第5話 今治焼き鳥
「よく気付いたね。今治はかつて人口における焼き鳥屋の割合が日本一と言われていたくらいなんだ」
「えっ、そうなんだ。そう言うイメージはなかったなぁ」
焼き鳥屋さんって人口の多い地域に一番お店が多いものと思っていたよ。意外なぁ。この街の人って焼鳥がそんなに好きなんだ。
私が新たな今治の特色に感心していると、またしてもうさぎが得意顔になって話しかけて来た。
「今治の焼き鳥はちょっと他では見られないんだよ?ちょっと入ってみる?」
「ここまで言われたらね」
うさぎの話に乗っかって、私達は数多くある焼き鳥屋さんの中のその一軒に入る。彼は慣れた感じで店主に注文した。
「親父さ~ん、皮二人前!」
焼き鳥屋さんにしては聞き慣れないメそのニューを聞いて、私は思わず聞き返した。
「皮?」
「そ、これが今治名物なんだ」
うさぎはそう言ってニヤリと笑う。やがて彼が注文したその皮が私達の前に運ばれて来た。その焼鳥を見て私は驚愕する。
「うわ、串に刺さってない!」
「な、焼き鳥の概念を崩すだろ?」
私達の前に運ばれて来たそれはお皿の上に敷き詰められたキャベツとその上に乗った沢山の焼かれた鳥の皮だった。確かに鶏肉を焼いているから焼き鳥ではあるけど――こんな"焼鳥"を見たのは初めてだった。見た目は鳥の皮炒めだけどさて、味の方は……私は取り敢えずそのひとつを口に含む。
一口サイズの皮のパリパリ食感が心地良い。タレの味付けも悪くないし、キャベツと一緒に食べると言うのも新鮮な感覚だった。
「あ、美味しい。皮とキャベツの組み合わせもいいね」
私がこの焼き鳥を堪能していると、その様子を眺めていたうさぎがまたうんちくを披露する。
「今治は造船の町で鉄板が手に入りやすいからこうなったらしいよ。一説には今治市民は気が短いから早く焼き上がるこの方式になったんだとか」
串に刺す焼鳥じゃない理由はこの街の産業構造にあるのかあ。この形式の焼き鳥が他地域に広がっていないのはそう言う理由もあるのかもね。そして今治に焼き鳥屋さんが多い理由もまたこの特別な焼き鳥のせいでもあるんだろうな。
気がつくと私は一皿をぺろりと平らげていた。これ、食べやすいからいくらでも食べられる気がする。きっと大人の人はお酒と一緒に食べるんだろう。
店内はそう言った感じの大人達が沢山いて美味しそうにこの焼鳥を食べていた。
勿論鉄板焼じゃなくて、串に刺す方の炭火焼の焼き鳥もメニューにあるところはちゃんと作っている。
でも今治の人はこの伝統の焼き鳥が大好きなようだった。地元の味だもんね。
「ふー、まんぷくぷー」
焼き鳥を堪能した私達は満足して店を出る。店を出てすぐにうさぎはまた得意顔で私に声をかけて来た。今日何回目よこれ。
「焼き鳥と言えばさ、この街のゆるキャラって知ってる?」
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