をさまよっていた。

「そういうこともあるさ!」

 ガウスはガハハと大声で笑った。最近の売れ筋は、武器というよりもハサミや包丁などの日用品だ。それでもガウスが腕利きなのは有名で、特注品などの依頼もある。それで今日までティホは、どうにかこうにか生活していた。

 店の入口の布をくぐったガウスの目にまず入ったのは、青銅色の外套の下に隠れている少女の姿だった。

「店の前で倒れてたんですよ。俺がここを離れるわけにもいかなくて。ただ、気を失ってるだけみたいです」

「……ふむ。確かに顔色は悪くなさそうだ」

 少女の肌は透けるように白いが、頬は仄かに薔薇色に色づいている。息遣いも穏やかだ。

 ズン!

 ガウスは無神経にも、少女の横たわっている箱の横におもいっきり体重をかけて腰を下ろした。

 プゥー

「……。親方、堂々と屁をこくのはやめてください。マジで」

「ガハハ!生理現象だ。健康な証拠だぁ!」

「……うぅ」

「「?!」」

 か細い呻き声が聞こえた。

 青銅色の外套がモコモコと動き始めたかと思えば、勢いよく外套が放たれた。

「何なんだこの臭いはー!!屁の臭いがする!!さてはお前か!」

 それとほぼ同時に、幼い声で捲し立てるような口ぶりで、少女は人差し指をティホに向かって突き出した。

「や、俺じゃないから。そこの親方だって」

「……む。この薄汚い毛むくじゃらがそうか。得心した」

「ワシ、何気にすごい罵倒されたんだが」

「……ふん。まあいい。どうやら成功したようだな」

「何が?」

「華麗なる牢獄からのエスケープ作戦だ」

「牢獄?何か悪さでもしたのか?」

「勘違いするな。あの家はワタシにとって牢獄でしかない」

「あ、なるほど。つまり、……家出少女か」

「そんな安っぽい言葉で済ませるな!」

「で、嬢ちゃん、家はどこだ?優しいおじさんが送ってってやるぞー」

「寄るな毛むくじゃらがっ」

 道端で拾ったのは、どうやらとんでもないじゃじゃ馬だったようだ。

「あの、せめて名前くらい教えてよ。俺はティホ」

「む……?名前?ワタシの名は、アムだ」

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家出少女の頭には、小さな角が隠れていた 冬乃羽 @fuyuno_kiku

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