第6話 バリィさん
「えーと、確か結構有名なんだよね……」
「2012年ゆるキャラグランプリ王者だよ」
ここまでヒントを出されて答えられない私じゃないよ!確かその前の年の王者がくまモンだったんだよね。その次って言うと……えぇと……。
「えっと……あ、そうだ、バリィさん!」
「当たり!ほら、今治駅にもバリィさんの像があるんだ」
うさぎはそう言って私を今治駅に案内した。今治駅は近年建て替えら得たまだ結構新し目の駅だ。高架になっていて電車に乗るには階段を登っていかないと行けない。そんな駅ではあったけど、悲しいかな自動改札はまだ設置されていないのだった。
バリィさんの像はその駅の中にあった。構内にでーんと構えているのではなく、ちょうどいい手頃サイズでちょこんと鎮座している。
「丸っこくてきぐるみより可愛いね」
このバリィさんの像、よく見かけるきぐるみやイラストとはまた造形が違っていて独特の味があった。この像のバリィさんはとにかく丸っこくて可愛さで言えばイラストやきぐるみより可愛い。普通こう言うのって似せて作るものなんだろうけど、ここまで違っても許せてしまうのもまたゆるキャラならではなのだろう。
「今治はバリィさんで溢れているんだよ」
バリィさんは元々今治観光協会の依頼で作られたホームページ用のキャラクターだった。そして、その人気が高まっていく中でどんどん市内にコラボする業界が増えていく。
やがてあちこちでバリィさん関連商品やらバリィさんラッピングやら看板やらが増え、市内はいつの間にかバリィさんだらけになっていた。
ゆるキャラ王者の可愛さにメロメロになった私も何か記念にとグッズをひとつ買う事にする。
「ぬいぐるみをおみやげに買って帰ろうっと……はッ!」
「どうしたの?」
バリィさんぬいぐるみを買って浮かれていた私だったけど、ここで重大な事を思い出した。うさぎは相変わらずの態度で危機感すら持っていない。
脳天気な彼に私はちょっとイラッとしながら強い口調で言い放った。
「帰り方だよ!どうやったら帰れるの!うさぎは何か知ってるの?」
「ふふ……知りたかったら僕を捕まえてごらん~!」
「あ~っ!待て~!」
うさぎはやっと気付いたかと言う顔をしてピューッと逃げていく。無我夢中で追いかけると、やがて彼の周りに次元の穴が広がり始めた。その穴はいつの間にか私を包み込んで――そして――。
「あれ……何だ夢か」
気がつくと私は自分の部屋のベッドの上にいた。どうやら長い夢を見ていたような……そんな気がする。寝起きでぼやけた意識のまま、私はさっきまでの体験を反芻した。
「でも今治かぁ~。結構魅力的な街だったな。いつか行ってみたいな」
そう言った私の側にはバリィさんぬいぐるみが転がっているのだった。
ちなみにタイトルが不思議の今治のアリスになっていますけど、全然不思議じゃなかったですね。そこはどうか大目に見てくださると有り難いです。
不思議の今治のアリス 完全版 にゃべ♪ @nyabech2016
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