小泉八雲のいた街 新大久保
皆中きつね
第1話
54年ぶりの11月の積雪となった2016年11月24日、日本経済新聞に以下のような見出しが躍りました。
「小泉八雲は二重国籍? 英国、離脱認めぬ書簡」
最近なにかと話題になった二重国籍ですが、小泉八雲の場合はどのような事情だったのでしょうか。
愛知学院大の竹下修子教授の調査結果によると、小泉八雲の日本国籍取得は日本側の書面提出だけでよかったのですが、対する英国側は国籍離脱に応じない姿勢だったそうです。国籍を与える日本と国籍離脱を認めない英国の対応の結果、小泉八雲は二重国籍だったのではないか、との事であります。
アイルランド人の父とギリシア人の母との間に生まれたラフカディオ・ハーンは、アイルランド、フランス、アメリカと移り住み、そして来日してして小泉八雲となるわけなのですが、日本に来ても彼はなかなか一つ所に定まらず、島根県の松江、熊本、神戸と渡り歩き、そして東京で
小泉八雲の終焉の地は現在は小学校となっておりまして、校門前に「小泉八雲旧居跡」として石碑が建てられています。そのすぐ傍には「小泉八雲記念公園」があって、公園の一角に立つ小泉八雲の胸像の周りは今日も花々に覆われているのでありました。
と書くとメデタシメデタシなのですが、臨終の地は東京府豊多摩郡西大久保村、現在の東京都新宿区大久保なのです。すぐ目の前は歌舞伎町というロケーション。周辺には意外と個人住宅が多かったりするんですが、住むには何かと大変そうであります。
小学校と記念公園の間にある道路を北上すると大久保通りに出ます。
この大久保通り周辺は、近年大きく変化しました。
2000年より以前、この辺りは夜間非常に治安が悪かったのですが、例の韓流ブームのおかげでずいぶん通りも明るくなりました。
「冬のソナタ」以降、韓流ショップが一気に増殖しましたが、今はそれも落ち着いてきました。韓国から来た旅行者がぼったくりに気づいて声をあげたり、海賊版を販売していた業者が逮捕されたり、まあいろいろありました。とにかくにぎやかで落ち着かない街です。新宿のど真ん中にあるのに、人口日本人密度がおそろしく低いのもこの街の特徴です。
通りに立ち並ぶ外国人経営の店舗、最近は韓国人や中国人だけではなく、ネパール人の店やハラル認定品を扱うイスラム系の店も増えてきています。新大久保駅を出て高田馬場へ向かう一角はイスラム通りと呼んで差し支えないほど。いやホント、なかなか多国籍で刺激的です。通りを行き交う多用な人種と漂うエスニックな香辛料の香りは、ここが日本だということを一瞬忘れさせます。
朝、新大久保駅そばのマクドナルドには、一体どこにいたのか不思議なほど、白人系の外国人が注文の列を作ります。家族連れが多く、旅行者なんだなとすぐわかる。
彼らは民泊と呼ばれる宿泊施設を利用しているんですね。ホテルに比べたら半分とか3分の1の金額で泊まれるらしく、利用者は増加している模様。ガラガラと音を立ててトランク引きずりながらスマホ片手に歩いてる外国人が、マンションの前で「あ、ここだ」という顔でエントランスに入るのをよく見かけます。マンションの一室が民泊になってるんでしょうね。法的にはどうなんだろ?
また、新大久保駅では、構内の音声案内が日本語だけでなく様々な国の言葉で流れます。新大久保の日本語学校に通う生徒たちの協力の結果、現在は24ヵ国語でアナウンスが流れるというのだから、成田空港以上かもしれない。
この辺りの不動産屋に貼ってある賃貸物件を見るのもまた面白い。通常の街なら「ピアノ可」「ペット可」「飲食店可」の但し書きがあったりしますが、この辺りでは「外国人可」「福祉可」「風俗店可」だったりする。
投げつけられたカラーボールのオレンジ色の塗料が道路にぶちまけられていたり、開店前のパチンコ屋の前に血溜まりができていたりと、日本人からしたらまだまだ治安が良くないかもしれない新大久保周辺ですが、他国の人からしてみたら夜間も安心して歩ける安全な街です。これでシャワーと冷暖房完備の安い宿泊施設があれば、そりゃ利用するでしょう。なんせ隣は新宿駅です。便利極まりない。
新大久保駅そばには、江戸時代より信仰を集める
私が見てきた間だけでも、この街もいろいろ変わりました。
新大久保駅は現在大規模な改修工事中です。完成予想図を見ると、これまで1つだけしかなかった改札が複数になり、小型の駅ビルも併設させるようです。完成は2019年の予定ということで、改修決定には2020年の東京オリンピックの存在があったのでしょう。
小滝橋通りにあった録音スタジオ「タバック」も無くなりました。
大久保駅そばに、道教の神「
小泉八雲が亡くなって100年以上過ぎた新宿新大久保近辺。
当時も今も、日本を訪れる外国人は、期待していた日本の姿が喪われつつあることに失望したかもしれません。それでも、来日する外国人が減ることが無いのは、我々日本人が気づかない「これこそが日本」という何かを、見つけてくれているからかもしれません。
小泉八雲を看取った大久保の地は、これからも数多くの「日本を探しにくる外国人」を受け入れるインターフェースの役割を果たしていくのでしょうね。来日した彼らが新たな日本を発見してくれることを、切に願います。
小泉八雲のいた街 新大久保 皆中きつね @kit_tsune
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