第4話 今治城

「お城?今治にもお城があるんだ」


「今のお城は作り直したものだけどね。結構立派なお城だよ」


 私は特に城マニアと言う訳でもないけど、お城を見るのは結構好きだった。特に春の桜とお城の組み合わせは最高だと思っている。今治のお城がどんなものかは行ってみないと分からないけど、うさぎが立派なお城って言うからにはちょっと期待しちゃおうかな。


 私は彼についていきながら、この街の風景を色々見回していた。ここもまた見た目にはよくあるような地方都市で、そう言う街に有りがちな問題を抱えているように見えた。そう、街に余り活気が無いのだ。ちらっと見た商店街は淋しそうだし、シャッターの閉まっている店舗も多数目に入っていた。

 各地方都市はこの問題を解決させようと街興しに躍起になっているけど、この今治もまた色々頑張っているんだろうな……。


「じゃーん!これが今治城!」


「おおっ!」


 うさぎの案内のままに歩いていると目の前にお堀が現れた。ほう、堀付きのお城とは結構立派じゃないですか。お堀に囲まれたそのお城も結構立派な天守閣を備えた本格的な佇まいをしている。予想以上のお城の登場に私の胸も軽く踊った。それから私がその堀とお城を交互に観察していると、お堀の水面からぴょんと魚が跳ねる。


「あれっ?魚が」


「このお堀の水は海水なんだよ。あの魚は海の魚」


「へぇ~。珍しい……ん、だよね?」


 私はちょっと自信なさげに答える。大体、城マニアじゃないから詳しい事は何も知らないんだよね。


「珍しいよ。中でも今治城は日本三大水城のひとつに数えられているんだ」


「ほ~それはすごい」


「海と繋がっているからこのお堀でサメやエイが泳いでいて話題になった事もあるんだ。タイやヒラメなんかもいるらしいよ」


「ほえ~、何かすごいね」


 何だこの私の感想。語彙知らなさ過ぎる……。

 でもそれだけ色んな魚が泳いでいたりするって事は瀬戸内海が豊かな漁場だって言うのもあるんだろうな。お堀だけでもここまで私を楽しませるとは、恐るべし、今治城。


「折角だし、入ってみようか」


 うさぎに促されるままに私達は今成城へ。再建されたお城だけあって、中には現代的な施設がちらほらと目に入った。このお城だって中身は鉄筋コンクリート製らしい。城内には天守閣や多聞櫓・武具櫓などの城お馴染みの建物の他に神社とか、何故か動物を飼っているスペースなんかもあったりして。

 そんな訳で外側を見て回るだけでも結構面白い。


「これが今治城を築城した藤堂高虎の像だよ」


 お城の広場の見栄えのいい場所にある像を指差してうさぎは言った。なるほど、勇猛果敢な感じで立派な像だ。武将についても詳しくないけど、この人はきっと立派な人なんだろうな。お城とその像が似合っていて、しばらく私は見とれていた。


「立派なもんだねえ」


「この今治城、日本百名城のひとつに選ばれているんだよ」


 このうさぎの言葉にほうっと関心もしたけど、またしてもちょっと心に引っかかるものがあった。


「でも日本のお城ってそこまで数多く建てられてないんじゃ……」


「ところがどっこい、城跡なんかも含めれば日本には2万以上もお城があったらしいよ。……残っていないのも多いけど」


「あ、そっか。この今治城も再建したものだしね」


 総合的に考えると名城に選ばれるのはそれだけお城が評価されたって事なんだろう。そこはもう深く考えない事にした。


「じゃ、入ってみようか。お城」


 再建されたお城の中身はどんなものだろうとちょっとワクワクしながら入場料を払って入場すると、そこにあったのは郷土資料展示施設だった。

 外見こそお城だったけど、中身はその中で武将が活躍出来そうな感じではないみたい。ちょっと残念、かな。展示されている武具やら書画やら全国城郭写真やらの資料を見物しながら階段を上がっていくと、やがて最上階に辿り着いた。


「ここらからの眺めはいいね~」


「やっぱりお城に入ったら最上階からの景色を眺めないとだね~」


 最上階の展望台からの眺めは今治市内を一望出来る素晴らしいものだった。私達はその絶景をしばらく堪能する。気分はまさに一国一城のお殿様だった。


 それからお城を出た私達は市内の商店街の銀座を歩いていく。さっき城に向かう時に歩いていてちらっと目に入っていたシャッター店舗が私に現実を見せつけている。多少はこの商店街に貢献しようとも思ったけど、望んでやって来た訳じゃないのでちょっと財布の紐を緩めるのは難しかった。


「今まで見て来てどうだった?」


「うん、結構見所が多くて面白かったよ」


 歩きながらうさぎが話しかけて来たので私はそう答えた。ここに来るまで今治って特に何のイメージもなかったけど、ここまで見て回った事でこの街に結構詳しくなったような気もする。どんな地域でも、来てみると何かしらその地域らしい素晴らしいものがあるんだなあ。

 それから市街地を歩いていて色んなお店を見ていた私はある事に気が付いた。


「そう言えば街を歩いてみた感想なんだけど、結構焼き鳥屋さんが多くない?」

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