久しぶりに一人称小説を読んだ気がする。もちろんそれは単に「一人称で書かれた小説」という意味では無い。視点人物と一体化して、視点人物の感じることを視点人物の感じるままに、鮮明に違和感なく書けている小説を読んだということ。
内気な少年の片思いを綴った青春恋愛小説。エンターテイメント的に読者を引き込む要素は薄いのに、その生々しさに圧倒されて気がつけば全部読み終えてしまう。作者プロフィールを確認して納得。高校生だった。往々にして大人が書く「青臭さ」にはその言葉に含まれているはずの「臭み」がなくなってしまうものだけれど、この作品にはそれがしっかり残っている。灰汁抜きを済ませていない苦み走る状態で食卓に並んでいる。そういう料理をきちんと食べられる状態で提供してくれる若いシェフは、なかなか貴重だ。
創作に年齢の話を持ち込むのはあまり好きではないが、ここは素直に将来が楽しみだと言わせて貰いたい。長編になると単純な感性とは全く違う力が要求されるのでどう転ぶかは分からないけれど、応援しています。
悶々とする「僕」の思考は、
臆病で後ろめたくてずるい。
けれど、歪んでいると表現するには、
あまりにもみずみずしい。
青春、という気恥ずかしい時間が
なまなましく描かれている。
ぐしゃっと握ったらアッサリ壊してしまいそうで、
思わず息を殺して読んだ。
男子校に通う演劇部兼文芸部の「僕」と、
演劇つながりで知り合った女子校の野村さん、
そして「僕」の親友である演劇部部長の小林。
気が合う仲良し同士の、水面下での三角関係。
「僕」の誰にも言えない習慣、野村さんの嘘、小林の嘘。
よくある話だよねなんて、少年の繊細さの前では決して言えない。
自分の心の一々を敏感にセンシングする「僕」の筆致は、
きっと「僕」にしかできない。すごく好きだ。